編集にあたって

筆者が本書企画の話をはじめて聞いた時，遂にそういう時代になったのかと感慨深いものがあった．わが国の医療制度でリハビリテーション診療報酬の対象とされていない疾患や症状に対し，理学療法士が積極的に関わることは少ない．現行制度では，いわゆるウィメンズヘルス分野の疾患や症状のうち算定対象になっているものはごく僅かであるため，これまでそれらの問題に対して直接的に介入する理学療法士は限られ，情報面でも国外のものに頼らざるをえないことが多かった．そのような環境のもと熱心な理学療法士は，みなそれぞれ手探り状態で臨床の実践経験を積んできた感がある．しかし，本書では一部について十分な専門技能と実践という点から海外の理学療法士に依頼したものの，それ以外の理学療法実践については，すべて現在国内ですでに実践している理学療法士にご執筆いただいた．

まず第1 章でライフステージとともに変化する女性の心身の特徴について，第2 章では月経周期と心身の変化について理学療法士の立場から考える関連性や対応策を，第3 章では妊娠・出産に関連した理学療法と地域での実際取り組んでいる活動，第4 章では運動機能障害とともにリンパ浮腫を併発するリスクが高い乳がん・婦人科系がんに対する理学療法とそれを展開するために必要なリンパ浮腫に関する基礎知識，第5 章では骨盤底の障害とその理学療法の実践内容，第6 章では女性のライフステージ後半に考えるべき予防的理学療法，第7 章では女性の健康をサポートするという観点での理学療法士の取り組みについて解説している．その他，乳がん自己検診の啓発活動，性行為のアドバイスなど，理学療法士としての知識を生かした指導や活動を紹介している．そして，婦人科，整形外科，内科の医師に，それぞれの立場からウィメンズヘルスと理学療法の関わりについて提言をいただいた．

ウィメンズヘルスに関する知識を実践的な視点から網羅したが，今後のさらなる発展を考えると理学療法実践書として確立中な部分があり，ご指摘をいただく点が多々あるかもしれない．しかし筆者は，本書がウィメンズヘルスに関する理学療法の日本の「現状」がみえてくる書になったと考える．同時に，ウィメンズヘルス分野の理学療法が他の分野と同様に，解剖学・生理学・運動学といった知識とそれに基づく技術が根底に必要であるとご理解いただけることを期待したい．ウィメンズヘルスに興味をもつ理学療法士が臨床のヒントを得るために，本書が少しでも役立つことができれば幸いである．

最後に，男性の健康サポートに関心を寄せる理学療法士も増えてほしいという願いから，メンズヘルスケアを専門とする海外の理学療法士にも寄稿いただいた．今後，理学療法を必要とする人に，必要に応じた技術と知識が提供される世の中になることを切に願う．

2016年4月吉日

石井美和子