症候障害学序説

  • ページ数 : 111頁
  • 書籍発行日 : 2006年5月
  • 電子版発売日 : 2021年9月17日
1,980
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商品情報

内容

チーム医療の中で,医師でもなく,看護師でもなく,その他諸々のコメディカル・スタッフとも異なる理学療法士のアイデンティティ,専門性を深く追求すると,そこに症候障害学の地平が広がってくる.機能的制限としての動作の観察や分析を基軸とした,症候学的および障害学的な双方向の思考を展開・転回する症候障害学的な臨床思考過程こそが,すぐれて理学療法的な臨床思考過程である.

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序文


医療の基本概念は,主に健康状態の変化をきたした対象者本人と家族の健康行動の変容を支援していくものである.

対象者が中心で主体的な健康行動を支援する過程では,医療者は必要事項を対象者にわかりやすく説明し,対象者の理解と選択のうえで,十分な同意を得ながら進める必要がある.その基本姿勢として,良好なコミュニケーション,客観的な根拠の提示,チーム医療が適切に実施されていることなどが重要な条件としてあげられる.

また,透明性と説明責任を果たす意味で,根拠に基づく医療(evidence basedmedicine:EBM),物語に基づく医療(narrative based medicine:NBM),対象者参加型の診療ガイドラインの作成などが推進されている.

近年の情報社会にあっては,最新の研究知見や医学的知識は即座に対象者の手

元に届き,豊富な知識を有する対象者や家族も少なくない.他方,医療者の説明や医療行為はわかりにくく,対象者が主体的な選択や適切な行動ができないと指摘される現状があることも否定できない.対象者自身の状態や医療行為を理解するためには,個々の知識をもつだけでは十分とは言えず,医療者はむしろ解釈のしかたや意思決定の手段を明確に伝える必要がある.

そのためには,まず,医療者自身が自己の医療行為を視覚化し,各医療者の専門性や特性を明確にすることが不可欠と言える.正確な専門用語,客観的な臨床評価指標,適切な帰結評価や効果判定とともに,医療行為の基盤となるモデルや臨床思考過程を明確にすることが望まれる.医師の医療行為は,症状の原因となる病態生理や病理学的変化とともに,その原因となる遺伝子に関する学問的基盤が整理され,解釈のための思考過程(Gedankengang)が視覚化されている.

本来,理学療法は,医学モデルにおける医療行為の一翼を担うとともに,障害モデルにおけるリハビリテーションの理念や思想に基づいて実施されるものである.しかし,これまでの理学療法は,社会的要請に応えることを優先し,必ずしも臨床思考過程モデルを明確にしないまま発展してきたとも言える.理学療法における臨床思考過程の最大の特徴は,「動作の観察と分析とを基軸にし,機能障害の要因の解決と活動への適応という双方向の要素を統合する」ことであると考える.

このような現状において,「症候障害学」は,理学療法士自身の医療行為を視覚化することで,その立場を相対的に位置づけ,チーム医療における役割を明確にし,対象者にわかりやすい医療を実践する礎になると考えている.

なかでも,理学療法学教育課程における動作分析を含む理学療法評価学と運動療法学,日常生活活動学・生活環境学などを対比しながら,「症候障害学」の視点から学生の臨床思考過程能力を早期から高めていくことが必須となる.そして,その成果は,臨床実習はもとより,専門職である理学療法士としての独自性を発揮するうえでも重要といえる.

本書『症候障害学序説』は,タイトルのごとく序説であり,「症候障害学」の概念と理論を基軸とした全体像の輪郭と主要な構造を提示している.今後,「症候障害学」を実践的,かつ具体的に適用されえる真の臨床思考過程モデルとして展開させていくためには,さらに細部にわたる緻密な構造を提示するとともに,病態や事例ごとの実践例を明示し,演繹的かつ帰納的にその実用性を実証することが不可欠である.

なお,わが国おいて,「症候障害学」という概念と理論を究明し,展開することは,初めての試みであると認識しており,多々課題もあると思われることから,読者の皆様の卒直な意見を賜わりながら,逐次体系化していく所存である.


平成18年5月

内山 靖

目次

1章:なぜ症候障害学なのか

1.現代の医療に求められるもの

2.医療における2つの思考過程─症候学と障害学─

3.分化と統合

2章:症候障害学とは

1.症候障害学の基本的枠組み

2.症候障害学による臨床思考過程

3章:動作のとらえかた

1.随意運動の階層性と制御

2.動作をとらえるうえでの科学的基盤

3.症候障害学的な理解

4章:動作の観察・分析の進めかた

1.動作の観察・分析の位置づけ

2.動作の観察・分析と解釈の流れ

3.動作の観察・分析を進める際の着眼点

4.動作観察・分析の展開

5.症候障害学的な統合と解釈

5章:姿勢・動作の診かた

1.座位

2.立位

3.臥位

4.寝返り

5.立ち上がり

6.歩行

6章:機能の診かた

1.筋力

2.体性感覚

3.体幹

4.バランス

7章:症候障害学と理学療法

1.理学療法の特徴

2.根拠に基づく理学療法

3.理学療法におけるクリティカルな思考


参考文献

索引

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書籍情報

  • ISBN:9784830643293
  • ページ数:111頁
  • 書籍発行日:2006年5月
  • 電子版発売日:2021年9月17日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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