巻頭言

小生が本誌のゲストエディターを務めるのは2度目である．前回は第30巻4号，特集「超高齢者の消化器疾患　―その特徴と治療上の注意」（2015年3月発行）であった．当時，高齢者診療における臨床経験が深いトップランナーの先生方に執筆をお願いし，期待どおりの特集が完成した．しかし，治療法を論じるとき，診療ガイドラインを参考にするのが常であるが，当時，高齢者に特化したそのようなものは存在せず苦労した記憶がある．

前回の巻頭言に，当時の高齢者消化器病診療の課題について以下を挙げていた．

①　胃がん予防を視野に入れたHelicobacter pyloriの除菌は？

②　便潜血陽性者の大腸検査適応は？

③　早期消化管癌の治療戦略は？

④　肝癌予防における抗ウイルス治療の適応は？

⑤　膵胆道疾患の治療選択は？

⑥　PEG（経皮内視鏡的胃瘻造設術）の適応は？

⑦　消化器外科治療の選択基準は？

⑧　その他多数

いずれも高齢者の実地診療において悩ましい問題である．現在までいくつ解決したであろうか．忸怩たる思いである．

しかし，前回の特集から約7年経過し，この間に大きな進展があった．日本高齢消化器病学会から四つの高齢者診療ガイドラインが発行されたのである．エビデンスレベルの高い論文が少ないなか，大変な努力でまとめていただいた．ガイドライン担当理事の樋口和秀教授（大阪医科薬科大学），各ガイドライン作成委員長の藤原靖弘教授（大阪市立大学），磯本　一教授（鳥取大学），安田一朗教授（富山大学），そして各作成委員，評価委員の先生方に深く感謝申し上げたい．

ここでこの「日本高齢消化器病学会」について少し紹介したい．高齢者では生理的に，加齢とともにあらゆる臓器，器官の機能低下が起こり，恒常性の維持も容易に破綻をきたす特徴がある．そのため高齢者の診療は，青壮年者から得られた知見の延長線上にあるものではなく特別な配慮が必要となる．そこで高齢者の消化器病研究と診療に特化した「日本高齢消化器医学会議」が1998年に発足し，2006年には「日本高齢消化器病学会」と発展してきた．さらに2010年には「特定非営利活動法人」格を獲得している．2021年には第23回学術総会が樋口和秀会長のもと，大阪市にてハイブリッド形式で開催されたが，高齢者の消化器疾患について熱心に討議され，その関心の高さが窺えた．

本特集では，上記ガイドラインの執筆者をはじめ，各消化器病関連学会のガイドライン作成に携わった先生方に執筆をお願いした．まさに現在もっとも各領域において相応しい先生方である．本号により高齢者の消化器病診療が適切に行われ，またさらなる高齢者診療ガイドラインの作成が進むことを心から願っている．

高橋　信一（佼成病院内科）