序文

妊娠，分娩，産褥などの正常経過においてもときには一定の条件や環境の下で起こる異常事象の存在は常にある．

1950年，本書を出版したのは著者の恩師である真柄正直教授であった．産科学においても真柄正直教授は正常事象を知ることなしに産科の異常現象を把握することができないと考えた．また真柄正直教授は常に変遷する産科学の流れに追従すべく最新産科学を指南書とするため「正常編」と「異常編」に分けて上梓した．そのためわが国の産科学の領域の教科書としては画期的な指南書として世に認められるに至った．

本書は初出版から数えて70年有余を迎えた．いつの時代でも漸進な内容を盛り込むべく，改訂に改訂を重ね遂に改訂版として第22版となったが，医学の進歩は日進月歩の速さで止まる所を知らず，本書に最新の知見を盛り込むため第23版をここに上梓した．

本書第23版の上梓には，新進気悦の日本医科大学産婦人科学教室，鈴木俊治主任教授の手を煩わせた．その甲斐がありより新鮮な最新産科学「正常編」の上梓と自負している．

また，第23版の出版にあたっては従来からご援助を頂いている日本医科大学小児科学教室，島義雄教授にも感謝の念を捧げたい．

また第23版の出版にあたって，文光堂の浅井麻紀社長のご援助に深謝する．

霖雨に打たれ舗道に散りゆく落葉に自然は四季の移り変わりを知らせてくれる今日この頃に……

荒木　勤

改訂にあたって

最新産科学「正常編」の初版発行は1950年ですが，著者が初めて手にしたのは1986年の大学5 年生の時でした．著者は本書から周産期医学の面白さを教わり，日本医科大学産婦人科学教室に入局することを心に決めたのですが，本書に心を惹かれた理由は，本書が新しい知識を羅列しているだけでなく，過去の検査法や診断法，そして治療法などが大切にされながら現在の周産期医療の進歩につながっている温故知新に基づいた産科学体系としてまとまった一冊であると感じたからです．そのような背景もあり，それから30年以上たった今，第23版を荒木　勤日本医科大学名誉教授との共著でみなさまにお届けできることを心から嬉しく思います．

「正常編」においては，妊娠の成立から妊娠中の母体の変化，胎児発育，正常分娩の機序，そして産褥期に留意すべきことなどを，最新の知見をとりいれてまとめなおしました．また，近年では，社会全体で子供を守り育てていくために，ポピュレーションアプローチとして妊産婦が愛情をもって子供を大切に育てられる環境を支援できることがより重要視されていることから，「妊婦健康診査と周産期メンタルヘルスケア」の項などを追記しております．そのため，本書は，これから周産期医学を学ばれる方だけでなく，最新の周産期医学の傾向を模索されている方などにも満足していただける一冊であると思っております．

最後に，著者らの乱文乱筆をきれいにまとめてくださり，第23版の刊行にご尽力いただいた文光堂のみなさまに深甚な感謝を捧げたいと思います．

日本医科大学女性生殖発達病態学大学院教授
鈴木俊治