序

本巻は，第1 巻「美容皮膚科学のきほん」，第2 巻「しみ」，第3 巻「アンチエイジングとスキンケア」に次いで発刊された「しわ・たるみ」治療についての各論です．第1 巻の基本編とともに学んでいただければ，さらに，知識が深まるように編成されています．さて，美容皮膚科医療を実践していくうえで，外来を訪れる方々には治療希望順位があります．まずは，老人性色素斑，肝斑，後天性真皮メラノサイトーシスといった良性色素性疾患，そして，脂漏性角化症，ほくろなどの良性腫瘍に対する治療でしょう．これらの問題とともに，あるいは治療後に，肌質改善・しわ・たるみについての相談を受けることになります．加齢や光老化の程度で症状はさまざまですが，どなたもできるだけ若い頃の皮膚に戻りたい願望を持っています．本巻「しわ・たるみ」治療編では，これらの原因や解決策について，各分野のエキスパートである皮膚科・形成外科の先生方に執筆していただきました．

しわの中では，表情じわについてはボツリヌストキシン注射がゴールドスタンダード治療としては容易に選べます．一方，肌質改善や小じわ治療を目指す際には多様な医療機器が使用されています．すべては真皮成分を再構築するために線維芽細胞の活性化あるいは増生を促す方法です．残念ながら，機器をいったん入手すれば永久に稼働するわけではありませんので，入手費用のほか，メンテナンス費用やランニングコストを考慮しなければなりません．医療機器を用いない手段を併用しながら，ご自分で使用可能な機器を数種類選択すると，より良い医療になると考えます．また，医療承認を得たヒアルロン酸も種類や手技が豊富になり，肌質改善目的から深いしわに対しても期間限定ながら驚くほどの結果が得られるようになってきました．学ぶ機会も多く，以前ほどハードルの高い手技ではなくなっています．

たるみは医療機器を用いた治療が主体となります．総じて合併症が少ない治療方法です．ただし，近年，合併症の報告が増加している高密度焦点式超音波（ HIFU ）や手技の習熟に経験を要するスレッドリフトについては，注意して臨んで欲しいと思います．

どのような治療においても医療者の心構えが大事です．本巻2 章「しわ・たるみ患者の診察と考え方」を参考にして，各論を読み込んでいただければと思います．合併症を予防しつつ，患者の満足度が少しでも向上する足掛かりになることを切望して止みません．

2024年5月

中野俊二
中野医院院長／久留米大学医学部皮膚科学教室臨床教授