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- 臨床薬学テキストシリーズ 薬物治療総論/症候・臨床検査/個別化医療
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序文
薬理学は,医薬品の有効成分である薬と生体の相互作用について,分子,細胞,組織,臓器,生体のさまざまなレベルで総合的に研究する分野である.薬理学を含むさまざまな科学領域を結集して創製された医薬品を患者に投与する治療の総称が薬物治療である.疾病の治療においては,症候・臨床検査にもとづく診断と治療が基本となっており,薬物治療にかかわる薬剤師には,症候・臨床検査,薬の薬理作用と作用機序,薬物動態,安全性など,医薬品にかかわる多様な領域を修得することが求められる.さらに,医療現場において,薬剤師には,医薬品に関する専門家として医療チームに積極的に参画し,医療現場における最適な薬物治療を追及することが求められている.
21 世紀に入って医療が大きく進歩してきたが,一方で,極端な高齢化社会(超高齢社会)を迎えつつある日本においては,高齢者の健康の維持と疾患の治療が重要な課題になってきている.さらに,個別化医療など新しいタイプの医療が急速に発達しており,医薬品でも従来の低分子医薬品に加えて,抗体医薬品,核酸医薬品などの高分子医薬品が増えてきている.個別化医療との関連では,バイオーマーカーによるコンパニオン診断の機会も増えている.まさに21 世紀型医療への展開が進みつつある中で,診断から薬物治療に至る医療薬学領域を修得し,患者のために役立つ医療・薬物治療の担い手となることを,薬剤師となる薬学生には目指していただきたい.
本書は,1)薬物治療の総論,2)身体の病的変化から疾患を推測できるようになるための症候・臨床検査,および,3)遺伝的背景や生理的状態などの個人差にもとづいて最適な治療法を選択する個別化医療の3 つの領域を対象とする.これらの領域は,薬学教育モデル・コアカリキュラム(平成25 年度改訂版)における「E1 薬の作用と体の変化」および「E3 薬物治療に役立つ情報」の中の「(3) 個別化医療」に掲げられている内容に相当する.「E1 薬の作用と体の変化」には,「(1) 薬の作用」「(2) 身体の病的変化を知る」「(3) 薬物治療の位置づけ」「(4) 医薬品の安全性」の4 つの項目が含まれており,本書の第1 章と第2 章で取り扱われる.この内容は「E2 薬理・病態・薬物治療」の基盤となるものである.本シリーズ『臨床薬学テキストシリーズ』においては,本書を修得してから,薬理・病態・薬物治療にかかわる各巻を学習することを薦める.
最後に,本書にかかわる医学・薬学の領域は絶えず進歩,発展していることを強調しておきたい.とくに,目覚ましいイノベーションが進む生命科学や医療研究の成果は,新規の医薬品開発や薬物治療の革新をもたらしている.学生諸君が本書を学ぶことにより,薬剤師,薬学者として必須の医療薬学の知識・技能・態度を身につけるとともに,医療の進歩に貢献するためのステップを踏み出すことを期待する.
2018年11月
赤池 昭紀
目次
第1章 薬物治療学総論
A 薬物治療にかかわる薬剤師が修得すべき事項の概要
1 薬物治療における薬剤師の役割
2 病院薬剤師
2.1 チーム医療における新たな業務内容の拡大と責任
2.2 求められる薬剤師の実力向上
3 薬局薬剤師
3.1 薬局を拠点とした地域住民の健康づくり
3.2 新スタイルの薬局で求められる薬剤師とは
B 薬の作用と体の変化
1 薬の作用
1 薬が作用する仕組み
2 薬理作用の分類
2.1 直接作用と間接作用
2.2 局所作用と全身作用
2.3 急性作用と慢性作用
3 主作用と副作用
4 薬理作用の選択性
5 薬物の併用による作用の増強と減弱
2 薬の用量と作用の関係
1 薬物の用量
2 薬物の用量-反応モデル式
3 薬物の用量-反応曲線
4 薬物の効力を示す指標
3 アゴニストとアンタゴニスト
1 アゴニストとアンタゴニスト
2 完全アゴニストと部分アゴニスト
3 逆アゴニスト
4 競合的アンタゴニストと非競合的アンタゴニスト
4 受容体,イオンチャネル,トランスポーター
1 受容体
1.1 G ンパク質共役型受容体(GPCR)
1.2 イオンチャネル型受容体
1.3 酵素内蔵型受容体
1.4 細胞内受容体
2 イオンチャネル
2.1 Na+チャネル
2.2 Ca2+チャネル
2.3 K+チャネル
2.4 Cl-チャネル
3 トランスポーター
5 細胞内情報伝達
1 細胞内情報伝達系
2 イオンチャネル型受容体を介する情報伝達
3 GPCRを介する情報伝達
3.1 Gsタンパク質共役系
3.2 Gi/oタンパク質共役系
3.3 Gqタンパク質共役系
4 酵素内蔵型受容体を介する情報伝達
6 薬物動態
1 薬物動態
2 吸収
2.1 受動拡散
2.2 促進拡散と能動輸送
2.3 消化管吸収と初回通過効果
3 分布
3.1 血漿タンパク結合
3.2 臓器関門
4 代謝
5 排泄
5.1 尿細管分泌
5.2 尿細管での再吸収
7 薬物の選択,作用にかかわる因子
1 薬物側因子
1.1 用量
1.2 物理化学的性質
1.3 投与経路
1.4 その他
2 生体側因子
2.1 人種差および性差
2.2 年齢差
2.3 疾病・妊娠
2.4 遺伝的要因
3 外的因子
3.1 併用薬
3.2 環境因子
8 薬物相互作用
1 薬物相互作用とは
2 薬物動態学的相互作用
2.1 吸収過程における相互作用
2.2 分布過程における相互作用
2.3 代謝過程における相互作用
2.4 排泄過程における相互作用
3 薬力学的相互作用
3.1 同一の作用点における相互作用
3.2 異なる作用点における相互作用
4 サプリメント・健康食品と薬物との相互作用
9 薬物依存,耐性
1 薬物依存とは
2 薬物依存の症状と治療
2.1 依存と耐性
2.2 治療
2.3 依存性薬物各論
第2章 症候・臨床検査
A 身体の病的変化を知る
1 臨床判断における症候の位置づけと臨床判断に必要な能力
1 症候とは
2 薬剤師にとっての症候の意義
3 症候を訴える患者・来局者に対応するプロセス
4 症候からの臨床判断に必要な能力
4.1 基本的な症候を示す疾患の系統的な理解
4.2 患者・来局者との面接による適切な情報収集
4.3 来局者ごとに適切な対応を判断・選択(トリアージ)して実施
2 代表的な症候
1 発熱(fever,pyrexia)
2 全身倦怠感(general malaise,fatigue)
3 発疹(eruption,esanthema,rash)
4 関節痛・関節腫脹(arthralgia,joint pain,arthrodynia/joint swelling)
5 腰痛(low back pain,lumbago)
6 月経異常(menstrual disorder)
7 咳・痰(cough/phlegm)
8 血痰・喀血(hemoptysis)
9 呼吸困難(difficulty of breathing,respiratory difficulty)
10 胸水(pleural effusion)
11 胸痛(chest pain)
12 動悸・心悸亢進(palpitation)
13 ショック(shock)
14 高血圧(hypertension)
15 低血圧(hypotension)
16 チアノーゼ(cyanosis)
17 脱水(dehydration)
18 浮腫(edema)
19 嚥下困難・障害(dysphagia)
20 悪心・嘔吐(nausea/vomiting)
21 食欲不振(anorexia,loss of appetite)
22 腹痛(abdominal pain)
23 腹部膨満(感)(abdominal distension)(腹水〈ascites〉を含む)
24 黄疸(jaundice,icterus)
25 下痢・便秘(diarrhea/constipation)
26 吐血・下血(hematemesis/melena)
27 意識障害・失神(disturbance of consciousness/syncope,fainting)
28 頭痛(headache)
29 痙攣(convulsion)
30 めまい(vertigo,dizziness)
31 記憶障害(memory disorder)
32 運動麻痺・不随意運動・筋力低下(motorparalysis/involuntary movement/muscle〈muscular〉 weakness)
33 知覚異常(しびれを含む)・神経痛(paresthesia,dysesthesia/neuralgia)
34 視覚障害(視機能障害)(visual impairment)
35 聴力障害(hearing impairment)
36 タンパク尿(proteinuria)
37 血尿(hematuria)
38 尿量・排尿異常(dysuria)
39 肥満・やせ(obesity/emaciation)
40 貧血(anemia)
41 出血傾向(bleeding tendency)
42 リンパ節腫脹(lymphadenopathy)
B 病態・臨床検査
1 一般検査(尿検査,糞便検査,脳脊髄液検査)
1 一般検査とは
2 各種検査法
2.1 尿検査
2.2 糞便検査
2.3 脳脊髄液検査(髄液一般検査,CSF)
2 血液学的検査
1 はじめに
2 各種検査法
2.1 末梢血液検査(血算,CBC)
2.2 血液形態学検査
2.3 血液凝固・線溶検査
2.4 電解質・酸塩基平衡検査
2.5 動脈血液ガス分析
3 臨床化学検査
1 はじめに
2 各種検査法
2.1 肝機能検査
2.2 腎機能検査
2.3 心機能検査
2.4 糖代謝検査
2.5 脂質検査
2.6 膵機能検査
4 免疫学的検査
1 はじめに
2 各種検査法
2.1 炎症関連検査
2.2 梅毒感染症・ウイルス感染症検査
2.3 腫瘍マーカー検査
2.4 自己抗体検査
2.5 内分泌学的検査
2.6 細胞性免疫検査
2.7 血液型検査
5 生理機能検査(心機能,呼吸機能,肝・腎機能)
1 生理機能検査とは
2 心機能検査
2.1 心電図
2.2 心エコー検査(心臓超音波検査)
2.3 シェロングテスト
3 呼吸機能検査
3.1 スパイロメトリーとフローボリューム
3.2 ピークフロー
3.3 パルスオキシメータ
3.4 影響を与える薬剤
4 肝機能・腎機能検査
4.1 肝臓病変
4.2 腎臓病変
5 薬剤師に期待される役割
6 病理組織検査
1 病理組織検査とは
2 病理組織標本作製,診断の過程
2.1 病理組織標本の作製
2.2 病理組織の染色法の選択,免疫染色,in situ ハイブリダイゼーション法
3 病理組織診断が提供する情報
3.1 悪性腫瘍の病理組織診断
4 薬剤の作用,副作用の病理組織診断
4.1 病理組織検索による治療効果判定
4.2 薬剤副作用の病理組織学的検索
5 薬剤師に期待される役割
7 画像検査
1 画像検査とは
2 各検査法
2.1 X線撮影検査
2.2 X線透視検査
2.3 血管造影検査
2.4 超音波(エコー)検査
2.5 CT検査
2.6 MRI検査
2.7 核医学検査
2.8 内視鏡検査
3 薬剤師に期待される役割
4 課題と展望
8 フィジカルアセスメント
1 概要
2 チーム医療の推進とフィジカルアセスメント
2.1 初期症状から患者の状態をとらえる
3 バイタルサインの評価法
3.1 脈拍
3.2 血圧
3.3 体温
3.4 呼吸
3.5 意識
4 添付文書とバイタルサイン
C 医薬品の安全性
1 薬物の副作用
1 薬物の副作用とは
2 有害反応と有害事象の違い
3 用量-反応曲線と副作用の原因
4 医薬品適正使用と薬剤師の役割
5 副作用モニタリング
6 副作用報告制度と副作用救済制度
2 副作用疾患と原因医薬品
1 はじめに
2 電解質異常
2.1 高ナトリウム血症(≧145mEg/L)
2.2 低ナトリウム血症(≦135mEg/L)
2.3 高カリウム血症(≧4.8mEg/L)
2.4 低カリウム血症(≦3.7mEg/L)
3 血液異常
3.1 薬剤性貧血
3.2 無顆粒球症(顆粒球減少症,好中球減少症)
3.3 血小板減少症
4 薬物性肝障害
5 薬剤性腎障害
6 消化器障害
6.1 偽膜性大腸炎
6.2 消化性潰瘍
7 循環器障害
7.1 血栓症
7.2 心不全
7.3 QT延長症候群
8 精神・神経障害
8.1 痙攣・てんかん
8.2 錐体外路障害
8.3 悪性症候群
8.4 薬剤惹起性うつ病
9 皮膚障害
9.1 手足症候群
9.2 皮膚粘膜眼症候群(SJS,TEN)
10 呼吸器障害
10.1 間質性肺炎
10.2 アスピリン喘息
11 薬物アレルギー(ショックを含む)
11.1 薬剤性過敏症症候群(DIHS)
11.2 アナフィラキシー
12 代謝障害
12.1 高血糖
12.2 偽アルドステロン症
13 筋・骨障害
13.1 骨粗鬆症
13.2 顎骨壊死
13.3 横紋筋融解症
14 おわりに
3 薬害,薬物乱用と健康リスク
1 薬害とは
2 代表的薬害
2.1 サリドマイド事件
2.2 薬害エイズ事件
2.3 ソリブジン事件
3 薬物乱用とは
4 ドーピングとは
第3 個別化医療
A 総論
1 はじめに
2 患者に対応した医療最適化
3 個別化医療
3.1 遺伝子情報
3.2 分子診断
3.3 がん領域
4 おわりに
B 個別化医療の現状と未来
1 はじめに
2 医師の診療と薬剤師のファーマシューティカルケア
2.1 医師の診療
2.2 薬剤師のファーマシューティカルケア:調剤時の注意点
3 ゲノム薬理学(PGx)の発展
3.1 ヒトゲノム計画
3.2 疾患関連遺伝子同定やゲノム創薬の広がり
4 分子診断技術の発展
4.1 オミックス研究とは
4.2 がん領域における発展
5 大規模データとネットワーク
5.1 システム生物学
5.2 バイオバンク
5.3 PGx関連ガイドライン
6 おわりに
C コンパニオン診断・医薬品
1 コンパニオン診断薬とは
2 コンパニオン診断薬の例
2.1 HER2の過剰発現検出キット
2.2 ALK融合遺伝子検出キット
2.3 BRCA遺伝子変異検査システム
2.4 PD-L1タンパク質検出キット
3 コンパニオン診断薬に求められる性能
3.1 分析性能
3.2 臨床性能
4 コンパニオン診断薬の開発
4.1 開発の流れ
4.2 コンパニオン診断薬の規制
5 最近の開発動向
5.1 次世代シークエンサーを用いたコンパニオン診断システム
5.2 コンパニオン診断薬としてのリキッドバイオプシー
D バイオマーカー
1 バイオマーカーとは
2 バイオマーカーの用途
2.1 投与前診断:患者選択または用量最適化
2.2 副作用の予測・軽減
2.3 安全性または有効性のモニタリング
3 バイオマーカーに関連する規制など
3.1 関連する指針
3.2 適格性確認
3.3 添付文書
3.4 保険診療
4 薬剤師が果たす役割
E 遺伝的要因
1 遺伝的要因解析に基づいた個別化医療
2 がん薬物療法における個別化医療
2.1 慢性骨髄性白血病(CML)におけるBCRABL遺伝子変異と薬剤選択の個別化
2.2 肺癌治療における遺伝的要因解析に基づいた薬剤選択
2.3 KRAS遺伝子変異と抗EGFR 抗体による大腸癌治療効果
2.4 乳癌の治療方針決定に役立つHER2遺伝子
3 precision medicine(精密化医療,精密医療)を目指した臨床研究
3.1 NCI-MATCH研究
3.2 SCRUM-Japan研究
4 ゲノム薬理学を活用した個別化医療
4.1 薬物代謝酵素の遺伝子多型解析
F 年齢的要因
1 はじめに
2 低出生体重児,小児,幼児,乳児,新生児の薬物治療
2.1 小児患者における薬物体内動態の特徴
2.2 小児薬用量の考え方
2.3 小児患者における薬物投与設計の留意点
3 高齢患者の薬物治療
3.1 高齢患者における薬物体内動態の特徴
3.2 高齢患者における薬物投与設計の留意点
4 薬剤師に期待される役割
4.1 小児患者の服薬管理
4.2 高齢患者の服薬管理
5 今後の課題と展望
G 臓器機能的要因
1 はじめに
2 腎機能と薬物投与設計
2.1 腎機能低下時の薬物体内動態変動
2.2 腎機能の評価方法と留意点
2.3 腎機能評価に基づく薬物投与設計
2.4 腎機能低下患者における薬物投与設計の留意点
3 肝機能と薬物投与設計
3.1 肝機能低下時の薬物体内動態変動
3.2 肝機能評価に基づく薬物投与設計
3.3 肝疾患患者における薬物治療・投与設計の留意点
4 心機能と薬物投与設計
4.1 心機能低下時の薬物体内動態変動
4.2 心疾患患者における薬物治療・投与設計の留意点
5 薬剤師に期待される役割
6 今後の課題と展望
H その他の要因
1 はじめに
2 薬物効果に影響する生理的要因
2.1 性差
2.2 閉経
2.3 日周期リズム
3 妊娠期・授乳期における薬物使用
3.1 妊娠時の薬物使用
3.2 授乳婦における薬物の使用
4 栄養状態の異なる患者における薬物体内動態と薬物治療上の注意点
5 薬剤師に期待される役割
6 今後の課題と展望
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書籍情報
- ISBN:9784521744506
- ページ数:336頁
- 書籍発行日:2018年11月
- 電子版発売日:2020年4月1日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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