序

本巻は『最新美容皮膚科学大系』として最後に発刊される巻です．脱毛・ムダ毛と痤瘡（にきび）を主軸に，今までの巻には掲載されていない領域をできるだけ収載して，本巻の刊行によって全5 巻で美容皮膚科のすべての領域が網羅完結するよう企画されました．美容皮膚科が世間に認知される最初のきっかけは，1990 年代後半に登場したレーザー脱毛です．エステティックサロンや一部のクリニックで実施されていた針脱毛に代わって，疼痛が軽減し，かつ時間も費用も大幅に改善されたレーザー脱毛機器は美容皮膚科を身近なものとしました．もともとムダ毛の処理に熱心な日本人にとっては大きな関心事となり，爆発的なブームが起こりました．現在でも世界の国別統計でレーザー脱毛の施術数は日本がトップです（ ISAPS survey ）．そしてちょうどその頃，ケミカルピーリングなどをはじめとする自費のにきび治療も同様に広く普及し，この2 つが美容皮膚科黎明期の主役と言っても過言ではありません．

多くの美容外科クリニックはそれまで外科的な施術を中心とした診療を行っていましたが非侵襲的な治療に取り組むように大きく方向転換し，そして徐々に皮膚科医も美容医療の分野に参入するようになりました．私自身，公立病院の形成外科医として日々手術を主体とした診療を行っていましたが，毎週末研修に行っていた美容外科クリニックでこのような時代の転換期を目の当たりにし，美容皮膚科の分野が大きく発展すると確信したのです．また以前は美容皮膚科領域ではなかった部分痩身ですが，エステティックサロンによるエビデンスのない施術への失望から，われわれの分野での施術へと患者の要望が移ってきて，さまざまな医療機器が登場しています．部分痩身という概念の理解にはまだ時間がかかりそうですが，美容皮膚科医としては知っておくべきものとなりました．

そのほかにも本巻では，多汗症・腋臭症や赤ら顔，くすみやくま，小腫瘍，瘢痕，ケロイドなど，美容皮膚科診療を行う際に避けては通れない各種の疾患に対しても詳細に解説されています．アートメイクやピアスは「医療」かどうかの境界線上にありますが，当然われわれが知っておくべきものであり，さらには美容外科でどのようなことが行われているのかは，美容皮膚科の限界を知るうえでも重要です．

シリーズ最終巻ということもあり，たくさんのコンテンツを盛り込みました．既刊の4巻にないものは，本巻をご覧いただければほとんどが記載されていると思います．読者の皆様の日常診療の一助となれば幸いです．

2024年8月

宮田成章
みやた形成外科・皮ふクリニック院長