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エビデンスに基づくボツリヌス治療 ー上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーションの最適化のために

  • ページ数 : 256頁
  • 書籍発行日 : 2022年5月
  • 電子版発売日 : 2022年5月11日
5,280
(税込)
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商品情報

内容

ボツリヌス治療+リハビリテーション
適切な痙縮治療とさらなる機能改善を目指すための基礎〜実践的な知識が詰まった一冊!


ボツリヌスによる痙縮治療には、リハビリテーションを併用することが必須である。適切なリハビリテーションを行うには痙縮の病態と臨床症状を知り、ボツリヌスの作用機序等の基礎的な知識を持つことが必要である。
本書はボツリヌス治療とリハビリテーションによる適切な上肢・下肢の痙縮治療と、さらなる機能改善を目指すために欠かせない理論と実践の知識が詰まった手引書である。

※本製品はPCでの閲覧も可能です。
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序文

ボツリヌス治療の歴史は1977年に米国の眼科医ScottがA型ボツリヌス毒素を斜視の治療として投与したことに始まる.わが国におけるA型ボツリヌス毒素の治験は,1993年2月に眼瞼痙攣に対して帝京大学眼科学教室において,そして1993年5月に片側顔面痙攣および痙性斜頚に対して京都大学神経内科学教室はじめ11施設において開始された.そこからわが国のA型ボツリヌス毒素を用いた痙縮研究と治療の歩みが始まったといえる.その後,A型ボツリヌス毒素製剤であるOnabotulinumtoxinA:Botox®(グラクソ・スミスクライン株式会社)は,1996年の眼瞼痙攣の適応承認に始まり,現在までに11の対象疾患名に対する保険適用を有する薬剤となっている.

脳卒中に代表される中枢神経疾患発症後に生じる上肢痙縮と下肢痙縮に対するBotox®の保険適用は2010年10月に承認され,今日までに脳卒中などの痙縮診療と治療には欠かすことのできない薬剤となっている.それまでは効果的な痙縮治療が困難で,運動麻痺の回復を効果的に進めることには障壁があったが,Botox®の痙縮治療の導入により,大きな前進を得ることができるようになった.また2020年にはIncobotulinumtoxinA:Xeomin®(帝人ファーマ株式会社)も上肢痙縮の保険収載,下肢痙縮は2021年に保険収載がされてきている.

しかし,他のA型ボツリヌス毒素製剤の対象疾患と根本的に異なる点は,上肢・下肢痙縮の治療においては,薬剤の投与とともに,リハビリテーション治療が必要となる点である.リハビリテーション治療の介入を併せることによって初めて,薬剤投与によって得られる痙縮軽減効果を,運動麻痺やADLの改善に生かせることが可能となるからである.痙縮軽減を図っても,痙縮によって生じていた筋を含めた軟部組織の短縮や変性・変形(拘縮)に対しては,かなり強力なリハビリテーション治療の持続介入がなければ改善を引き出すことは困難である.さらに,脳卒中発症後の回復過程のいかなる時期において,麻痺肢の痙縮筋へ薬剤の投与がされるかにより,リハビリテーションの効果も異なってくる.薬剤投与を受けたものの,そうしたリハビリテーション治療介入がなかった脳卒中後痙縮の患者さんからは,「効果がなかった」という落胆の言辞が聞かれることも少なくない.また脳卒中の下肢麻痺に生じる内反尖足には,通常は下肢装具が処方・使用されていることが多い.しかしボツリヌス治療とリハビリテーション治療の併用により,下肢装具の使用から脱却できる治療成績も報告されてきており,下肢装具の改変なども考慮されなくてはならない.

本書では,こうした背景から,薬剤投与とリハビリテーション治療をどのように組み合わせていくのが最適な方法となるかにフォーカスを当てて,基礎的な知見から,実臨床までを俯瞰した内容として編集を目指した.きわめて大きな治療効果が期待できる薬剤であるだけに,使用に先駆けては,その作用機序を含めて知悉すべき知見が少なからず存在する.さらに,的確なリハビリテーション技術の提供が必須となる.

第1章では,脳卒中などによる痙縮に対するボツリヌス治療を行う際に,精通していることが望まれる痙縮の病態理解とボツリヌス毒素製剤の基礎,施注,反復投与の必要性を含めた治療計画について企画した.わが国におけるボツリヌス治療の歴史を開いた梶龍兒先生(向井洋平先生共著)にもご執筆をお願いした.

第2章では,治療の開始にあたり知っておきたい知識として,痙縮発生後の関節可動域制限の病態メカニズムと,痛みのメカニズムについて,基礎的知見を深める目的でご執筆いただいた.さらに歩行のバイオメカニクスと筋活動,そしてボツリヌス治療に併用するリハビリテーション治療機器や機材,チームビルディングを取り上げて解説いただいた.

第3章では,ボツリヌス治療に併用されるリハビリテーション技術として現在までに報告されている文献のレビューを取り上げてまとめた.ストレッチや電気刺激治療,ロボットなど,その具体的な介入プログラムを俯瞰してまとめた.

第4章と第5章は,上肢痙縮,下肢痙縮に対するボツリヌス治療と併用する理学療法と作業療法について,より具体的で臨床的な評価・治療について理解するための内容となっている.

第6章では,痙縮患者さんを地域在宅でケアされている,ご家族の介護負担軽減につながる視点での取り組みを取り上げた.また,コラムにはボツリヌス治療の認知度を上げるために,現在まで実績ある活動をされている団体を紹介した.

本書を読んでいただくことで,ボツリヌス治療はボツリヌス毒素製剤の注射だけでなく,リハビリテーションを併用することにより,治療効果が上げられる身近な治療法となっていることが理解できるはずである.そして,痙縮治療を行うすべての医療従事者が痙縮の病態とボツリヌス治療,リハビリテーションを理解することにより,痙縮により生じる麻痺肢の機能低下や,ADL・QOLの低下,介護負担の増大を断ち切ることにつながる手引き書となる内容となっている.

脳卒中などにより生じる痙縮に対するボツリヌス治療の重要性を,多くの医師やセラピストが理解され,職種の壁を越え,さらに医療と介護の壁を越えて共有できれば幸甚である.脳卒中により生じる運動麻痺,痙縮,拘縮という3大impairmentを改善させ,後遺症で苦しむ患者さんを救う一助となれば,編者として本望である.

本書の企画にあたり,ボツリヌス治療ではわが国における先駆的な実績を有する東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座主任教授の安保雅博先生に監修をお願いした.的確な指針をご教示いただいたことに深謝申し上げたい.さらに粘り強くさまざまなお願いに誠実に応えてくださった株式会社三輪書店第一編集室の野沢 聡氏に心より御礼申し上げる.


2022年3月

原 寛美,髙橋忠志

目次

第1章 痙縮とボツリヌス治療の基礎

1-1 痙縮の病態とボツリヌス治療・・・原 寛美

1. 痙縮の病態・生理 2. 誤った神経可塑性と, 末梢における筋の粘弾性増加による痙縮の発現メカニズム 3. 脳卒中後の運動麻痺回復ステージ理論と痙縮の発現時期 4. 脳卒中における痙縮発現時期と頻度 5. 臨床における痙縮の評価法 6. 脳卒中後上肢痙縮・下肢痙縮へのボツリヌス毒素製剤の早期介入と投与の実際

1-2 ボツリヌス治療の基礎・・・向井洋平, 梶 龍兒

1. ボツリヌス毒素 2. 神経毒素成分 3. 無毒成分 4. ボツリヌス毒素製剤 5. B型ボツリヌス毒素製剤 6. ボツリヌス毒素製剤による治療に反応しない症例 7. ボツリヌス毒素製剤の冷蔵もしくは冷凍保存による活性の変化 8. ボツリヌス毒素製剤による痙縮の治療 9. ボツリヌス毒素による治療の実際

1-3 ボツリヌス治療の施注技術と注意点(超音波エコーガイド,筋電針)・・・原 貴敏

1. 施注方法と各注意点 2. 施注方法に関するEBM 3. 施注方法に関するup to date

1-4 痙縮の特徴と投与分配(Wernicke-Mann肢位,握りこぶし,内反尖足,claw toe など)・・・和田義敬, 川手信行

1. 痙縮の特徴 2. A型ボツリヌス毒素製剤の投与部位・投与量の選定

1-5 ボツリヌス治療の反復投与効果および治療計画・・・竹川 徹

1. 脳卒中後の上肢痙縮への反復投与効果および治療計画 2. 脳卒中後の下肢痙縮への反復投与効果および治療計画 3. rTMSとの併用効果および治療計画

第2章 ボツリヌス治療を行う前に知っておきたい知識

2-1 痙縮発生後の関節可動域制限のメカニズム・・・沖田 実

1. 脳血管疾患と関節可動域制限 2. 脳血管疾患にみられる関節可動域制限の病態 3. 関節可動域制限のメカニズム

2-2 痙縮発生後の痛みのメカニズム・・・坂本淳哉

1. 痙縮発生後の痛みの実態 2. 痛みの基礎 3. 痙縮発生後の痛みの発生メカニズム

2-3 上肢ボツリヌス治療に併用する治療機器・・・唐渡弘起

1. ボトムアップアプローチ 2. トップダウンアプローチ:rTMS

2-4 歩行の神経機構・バイオメカニクス・筋電図・・・大畑光司

1. 歩行のバイオメカニクス 2. 歩行の神経機構 3. 歩行調整のメカニズム 4. 片麻痺歩行の特性

2-5 ボツリヌス療法における多職種連携とチームビルディング・・・髙橋忠志, 栗田慎也, 尾花正義

1. ボツリヌス療法とチーム医療 2. 当院のボツリヌス療法の流れ 3. 施注直後のリハビリテーション

第3章 ボツリヌス治療とリハビリテーション

ボツリヌス治療とリハビリテーション文献レビュー・・・原 貴敏

1. 上肢・下肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 2. 上肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 3. 下肢痙縮に対するリハビリテーション文献レビュー 4. 痙縮に対する体外衝撃波治療(ESWT)の文献レビュー 5. 脳卒中後疼痛に対するボツリヌス療法の文献レビュー 6. まとめ

第4章 下肢に対するボツリヌス療法

4-1 ボツリヌス療法における理学療法・・・髙橋忠志

1. 理学療法評価と施注筋提案 2. ボツリヌス療法における理学療法治療 3. ボツリヌス療法における下肢装具とトレーニング

4-2 ボツリヌス治療と下肢装具脱却へのプロセス・・・島本祐輔

1. 下肢装具脱却に向けたボツリヌス治療計画と評価 2. 下肢装具脱却に向けた当院での取り組み 3. 時期別における下肢装具脱却の考え方

第5章 上肢に対するボツリヌス療法

ボツリヌス療法における作業療法・・・唐渡弘起

1. ボツリヌス療法の流れ 2. 症例提示

第6章 ボツリヌス治療と介護負担軽減

ボツリヌス治療と介護負担軽減(開排制限,手指など衛生管理)・・・勝谷将史

1. 痙縮の影響と頻度 2. 生活への影響の評価 3. 痙縮による介護への影響 4. 介護負担軽減を目的としたボツリヌス治療の戦略 5. ボツリヌス治療における療法士の役割 6. 症例提示

巻末資料

索引

コラム

「自分らしさ」を取り戻すためのボツリヌス療法と下肢装具・・・髙橋あき

痙縮・ボツリヌス治療の啓発活動

・市中在住痙縮者に対するボツリヌス装具運動療法研究会(CORABOSS)・・・勝谷将史

・痙縮の患者・家族会について・・・室谷嘉一

・地域の痙縮患者を救うプロジェクトーJ-BATTERY seminar・・・髙橋忠志, 小磯 寛, 尾花正義

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書籍情報

  • ISBN:9784895907514
  • ページ数:256頁
  • 書籍発行日:2022年5月
  • 電子版発売日:2022年5月11日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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