序文

Common disease が多い皮膚科領域では，水虫・ニキビ・帯状疱疹など，皮膚科医よりも一般内科医（ジェネラリスト）の先生方が診断も初期治療もされている事例が多いと思われます．その際に，最近の治療のトレンドなど，もし身近に親しい専門医がいたら「こんなことを聞いてみたい」と思う疑問が数多くあるのではないでしょうか．医師会の講演会に行っても，どうしてもスペシャリストの先端的な話が多く，「日常的に遭遇する卑近な疾患の診療のコツ」をなかなか伝授していただけないというのが本音でしょう．逆に専門医の立場からも「最初にこの検査をしておいてほしかった」「いやあ，この治療はまずいよね」といった不満もあると思います．私も他科の境界領域の診療では，同じミスを犯している懸念もあります．

個人的な話で恐縮ですが，数年前に激しいめまいで1日だけ入院したことがあります．結果的には「良性発作性頭位めまい症」と診断されましたが，「小脳梗塞だったらどうしよう」という不安や「そんな病名，学生時代に習ったかなあ」と不勉強を恥じることしきりでした．こんなとき，コンパクトな「めまい」の知識をスペシャリストがわかりやすく教えてくださったら，どれだけ救われるかわかりません．身内の腰痛で相談を受けたり，内科疾患で通院している患者さんに「肉眼的血尿が出たんですけど」などと言われたりしたら，ジェネラリストとしてまず何をし，どの段階でスペシャリストに紹介すべきか，という明確な指針があると日常診療にすぐに役立つと思ったのが，今回の企画のきっかけでした．

本書はそんなジェネラリストのために，境界領域のスペシャリストがプライマリ・ケア102疾患を厳選して，とっておきの最新情報を2ページにまとめたものです．冒頭のエッセンスのあとに，ジェネラリストにとって必須の知識・専門医への紹介のタイミング・初期治療ですべきではないことなど，診療の実際を簡潔にまとめていただきました．最後に「スペシャリストからのとっておきのメッセージ」と「ジェネラリストに読んでほしい参考書」を挙げていただきましたので，興味が湧けばさらに深く学ぶことも可能です．

これまでジェネラリストがジェネラリスト向けに書いた本はありますが，スペシャリストが書いた本はおそらく本邦初かと思います．私も内容に惹き込まれて思わず校正紙ゲラを一気に読了してしまうほどでしたので，ジェネラリストの先生方が「この本を傍らに置いておけば安心」というワクワクする本になったと自負しています．是非，先生方の実践的な日常診療のお役に立てば幸甚です．

総編集 宮地良樹
京都大学名誉教授