序

心臓病の中でこの30年間に大きく変遷を遂げた領域は，不整脈だといえる．不整脈は頻脈，徐脈（含：伝導障害），期外収縮に大別され，その中でまた多数に細分類されるwide-spectrum 疾患である．1906年心電計にて心房細動が記録されて以来，上記のさまざまな不整脈の存在が認知されてきた．一方，その治療法は，頻脈には1910年代のキニジンにはじまるclass Ⅰ群～Ⅳ群抗不整脈薬による治療，徐脈には1970年代からペースメーカ治療が導入され主流となり，不整脈治療はここに一旦確立した．

しかし30年前にカテーテル焼灼術が臨床応用されるに至り，頻脈治療は根治可能となり一大転機を迎えた．1990年代には3D マッピングシステムが開発導入され，心房細動を中心に心室頻拍などの治療成績も格段に向上していった．同じく30年前に，心室細動・心室頻拍治療に植込み型除細動器（ICD），2000年からは心不全に心臓再同期療法（CRT）が用いられるようになり，ここに現在の不整脈・不整脈関連疾患の治療法が勢揃いした．

さらに，不整脈の中で最もcommon な心房細動治療には，アブレーション（焼灼術）に加えて，脳梗塞予防に画期的な抗凝固薬（非ビタミンK 抗凝固薬：NOAC）が加わり，現状の包括的治療戦略が確立した．血栓予防には左心耳閉鎖デバイスの導入も予定されており，今後の心房細動治療には，不整脈専門医のみならず他の循環器専門医も診療に参加が求められる時代を迎えている．

臨床の現場で診療に当たる循環器医にはwide-spectrum な不整脈の広範な知識（識る）と的確な診断（診る），そして頻繁に最新機器が開発・臨床応用される治療（治す）について十分に知悉することが求められる．具体的には，微小な植込み型レコーダーからMRI・3D マッピングなどに至る不整脈と不整脈基質の最新診断術，新規機器が導入されるアブレーション領域，今やリードさえもないペースメーカ領域，心臓へのリードが不要なICD が頻用されている心室除細動領域，有効率を上げる新しいCRT が開発される心不全領域に加えて，従来治療対象にならなかったBrugada 症候群などのチャネル病頻脈のアブレーション術など，多岐の領域にわたる．

時間的制約もあるなかで，頻脈から徐脈まで不整脈の全領域について学ぶのはなかなか容易ではないが，本書は第一線で活躍されている多数の不整脈専門医によって，最先端の診断法・治療法の真髄がコンパクトに解説されており，循環器診療に携わる医師のみならず，メディカルプロフェッショナルの方々にも是非ご活用いただきたい一冊に仕上がっている．日常診療にお役に立つことができれば，編者として望外の喜びである．

2018年　9月

「不整脈」専門編集
平尾 見三