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序文
2008 年に開催された日本臨床スポーツ医学会学術集会の会場において,文光堂から執筆・出版の声をかけていただいてから2 年が経とうとしています.ちょうど渡部賢一さんの「肩甲帯のファンクショナルトレーニング」と題するワークショップの座長を終えてホッとしたところで声をかけていただき,その後「このメンバーなら確実」と考え抜いて作業を進め,メンバーに多大な負担をおかけしながら出版されたのが本書「ファンクショナルトレーニング」です.
このメンバーとは,本書の執筆者である渡部賢一さん(Ⅲ章),鈴木岳さん(Ⅰ,Ⅱ,Ⅳ章),そして北川雄一さん(Ⅰ,Ⅱ,Ⅴ章)です.渡部賢一さんはPhysiotherapy Associates TempeSPORT Clinic 時代にメジャーリーガーを中心としたアスリートたちを相手にファンクショナルトレーニングを実践していましたし,現在でも福岡ソフトバンクホークスにおいてご活躍中です.鈴木岳さんは,現在はR-body project にて一般の方々に対しファンクショナルトレーニングを提供し続けると同時に,最高レベルのオリンピック選手にもそのノウハウを惜しみなく応用し,ファンクショナルトレーニングの認知・普及に多大な功績を残されようとしています.北川雄一さんはアリゾナ時代よりファンクショナルトレーニングに興味を持たれ,アメリカでのさまざまなワークショップに参加しながらその理論と方法を吸収し,現在はbj リーグ仙台89ERS にて,特に選手のけがの予防プログラムとしてファンクショナルトレーニングを活用しています.
私がこの3 名の方々を執筆者として選んだのは,皆さんが,日常的に選手のけがの予防,けがからの回復,そしてパフォーマンス向上のために長年にわたってファンクショナルトレーニングを使っている実践者であることと,このテーマで複数回のワークショップを開催した経験があるということが理由です.そして,ここが最も重要なのですが,ファンクショナルトレーニングに関する私たちの理論背景や使用するエクササイズが基本的にはアメリカからのものであり,私たちのなかで共通した概念や用語を用いて本書を執筆できたということです.さて,ファンクショナルトレーニングというといかにも最新のトレーニング方法のように聞こえますが,よく考えれば私が学生だった30 年以上前にもすでにこのような類のトレーニング方法は存在していました.順天堂大学1 年生の「基礎運動」という実習ではドイツの飜訳テキストを用いてそれらしいトレーニングを習いましたし,十種競技や投擲の選手が体育館にてメディシンボールや跳び箱を使って行っていたトレーニングはまさに「ファンクショナルトレーニング」であったように思います.最近そのことを当時の恩師に打ち明けたところ,「その通りだと思うが,実は私(恩師)が学生の頃にもすでにトレーニング方法として確立していたよ」と指摘を受けました.ファンクショナルトレーニングとは呼ばれていなかったにせよ,その方法はすでに随分と昔からあったということです.
このように,ファンクショナルトレーニングはトレーニングとしては決して新しいものではありませんが,特に2000 年代に入ってからアメリカにおいてその理論と方法(エクササイズ)が体系づけられ,利用できる用具・器具の進化も手伝って,普及に拍車がかかっているようです.理論背景が示されることで誰もがそしてより多くの人が納得して実践できるようになり,加えて,さらなる研究と実践によって理論と方法が書き換えられるチャンスが出てきたわけです.
ファンクショナルトレーニングは他のすべてのトレーニングと同様に万能なトレーニング方法ではありません.したがって,読者のみなさんにはさまざまなトレーニングの理論と方法を学ぶと同時に,自分で実践し,それらの長所と短所を体得して欲しいと思います.ファンクショナルトレーニングを他のトレーニング方法と比較できる能力こそが,指導者としてファンクショナルトレーニングを用いるための最も重要な要素であると確信しています.
最後になりましたが,私のわがままを聞き入れ,執筆のために貴重な時間とエネルギーを費やしてくださった3 名の執筆者に心からお礼を申し上げます.また,本書執筆・出版のチャンスを与えてくださり,最後まで私たちを叱咤激励し続けてくださった文光堂編集部の中村晴彦さまに深謝いたします.そして,本書が,日本人によって日本語で書かれた初めてのファンクショナルトレーニングのテキストであることを誇りに思うと同時に,本書がファンクショナルトレーニングの今後の発展に寄与することを祈念します.
2010 年9 月
中村千秋
目次
I ファンクショナルトレーニングとは
A 動作の重要性
B ファンクショナルトレーニングの定義
C ファンクショナルトレーニングの5原則
1 重力(gravity)を利用する
2 分離(dissociate)と協同(integrate)
3 キネティックチェーン(kinetic chain)
4 3面運動(3 dimension movement pattern)
5 力の吸収(loading)と力の発揮(unloading)
D ファンクショナルトレーニングの基礎知識—アナトミカルキネシオロジー—
1 軟部組織(筋)の機能と働き
2 関節運動を含めたバイオメカニクス
3 神経系統の働き
II ファンクショナルトレーニングのプログラミング
A プログラミングの基礎
B ファンクショナルアセスメント
1 オーバーヘッドスクワットテスト Overhead Squat(OH SQ) Test
2 シングルレッグスクワットテスト Single Leg Squat(SL SQ) Test
3 ハードルステップテスト Hurdle Step Test
4 インラインランジテスト In Line Lunge Test
5 シングルレッグブリッジテスト SL Bridge with Abduction Test
C トレーニングの期分け
1 スタビリティ・モビリティ期
2 ストレングス期
3 パワー期
D トレーニングの流れ
1 フレキシビリティエクササイズ
2 スタビリティエクササイズ
3 コアエクササイズ
4 ストレングスエクササイズ
E エクササイズの難易度の漸増方法
1 支持面(base of support)を変化させる
2 重心の位置(center of gravity)を変化させる
3 ファンクションナルトレーニングで使用する主な用具
III 上肢のファンクショナルトレーニング
A 上肢のファンクショナルトレーニングの基礎
1 肩甲帯の機能的役割
2 肩甲帯の機能低下を引き起こす要因とそのメカニズム
B 上肢の解剖学的運動機能
1 肩甲帯
2 肩関節
C 上肢のファンクショナルアセスメント
1 ポスチャアセスメント
2 モビリティ&スタビリティアセスメント
D 上肢のファンクショナルトレーニングのプログラミング
1 上肢筋群のフレキシビリティ改善
2 肩甲帯のストレングスとスタビリティ改善
3 肩関節のストレングスとスタビリティ改善
E 上肢のファンクショナルエクササイズ
1 上肢筋群のフレキシビリティエクササイズ
2 肩甲帯のストレングスとスタビリティエクササイズ
3 肩関節のストレングスとスタビリティエクササイズ
4 胸部のストレングスエクササイズ
5 背部のストレングスエクササイズ
6 肩のストレングスエクササイズ
IV 体幹のファンクショナルトレーニング
A 体幹のファンクショナルトレーニングの基礎
B 体幹の解剖学的運動機能
C 体幹のファンクショナルアセスメント
1 フロントブリッジシングルアームテスト Front Bridge(FB) Single Arm(SA)
Test
2 フォーポイントスクワットテスト 4Points(pt) Squat(SQ) Test
3 スタンディングソアステスト Standing Psoas Test
4 フォーポイントヒップエクステンションニーフレクションテスト 4pt Hip Extension
(Ext)
with Knee Flexion(Flex) Test
D 体幹のファンクショナルトレーニングプログラム
E 体幹のファンクショナルエクササイズ
1 フォーポイントトランクローテーション 4pt Trunk Rotation(Rot)
2 ペルビッククランチ Pelvic Crunch
3 ペルビックムカデ Pelvic MUKADE
4 体幹トレーニングの基本ポジション
V 下肢のファンクショナルトレーニング
A 下肢のファンクショナルトレーニングの基礎
B 下肢の解剖学的運動機能
C 下肢のファンクショナルアセスメント
D 下肢のファンクショナルトレーニングのプログラミング
E 下肢のファンクショナルエクササイズ
1 下肢のフレキシビリティ,モビリティ,スタビリティトレーニング
2 下肢のストレングスエクササイズ
3 下肢のパワーエクササイズ
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書籍情報
- ISBN:9784830651571
- ページ数:176頁
- 書籍発行日:2010年9月
- 電子版発売日:2020年10月16日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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