はじめに

この「はじめに」は初校のあとに書き加えた最後の原稿です。

本書は、18歳・成人を迎える娘に宛てた書簡として書き下ろしたものです。娘のことを思って精一杯書き下ろしたメッセージですが、実は娘を育て上げた自分自身に宛てたメッセージにもなっています。予測不能な時代となった今を生きる智慧を、本書の隅々に記載しています。すべての年齢層の方に読んで頂きたい一冊になりました。

僕は決して裕福ではない家庭に生まれ育ち、家柄も誇れるものはなく、そしていろいろな不運と不幸が重なり、他人がみれば幸せな生い立ちではありませんでした。しかし、不思議なことにそれほど自分が不幸だと思ったことはありません。そして60年以上を生きてきて、周囲からは成功者と思われています。実際に自分も人生の充実感で一杯です。

諸般の事情（後述）から、高校２年生の冬から医師を目指しました。社会人第１歩は外科医として始まり、30代でオックスフォード大学の免疫学博士課程に挑戦して免疫学者となり、40 代以降は漢方医としても活躍しています。大学教員時代は外科学、移植免疫学、そして東洋医学の３分野の博士課程の指導教授をしていました。そのほかにもいろいろなことにその場の直感で興味をもって取り組んできました。そんな自分が歩んだ人生を、歩みながら考えた生き方を、そして今顧みてはじめてわかる成功のヒントと「しあわせ」になる智慧を、したためたのです。

国連の常任理事国が隣国に武力侵略を始めるとは多くの専門家はまったく予想していませんでした。感染症が世界の脅威であるとの指摘は以前からありましたが、新型コロナウイルスのような致死率はたいしたことがないのに、しかし強力な感染力を有する感染症が世界経済に深刻な事態を与えると考えていた人は稀でした。大地震による大津波で冷却電力を失い原子力発電所の原子炉がメルトダウンするとは日本政府を含めてほぼほぼ誰も見込めませんでした。しかし、実際にそんなことが現実となりました。多くの専門家でも予測ができない世の中になりました。とはいえ、そんな予測をしていた人も実はいたのでした。

直感、Serendipity、レジリエンス、ご縁、無形資産、逆境、挑戦、偶然、両極端、レアな存在、踏み外す、素の自分……などの文言が登場します。本書を読み終えていただくと、きっとそれらの言葉がみなさんの頭の中で繋がります。そしてそれらが繋がった感覚が、今を、そして明日からの未来を「しあわせ」に生きるためのヒントになると思っています。

たまたま、今日は娘が日帰りで帰省しました。彼女にどんな未来が待っているのでしょうか。僕の書簡が、娘や読者の方々が「しあわせ」を見つけるヒントになることを願っています。