編者の言葉

ここに「心臓血管外科手術実践マニュアル」をお届けします。前回の同テーマの増刊号は2016年に当時東京慈恵会医科大学教授の橋本和弘先生が編集されましたが、その後6 年を経た今も心臓血管外科手術は進化し続けています。具体的には、低侵襲化の流れに乗ったカテーテル治療の発展、麻酔・補助手段の精密化、クリニカルパスの導入にみられる患者ケアのシステム化、といえます。コロナウイルス肺炎で一躍全国的に有名になったECMO（ExtraCorporeal MembraneOxygenation）も心臓血管外科手術で扱う補助手段の一つです。手術を中心にした臨床現場での動きや内容を本増刊号で理解していただけたら幸いです。本稿の執筆にあたっては、私が働いていた山梨大学医学部第二外科、東京医科大学八王子医療センター心臓血管外科、東京医科大学病院心臓血管外科、山梨厚生病院心臓血管外科の先生方をはじめ、技士や看護師の方々にお願いしました。これを読まれる皆さんの施設では多少の違いはあるでしょうが、今回の内容で現在行われている心臓血管外科手術のスタンダードな解説はできたものと自負しています。

2016 年の同テーマの増刊号発刊のころより起きている、手術室を中心とする変化に沿って本稿の内容も変更しました。まず、器械出し中心だった手術室看護師の役割が、術前・術後を含めた専門的な看護ケアに広がりました。もうすでにご存じとは思いますが、手術室の看護師はオペ室にいるだけでなく病棟やICUに出向いて患者さんの情報を取ったりケアを行ったりしています。また、デジタル化されたX線透視装置を使う、超音波装置を使う、透析回路まで組み込んだ人工心肺装置を使う、というように補助手段も多岐にわたってきました。手術自体も大きく切開する開胸手術だけでなく、小切開で行う低侵襲手術や人工心肺を用いない手術、大腿動脈から行うカテーテル治療までその形を多く変化させています。患者さんへの負担が少ない低侵襲化と安全性という流れから、今後もこの動きは加速するものと思われます。したがってこの「実践マニュアル」は変化しつつある心臓血管外科手術の2022 年での標準と考えていただければ幸いです。この増刊号の情報が皆さんの活躍に少しでも寄与することを願っています。

さあ、手術室スタッフの一員として心臓血管外科手術で患者さんを救いましょう。

2022年7月

東京医科大学八王子医療センター 心臓血管外科 兼任教授/ 山梨厚生病院 予防医学センター
進藤俊哉