麻酔2023年6月号 投稿論文掲載号

  • ページ数 : 116頁
  • 書籍発行日 : 2023年6月
  • 電子版発売日 : 2023年6月16日
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内容

麻酔2023年6月号 投稿論文掲載号
好塩基球活性化試験が診断に有用であった抗菌薬による周術期アナフィラキシーショックの1症例
腰椎手術直後にpseudohypoxic brain swellingが原因と考えられる全身強直性痙攣が出現した1症例
トリガーポイント注射・超音波ガイド下腹横筋膜面ブロックが有効であった小児の両側前皮神経絞扼症候群の1症例 ほか

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序文

巻頭言
東日本大震災から12年


約10年前,本稿の執筆依頼を受けた際には“大震災から2年以上が経過し…”という件からの文章を記述していた。東日本大震災は2011年3月11日に発生し,今年2023年3月で12年目を迎えた。本震災はM 9.0を観測し,日本観測史上では最大,世界規模でも4番目の地震であった。ちなみに,世界最大級は三陸にも津波をもたらした1960年のチリ地震である。私が前回強調していたのは,東北地方沿岸部の復興は都市部と比較して遅いということであった。応急仮設住宅は入居期間が2年と決められていたが,岩手県で仮設住宅の入居戸数がゼロになったのは2020年で,震災から9年が経過していた。千年以上前の蝦夷征伐から続いている東北地方の負の歴史がこの大震災で改めて浮き彫りになったとする歴史学者がいた。また,“未曾有の大震災で被災した東北の人たちが,取り乱すこともなく,騒動もなく,冷静沈着に,我慢強く,秩序を保ち,そして励まし合い,譲り合い,助け合い,悲しみに耐えて頑張っている姿に,海外メディアから賞賛の声があった。”という報道があったが,日本国内ではどうであっただろう。震災で生じた瓦礫の受け入れ先として手を挙げた自治体は多数あったが,住民に反対されて受け入れを拒否した自治体もあった。また,特に福島県は放射能汚染による風評被害にさらされていて,県産の農産品は安全なものまで不買差別を受け,他県へ避難した家族の子どもが学校では福島から来たというだけで避けられ,いじめに遭ったという報道もあった。

ところで,わが国で新型コロナウィルス感染症が蔓延し始めて間もないころ,医療従事者が子どもを保育所等に預けようとした際に保育所側から“医療従事者は新型コロナウイルス感染リスクが高く,その子どもも感染している恐れがある”などとして預かりを拒否する事例があった。厚生労働省は“医療従事者などは感染防御を十分にしたうえで対策や治療にあたっている。新型コロナウイルス感染症の対策や治療にあたる医療従事者などの子どもに対する偏見や差別は断じて許されない”と強く指摘し,自治体や保育所などの関係者に対しこのような偏見や差別が生じないよう十分配慮することを要請している。また,医療従事者に対して“入店の拒否”“タクシーの乗車拒否”などが生じているとも報道されていた。どこか放射能汚染による風評被害と似通った事例である気がしてならない。

話は戻るが,明治三陸地震(死者・不明者21,959人)から127年,昭和三陸地震(死者・不明者3,064人)から90年,チリ津波(死者・不明者142人)から63年,三陸の人々は行政指導のもと,要所に防波堤を建造し海の近くでの生活を営んでいた。しかし,先の東日本大震災では想定を超える津波が押し寄せたため,防波堤は用をなさなかった。今度はかさ上げが行われているが,違和感を覚えざるをえない。防波堤建造技術が確立する以前には津波被害を経験した当時の大人たちは子孫に向け“此処より下に住むな”という石碑を立てた。東日本大震災の前の大津波は1960年(昭和35年)のチリ津波であり,現在の社会でリーダーシップを執っている50‒60歳代の者は経験していないか記憶には残っていない。チリ津波を実体験したのは,われわれ(小生は現在62歳)の親世代で,現在80‒90歳代の方々である。東日本大震災のときには彼らはおおよそ70歳代であり,チリ津波の経験と日ごろの避難訓練が生かされたと聞く。海岸付近での産業は致し方ないとしても住居や学校,入院設備のある医療施設などは人工的な対策を施したとしても決して海岸付近に建ててはならないと考える。数十年後再び想定以上の津波に襲われたら,大震災を実体験していないわれわれの子孫たちが同じ被害に遭うのではないかと心配でならない。近い将来に起こりうる大震災に備え,これまでの経験と英知を生かし被害を最小限に抑えることを切に願う。


(岩手医科大学教授 鈴木 健二)

目次

巻頭言

東日本大震災から12年 (鈴木健二)

原著

人工肩関節置換術後48時間の疼痛管理における斜角筋間腕神経叢ブロックの鎮痛効果:局所麻酔薬カクテル単回神経ブロックと局所麻酔薬単剤による持続神経ブロックの比較 (三好早紀ほか)

講座

体外式膜型人工肺(ECMO)を用いた周術期管理の現状と展望 (杉本直也ほか)

症例対照研究

遊離空腸を用いた咽頭再建術の周術期管理における動脈圧心拍出量モニターの有用性 (藤井涼馬ほか)

症例報告

好塩基球活性化試験が診断に有用であった抗菌薬による周術期アナフィラキシーショックの1症例 (山本広大ほか)

腰椎手術直後にpseudohypoxic brain swellingが原因と考えられる全身強直性痙攣が出現した1症例 (山嶋誠一ほか)

トリガーポイント注射・超音波ガイド下腹横筋膜面ブロックが有効であった小児の両側前皮神経絞扼症候群の1症例 (古田俊太郎ほか)

初回無痙攣電気通電療法直後に無症候性たこつぼ心筋症を発症した1症例 (藤田夏樹ほか)

乳がんの骨転移による大腿骨骨幹部骨折に対する骨折観血的手術を大腿神経・外側大腿皮神経ブロック下で行った1症例 (増井克秀ほか)

脊髄くも膜下硬膜外併用麻酔で管理したシャルコー・マリー・トゥース病合併患者の帝王切開の1症例 (川口由佳ほか)

術後呼吸管理に難渋した巨大卵巣腫瘍摘出術の1症例 (大田智子ほか)

ハロペリドールを投与されたリチウム内服患者に発症した全身麻酔後の高熱 (真宅真与ほか)

グルタル酸血症2型合併小児患者における腹腔鏡下噴門形成・胃瘻造設術の麻酔管理 (野村 準ほか)

左肺動静脈瘻を有するオスラー・ウェーバー・ランデュ病患者の右側下葉切除術の麻酔管理 (赤澤舞衣ほか)

全身麻酔導入後にアナフィラキシーショックを呈した肺動脈性肺高血圧症の1症例 (佐々木友美ほか)

外国文献紹介

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書籍情報

  • ISBN:9784014007206
  • ページ数:116頁
  • 書籍発行日:2023年6月
  • 電子版発売日:2023年6月16日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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