2020年春、コロナ禍により学会やセミナーが軒並み中止となった。前年度、約50講演あった依頼が大幅に激減し、失望状態で毎日を過ごしていた。しかし、物は考えようである。神様が私に大切な時間を与えてくれたと解釈し、本書の作成のために有意義な巣ごもり生活を開始した。

本書は、2018年に上梓した『下肢静脈エコーの攻略法 － web動画　みて！ マネて！いざ実践！』の職人技伝授シリーズの第2弾で、大動脈と腹部・下肢動脈を対象としている。

本領域を対象とした理由は、①食生活の欧米化と超高齢社会に伴う動脈硬化性疾患が増加し、超音波検査の重要性が高まっていること、②日本超音波医学会、日本消化器がん検診学会、日本人間ドック学会の3学会から公表されている『腹部超音波検診判定マニュアル』では、腹部大動脈が腹部超音波検査の対象臓器の一つとして位置付けられ、観察・評価の需要が高まっていること、③『超音波による大動脈病変の標準的評価法2020」（日本超音波医学会）、『大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン（2020年改訂版）』（日本循環器学会）が改訂され、本領域への関心が高まっていること、などである。

本書は、決して平板な教科書的内容のものではなく、単に文献を豊富に紹介した本でもない。日々、臨床の現場で試行錯誤しながら超音波検査を実践している方々が、すぐに活用できるように記述した。検査範囲の広い大動脈、腹部・下肢動脈では、各部位ごとに適切な画像描出方法が必要となる。紙面で学ぶことが難しい検査テクニックを、動画像でわかりやすく学ぶことができるようにしたほか、数多くの症例動画を供覧することで、代表的疾患の特徴的エコー所見が理解できるようにした。実際の症例に初めて遭遇した際、安心して検査を実施できるであろう。本書は、始めから順に読むのもよいし、興味のある領域から読んでもよい。中・上級を目指す方であれば、“職人技伝授”“ひとくちメモ”“ワンポイントアドバイス”“ピットフォール”などの欄を拾い読みしてもスキルアップできる。レポート作成に悩んでいる方であれば、代表的疾患の報告書の一部を掲載したので、ダウンロードして修正し、活用していただきたい。

日々の検査に不安を感じている方、症例に恵まれない環境のなかで働いている方、指導者がいない施設の方、後輩の指導を任されている中・上級者の方など、さまざまな立場の方に活用していただけると幸いである。そして本書が、“あなたにみられる患者さまのためになる本”となってくれることを切に願っている。

最後に、本書の発刊に際してご尽力をいただいたメディカ出版編集部の渡邊亜希子氏、動画撮影にご協力いただいたキヤノンメディカルシステムズ株式会社の皆さまに心から御礼を申し上げたい。

2021年8月18日

血管エコー職人
山本哲也