序（第2版）

近年，分子生物学知見の急速な発展，あるいは標準治療としてのガイドライン制定で，テキストの記述も目まぐるしいリニューアルが必要である．本巻についても2001年初版出版後，呼吸器領域においても活発な研究展開がなされ，以下の点が改善された．

診断基準やガイドラインに関しては，主として『呼吸リハビリテーションに関するステートメント』，『COPD（慢性閉塞性肺疾患）診断と治療のためのガイドライン』，『特発性間質性肺炎 診断と治療の手引き』などがあり，これらに関する部分は大きく改訂されている．肺癌では『肺癌診療ガイドライン2003年版』や『Treatment of Unresectable Non－Small－CellLung Cancer Guideline ： Update 2003』などによる変化がとり込まれているが，2004年には術後化学療法に関してもさらに見解が変化している．

一方，治療も含め，社会的な側面から注目された疾患や治療法がある．その一つは旅客車両の運転士の報道で前面に出た睡眠時無呼吸症候群（SAS）の認識である．産業医の立場からの診断，治療への対応とともに，診断基準も改訂されつつあり，nasal－CPAPも保険適応となった．またSARSや新型インフルエンザウイルスの問題など，東アジア地域の渡り鳥，あるいは航空機による世界的な呼吸器感染症の広がりも，この間社会的に広く認識されることになった．また抗ウイルス薬“タミフル^®”の作用効果が認識され，厚生労働省による対流行期備蓄薬として新たな施策も行われている．

治療としては分子標的薬が肺癌に著効を示したことも大きい．経口薬であり，非喫煙女性の肺腺癌患者では60～80％に効果が期待される．従来の非特異的細胞毒性薬に比較し，刮目すべき分子標的効果である．その理由として肺発癌とのかかわりも考えられる，肺癌組織のみのEGF受容体リン酸化酵素部分の変異が欧米人，日本人に共通して見いだされた．頻度差はあるが人種間に共通したこの特異変異は，その親和性からも本薬剤の真の標的であると考えられる．また本薬剤では2％前後の患者が薬剤性肺障害で死亡する副作用も社会的関心をひいたが，その副作用が日本人に多いという問題も新たに研究と対応が要求されている．

本改訂ではこうした点をさらに補充し充実させた．日常呼吸器看護業務への浸透を期待するものである．

2005年 2月

東北大学加齢医学研究所 呼吸器腫瘍研究分野
貫和 敏博