はじめに

2014年に日本専門医機構が設立され、数年のうちに、わが国の医療体制は19の基本領域の縦割り構造に大きく切り替わりました。医療に限らず、どの世界でもそうなのですが、物事・事象の基本は混沌としており、放っておけば収拾がつかない状況になっていくものです。医学においては、その混沌をまとめたものが分類であり、そして、その分類に応じて治療方針が決まります。概して、この分類が安定した質の高い医療を提供することに直結します。専門医機構は、雑多で混沌としていた医療界を明確に分類し、各科がどうあるべきかという方針を位置づけしたように思われます。

規定された19の基本領域は、外科、内科、産婦人科、小児科など昔からなじみの深い診療科が主となっています。そして、今回その同列に形成外科が仲間入りを果たしました。形成外科医としては喜ばしく思う半面、形成外科という科はいわゆる「ニッチ」な科であることを売りにしてきたのも事実であり、その意味では少し寂しい思いもあります。

さて、形成外科という診療科に関して、少なくとも現時点では一般的に十分に理解されているとは言えないのが現状です。しかし、今回、基本領域のひとつに指定されたことで、弱い光ながら脚光を浴びた形になりました。「ニッチ」からの脱却が必要な時代になってきたのです。その意味でも、本書が形成外科医向けの専門的な書籍ではなく、多くの看護師を対象としている点で、大きな役割を果たすのではないかと考えています。

実は、12年前にも同じメディカ出版から看護師向けの形成外科の書籍『形成外科・美容外科看護の知識と実際』を出版しましたが、今回は形成外科にかかわる多くの看護師にも執筆を依頼し、よりパワーアップした実践的な看護師向けの書籍となっております。「ニッチ」な形成外科ではありますが、治療の対象はあくまで生命、機能、整容の面で困っている患者さんたちです。医療人として、患者さんのために多くを学び、多くを実践できるように、本書が活用されることを心より願っております。

最後に、長期にわたり多くの執筆者の方々と連携を維持しつつ、遅々として進まない原稿を辛抱強く待ってくださったメディカ出版編集局の西岡和江氏、そして多忙な日常業務の中、本書の執筆にかかわってくださった杏林大学形成外科の医局員および、自治医科大学形成外科の森下悠也先生、最後の最後に、画像を提供してくださった同大学形成外科の須永中先生、そしていつもお世話になりっぱなしの当院看護師の皆さまに深謝の意を表します。本書を上梓することができたのは、皆さまのお陰です。

2022年5月

尾﨑　峰