第2版の序

本書は1999 年6 月に発刊された「OT 臨床ハンドブック」の第2 版である。初版から20 余年の月日を経て，ようやく全面的な見直しを行うことができた。これは初版から携わってきたメンバーの悲願でもあったが，この間，多くの年月が流れてしまったことをお詫び申し上げたい。

第2 版では各疾患に関する医学情報のアップデートはもちろん，これまで1 つの項目としては扱ってこなかったリスク管理や大腿骨頸部骨折などを新たに加えた。またいくつかの疾患を統合するなど，構成を見直し，さまざまなOT の幅広く，そして細かなニーズにもしっかりと応えられるよう心がけた。臨床現場で日々奮闘するみなさんの力強いパートナーになれると信じている。

そもそも，この「臨床ハンドブック」は，学生や新人など，初学者の作業療法士向けにまとめられたものであった。そこには，初めて担当し経験する疾患について，その診断基準，重症度分類，予後などに関する医学的知識を補い，OT の評価や治療を正しく実施してほしいという，当時の，医療現場において一定の経験を積んだ作業療法士としての責務と，そして新しく仲間になる人たちへの思いが込められていた。常に携帯して役立ててほしいという願いから，ポケット版としたわけであったが，その願いが強すぎて，初版からポケットに入りきらなくなるほど重くなってしまったことは否めない。第２版ではさらにその分量が厚くなり，もはやポケット版と称するには若干気が引けるのが，正直な気持ちである。

さて，初版が発刊された頃に比べると医療制度や診療報酬制度が様変わりし，OT を含めたリハビリテーションの場の中心は，回復期リハビリテーション病棟を有するリハビリテーション専門病院に移行した。その一方で，急性期におけるOT のニーズも依然として高く，OT の専門性や適応力が試されている。また，作業療法士の活躍の場は病院以外の地域にも広がってきているが，そこでも医療職としての作業療法士の専門性に期待が集まっている。

OT をはじめとしたリハビリテーションは，疾患ではなく人間そのものを癒す医療とされているが，これは疾患と向き合わなくてもよいということでは当然ない。まずは疾患と真剣に向き合って，その影響を少しでも減らすことが重要である。この意味において，常に医療現場の最前線で，急性期から地域に至るOT を実践している聖マリアンナ医科大学病院の実践内容に触れることができることは，臨床家にとって少なからず刺激になるのではないかと考えている。

初版にかかわった多くのメンバーは聖マリアンナ医科大学病院の職場を離れたため，第2 版を執筆する担当者は，現在そこに従事する作業療法士に引き継がれた。半ばフルモデルチェンジともいえる今般の改訂を経てもなお，聖マリアンナ医科大学病院の血が脈々と引き継がれていることをお伝えできることにも，万感の思いがある。この礎を築いてくれた先輩諸氏に改めて感謝申し上げるとともに，本版改訂に際して果敢に挑戦してくれた新たなメンバーに対しても敬意を表したい。

最後に，中館美保子氏には，新たに項目として立てた「リスク管理」をはじめ，「脊髄損傷」や各種神経難病など，多くの章の指導や査読の労をとっていただいた。心より感謝を申し上げたい。

2020年12月
大森みかよ，能登真一