急性呼吸不全《救急・集中治療アドバンス》

  • ページ数 : 336頁
  • 書籍発行日 : 2016年4月
  • 電子版発売日 : 2021年3月26日
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商品情報

内容

急性呼吸不全に対して,集中治療の現場では速やかな対応が求められる.本書では,急性呼吸不全を引き起こす急性呼吸窮迫症候群,慢性閉塞性肺疾患の急性増悪,人工呼吸器関連肺傷害,人工呼吸器関連肺炎などの病態を最新の動向を交えて説明したうえで,肺保護戦略に基づく人工呼吸管理,呼吸療法の実際を具体的に分かりやすく解説した.特殊な人工呼吸様式やECMOについても紹介する.

あわせて読む → 「救急・集中治療アドバンス」シリーズ

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序文

人工呼吸の歴史は比較的浅く,1950 年代にポリオが大流行した際に陽圧人工呼吸が死亡率を大幅に低下させることが知られ,人工呼吸器,気管チューブ等の器具などを中心に大きく発達してきた.人工呼吸器の技術的発達はまず自発呼吸との同調性改善に向けられ,ガス供給の精密化とセンサー技術の発展によるフィードバックシステムの改良が行われた.また陽圧人工呼吸の副作用が認識されるようになり,人工呼吸器関連肺傷害という概念が現れた.急性呼吸不全の代表的な病態である急性呼吸窮迫症候群に対する適切な人工呼吸を考える際には,それまでの主要評価項目であった血液ガスや自発呼吸との同調性に代わって,人工呼吸器関連肺傷害をいかに減らすかということが主目的となった.適切な人工呼吸を行うためには人工呼吸器を理解するだけでは十分でなく,呼吸不全の病態を深く理解することが必須となった.

呼吸管理に関する知識と技術は日進月歩であるため多数の解説書がすでに存在する.しかしながら,それらの多くは呼吸管理の初学者向けであり,用語の解説やQ&A集なのが実態である.これは,わが国における呼吸管理の主体が看護師や臨床工学技師であるということと無関係ではないと考えている.ここで本書を世に問う目的として,①できる限り最新の知識を解説すること,②各項目の内容を生理学的基礎や歴史的経緯を含めて記述し現在の立ち位置を理解できるようにすること,③現時点で判明していることと不明なことを明らかにすること,④将来の展望を記載すること,とした.人工呼吸器に新しい換気モードが搭載されたような場合に,過去に解決済みである問題が蒸し返された経験から,単に流行のトピックを追うだけでは混乱を生じる危険性があるとの反省によるものである.

編集にあたって,それぞれの項目の執筆者には上記の方針にのっとり追記や修正をお願いすることとなったが,快く応じていただき大変感謝している.用語に関しても項目ごとの齟齬がないように統一するように勉めたが,適当な日本語の用語が存在していないものもあり奇異な印象を受けられた場合はご容赦願いたい.項目間の矛盾はできるだけないように配慮したつもりであるが,執筆者の主張を尊重する観点から相反する部分がまったくないわけではない.しかし,どちらかが誤っているわけではなく,論争中の領域であるとご理解いただければ幸いである.

本書にも頁数の制約がありすべての領域を網羅することはできなかったが,急性期呼吸管理に関する主要部は解説されており,本書を通読することで呼吸管理に関して専門家に相応しい知識を得ることができると自負している.本書が,呼吸管理のさらなる質の向上と,臨床家の実践に少しでも役立てられればと祈念している.


2016 年3 月

藤野裕士
大阪大学大学院医学系研究科生体統御医学講座麻酔・集中治療医学教室教授

目次

1章 急性呼吸不全の病態

1-1 急性呼吸窮迫症候群 (河村 岳,山田芳嗣)

  1ARDSの病態

 2 ARDSの定義

 3 病態と定義の乖離

 4 今後の課題

1-2 慢性閉塞性肺疾患の増悪と気管支喘息発作 (蝶名林直彦,仁多寅彦,西村直樹)

 1 COPDの増悪と治療上の注意点

 2 気管支喘息発作と治療上の注意点

1-3 間質性肺炎の急性増悪 (近藤康博)

 1 急性増悪の病態と診断基準

 2 治療

 3 予後

1-4 術後呼吸不全 (下薗崇宏,讃井將満)

 1 定義

 2 原因,機序

 3 リスク因子

 4 予防

 5 治療

1-5 胸部外傷による急性呼吸不全 (中原貴志,鶴田良介)

 1 胸部外傷の初期評価で行う検査

 2 急性呼吸不全をきたす胸部外傷

1-6 人工呼吸器関連肺傷害 (吉田健史)

 1 stressとは

 2 stressの肺内分布

 3 人工呼吸器関連肺傷害(VALI)の構成要素

1-7 人工呼吸器関連肺炎 (志馬伸朗,細川康二)

 1 定義と疫学

 2 診断

 3 VAP発症の予後への影響

 4 新しいサーベイランス指標

 5 病態生理

 6 予防法とエビデンス

 7 治療

1-8 人工呼吸の循環への影響 (橘 一也,竹内宗之)

 1 静脈還流量と心拍出量

 2 自発呼吸が循環に及ぼす影響

 3 陽圧換気が循環に及ぼす影響

 4 左心不全症例の自発呼吸の影響

 5 左心不全症例への陽圧換気

 6 肺傷害が循環に及ぼす影響:陽圧換気と右心機能

2章 換気様式とパラメータ

2-1 アシストコントロール換気 (星 邦彦)

 1 アシストコントロール換気の概念

 2 量制御,圧制御:どちらを選ぶ?

 3 アシストコントロール換気の欠点を補う換気モード

2-2 間欠的強制換気 (大塚将秀)

 1 間欠的強制換気(IMV)とは

 2 同期式間欠的強制換気(SIMV)

 3 臨床応用とその注意点

 4 設定の実際

2-3 圧支持換気 (長江正晴,江木盛時)

 1 圧支持換気(PSV)とは

 2 PSVの作動

 3 PSVの利点

 4 PSVの立ち上がり時間の調整

 5 PSVを使用しない患者

 6 PSVによって呼吸仕事量が軽減しているかどうかを評価する方法

 7 吸気トリガー(圧トリガー,流量トリガー)

 8 呼気トリガー(termination criterion)

 9 PSVを用いたウィーニング

2-4 呼気終末陽圧 (中川 聡)

 1 静的圧容量曲線と肺容量

 2 高いPEEPと低いPEEP

 3 最良のPEEPの選択方法

2-5 逆比換気 (盛 直博,桑迫勇登)

 1 逆比換気(IRV)の定義

 2 IRVにおける酸素化改善のメカニズム

 3 IRVの換気設定における考え方

 4 IRVの換気設定の実際

 5 IRVを使用してもガス交換能が改善しない理由

 6 IRVの考えられうる副作用

 7 動物および臨床データによるIRVのエビデンス

2-6 人工呼吸器との同調性 (内山昭則)

 1 不同調の診断法

 2 不同調の分類

 3 吸気トリガー相の不同調

 4 換気モードと不同調

 5 吸気相の不同調

 6 吸気から呼気への転換相(吸気サイクルオフ相)の不同調

 7 不同調の影響

2-7 非侵襲的陽圧換気 (方山真朱,布宮 伸)

 1 NPPVのメカニズム

 2 NPPVで用いる換気モード

 3 NPPVの適応と禁忌,管理上の注意点

 4 NPPVが有効な疾患

3章 特殊な人工呼吸様式

3-1 high frequency oscillatory ventilation(HFOV) (中根正樹)

 1 high frequency oscillatory ventilation(HFOV)とは

 2 HFOVの原理

 3 成人でHFOVが可能な人工呼吸器

 4 成人ARDSに対するHFOVの有用性

 5 ARDS以外の患者へのHFOVの適応

3-2 airway pressure release ventilation(APRV) (小谷 透)

 1 APRVの「定義」と換気メカニズム

 2 APRVの設定方法

 3 APRVはなぜ必要か?

 4 APRVの適応と世界での使用状況

 5 APRV使用上の注意点と問題点

3-3 proportional assist ventilation(PAV) (齋藤伸行)

 1 PAV開発の経緯

 2 換気メカニズムと動作原理

 3 使用上の注意

 4 PAVモードの活用

3-4 neurally adjusted ventilatory assist(NAVA) (小寺厚志)

 1 NAVAの原理および換気メカニズム

 2 臨床データ

 3 適応と使用上の注意点

3-5 tracheal gas insufflation(TGI) (今中秀光)

 1 メカニズム

 2 方法

 3 臨床データ

 4 注意点

 5 TGI中のモニタリング

4章 人工呼吸中の管理

4-1 人工呼吸の適応 (萩谷圭一,水谷太郎)

 1 人工呼吸管理の適応となる各病態について

 2 人工呼吸開始の判断

 3 NPPVか,気管挿管か

4-2 肺保護的換気法 (吉田健史)

 1 肺保護的換気法とは

 2 肺保護的換気法を補助する治療

4-3 ウィーニングと抜管基準 (小野寺睦雄)

 1 離脱開始の基準

 2 自発呼吸トライアル(SBT)

 3 抜管

 4 人工呼吸からの離脱を促進する方法はあるのか?

4-4 鎮静,鎮痛 (土井松幸)

 1 人工呼吸中の鎮静,鎮痛の目的

 2 疼痛の管理

 3 不穏の管理

 4 せん妄の管理

 5 気管挿管下人工呼吸での鎮静法

 6 非侵襲的陽圧換気(NPPV)での鎮静法

4-5 筋弛緩 (内山昭則)

 1 急性呼吸不全と筋弛緩薬の歴史

 2 自発呼吸努力を温存した人工呼吸の利点

 3 筋弛緩の利点

 4 筋弛緩施行時の注意点など

4-6 腹臥位療法 (柴田純平,西田 修)

 1 腹臥位の生理学的利点

 2 人工呼吸器関連肺傷害(VALI)の予防

 3 腹臥位療法のエビデンス的意義

 4 腹臥位療法の適応とその条件

 5 腹臥位療法実施における合併症と注意点

4-7 分離肺換気 (岡原修司,森松博史)

 1 分離肺換気とは

 2 適応

 3 分離肺換気の実際

 4 疾患別の留意点

 5 分離肺換気の合併症

4-8 加温・加湿 (平尾 収,富田敏司)

 1 加温・加湿が必要な理由

 2 人工呼吸中の推奨加湿レベル

 3 加温加湿器

 4 人工鼻

4-9 モニタリング (渡邊具史,川前金幸)

 1 経皮的酸素飽和度(SpO2)

 2 呼気終末二酸化炭素モニタリング(PETCO2)

 3 人工呼吸器のグラフィックモニター

 4 electrical impedance tomography( EIT)

4-10 小児の人工呼吸 (文 一恵,竹内宗之)

 1 小児の呼吸器系の解剖学的・生理学的特徴

 2 小児の呼吸不全とARDS

 3 小児の人工呼吸管理の実際と問題点

4-11 麻酔中の人工呼吸 (森松博史)

 1 麻酔中および術後呼吸器合併症

 2 麻酔による肺容量と呼吸の変化

 3 麻酔中の無気肺の予防と肺血流

 4 集中治療室での肺保護的換気

 5 麻酔中の肺保護的換気のエビデンス

4-12 人工呼吸患者の搬送 (中村利秋~

 1 患者搬送の問題点

 2 病院間搬送における有害事象と対策

 3 院内搬送における有害事象と対策

 4 用手換気と機械換気の違い

 5 搬送用人工呼吸器

5章 extracorporeal membrane oxygenation(ECMO)

5-1 ECMOの概要 (市場晋吾)

 1 定義

 2 ECMOに関連する用語

 3 ECMOの歴史

 4 現代の治療成績およびエビデンス

 5 ECMOの種類

 6 ECMOの今後

5-2 VV-ECMOの適応と今後の展望 (梅井菜央,竹田晋浩)

 1 急性重症呼吸不全に対するVV-ECMOの適応

 2 VV-ECMOの今後の展望

6章 急性呼吸不全の薬物療法

6-1 ステロイド療法 (松田直之)

 1 グルココルチコイド受容体の抗炎症作用

 2 急性呼吸不全に対するステロイド療法

 3 敗血症性ショックにおけるステロイド療法

6-2 特殊医療ガス付加療法 (藤野裕士)

 1 一酸化窒素

 2 ヘリウム

 3 他のガス

6-3 その他の薬物療法 (橋本 悟)

 1 サーファクタント

 2 タンパク分解酵素阻害薬

 3 抗凝固薬

 4 スタチン

 5 β2刺激薬

 6 抗免疫療法

 7 同種幹細胞による治療

 8 その他

付録

1.加温加湿器一覧 (平尾 収,富田敏司)

2.HMEF一覧 (平尾 収,富田敏司)

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書籍情報

  • ISBN:9784521743325
  • ページ数:336頁
  • 書籍発行日:2016年4月
  • 電子版発売日:2021年3月26日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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