創傷治療の常識非常識2 熱傷と創感染

  • ページ数 : 160頁
  • 電子版発売日 : 2011年5月20日
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商品情報

内容

好評いただいている" 創傷治療の常識非常識" の続編「創傷治療の常識非常識2 熱傷と創感染」が電子書籍になりました。

序文

本書は【創傷治療の常識非常識】の続編であり,熱傷の局所治療,創感染への考察などが中心であるが,今回最も書きたかったことはEBMがすべて,エビデンスあらざれば医学にあらず,といった風潮に対する疑問である。エビデンスがあれば正しく,なければ信じられないという考え方の非科学性,RCT(Rondomized Controlled Trial)ですべてが証明されると信じている根拠のない無邪気さ,統計処理で証明されればすべて正しいと考える不合理性にはもううんざりなのである。

なぜ,自分の考えの正しさを他人に証明してもらわなければいけないのだろうか。他の誰も考えついていない新しい考えに,エビデンス(=過去の論文)があるわけがないではないか。他人の行った実験,他人の論証なら信じられるのか。医学とは過去の論文を探すことなのか。何かあれば論文を探すのはいいとして,論文探しに終始するのはおかしくないか。自分の頭で考えることを止めていないだろうか。医者はいつから,独自の考えを持ってはいけないと決まったのだろうか。過去の論文に正解を探すのは,何かあれば聖書やコーランに解決法を探す宗教的原理主義者とどこが違うのだろうか。

前著で思考実験と演繹的思考でさまざまな医学上の問題が解決できることを示したが,本書ではエビデンス万能という世間の流れに棹を差し,抗議の声を挙げるものである。恐らく,同じように感じていらっしゃる医療関係者は少なくないのではないかと思うが,いかがだろうか。

また本書では,前著で取り上げられなかった熱傷の局所治療についてまとめてみた。広範囲熱傷,乳幼児の熱傷にはまだ解決できていない問題点が残っているが,これは未来に解決されるべき課題である。だが,本書で提示した方法で,救急外来を受診する熱傷患者の多くが問題なく治療できるはずである。

本書のもう一つのテーマは創感染の発症メカニズムに対する推論と,それに基づく治療原理の提案である。これは現在主流であるSSI(手術部位感染)対策への疑問でもあり,同時に,細菌学的な見地から創感染を見直す作業でもある。人間に都合のよい論理を放棄し,細菌の立場に立って創面を見ると,従来の創感染対策,治療法のおかしな面が見えてくる。しかも,なぜ術後の離開創からは黄色ブドウ球菌が検出されるのか,なぜ厳密な無菌操作をしているのに褥瘡からMRSAが検出されるのか,MRSAが検出された創の治療としてバンコマイシンを投与するとカンジダが検出されるのはなぜか,それらが一元的に説明できるようになる。

このように,本書はさまざまな仮説を提出する。科学の進歩は,自然(現実)の観察とそれに基づく仮説の提案,そして検証を経て一つの理論に結実することで得られてきた。同様に,仮説の提案なしに新しい医学は生まれないのである。だからこそ,ドン・キホーテのように仮説を提案し続けようと思っている。エビデンスがないことを発言すべきでないという風潮が広まることは,実は,医学にとって自殺行為に他ならないのである。

最後になるが,医学書には必須のはずの参考文献も医学書の引用もなく,医学界の根本常識とも言うべきEBMに異議を唱え,従来の治療を根本から覆す方法しか書いていない書の刊行に踏み切って下さった三輪書店には感謝の言葉もない。

2005年 12月

夏井 睦

目次

第1章 エビデンスはどこにある?

地動説とEBM

RCTはレベルの低い証明法である

数学はすべての科学に君臨する

医学の問題を物理で解く

針小棒大化ツール

性善説なのか性悪説なのか

データは一人歩きする

診断名という名の迷宮

それならどうするか

エビデンスは過去にあり

人跡未踏の地に地図はない

CDCが変わったから・・・

エビデンスは青い鳥か

科学を目指して

第2章 熱傷治療の常識非常識

1 熱傷治療の常識非常識

熱傷の局所治療の原則

局所治療方法

熱傷深度別の治療法

熱傷治療と創傷被覆材

受傷部位別の治療

なぜラップを使うのか

2 小児熱傷での問題点

3 II度熱傷はなぜIII度熱傷に移行するのか

第3章 熱傷治療の症例14

第4章 創感染の常識非常識

1 はじめに

現在のSSI対策への疑問

疑問1:SSIの定義

疑問2:細菌はどこからくるのか

2 術後縦隔炎から考える

術中・術後の無菌操作を徹底しても防げない創感染

術後縦隔炎の発生様式

細菌の侵入ルート

感染には抗生剤投与だが・・・

3 術後創感染の原因

術後に生じる感染源とは

黒色壊死(痂皮)を生じる原因

黒色壊死(黒色痂皮)を作らないために

創部血腫を作らないために

脂肪層は縫合しない

4 さまざまな術後創感染について

さまざまな術後創感染についての考察

ピン、ワイヤー刺入部の処置

プレートの周囲は腔だ

5 MRSA感染について

すべてのMRSA感染は院内感染か

一般的なMRSA感染についての考え方

一般常識への疑問

院内感染でないMRSA感染

MRSAに対するマスコミの対応

MRSAが検出される難治創の治療

6 術野の消毒は必要なのか

手術前の術野の消毒は必要か

こういう消毒で手術していないだろうか

どこがいい加減なのか

だが術後創感染が起きているか

なぜ術後創感染は起きていないのか

CDCの提唱する創感染予防対策

手術部位感染は絶対に起こさないというタテマエ

皮膚からの細菌侵入を完全に防ぐために

創感染するかどうかは確率の問題だ

結論:術前の術野消毒は不要

7 感染の場

創感染の場はどこか

咬傷と感染

創感染は抗生剤の予防的投与で防げるのか

痂皮(crust)は感染せず全層壊死(eschar)で感染する理由

熱傷で水疱膜をすべて除去する理由

感染する異物としない異物の違い

ガーゼドレナージの嘘

8 皮膚常在菌について

器具の消毒、皮膚の消毒

皮膚常在菌とは何か

皮膚常在菌は人体を守っている

人間の皮膚は生態系だ

外来菌が皮膚で繁殖する条件とは何か

皮膚常在菌を消す行為は危険だ

院内感染対策のために手を洗う?

うがいと感染

皮膚常在菌がいなければ酢を塗ればいいのか?

ピロリ菌を除菌したら食道癌が増える

善玉菌か悪玉菌か

ハブ退治にマングース

ある造膣術で学んだこと

人間と細菌

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書籍情報

  • ISBN:9784895902410
  • ページ数:160頁
  • 電子版発売日:2011年5月20日
  • 判:A5変型
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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