斜視治療のストラテジー ~症例検討で学ぶエキスパートの思考と対処法~

  • ページ数 : 268頁
  • 書籍発行日 : 2017年6月
  • 電子版発売日 : 2022年2月4日
11,000
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商品情報

内容

53症例(画像760点)で、エキスパートの思考の流れと治療戦略がわかる !

一例一例が異なり、教科書通りにはいかない実際の斜視治療。「斜視はわからない」と悩む医師・視能訓練士のために、診断や治療方針を考える際に共通する“重要なポイント”をエキスパートがアドバイス ! 多くの治療方針のなかから最も適したアプローチは何かを選択する『思考回路』が身につくよう、エキスパートの対処法をまとめました。
【本書の特徴】
・各症例の症状や所見、問題点から検索できる。
・目の前の患者さんがもつ問題点をどのように考え、どのように対応していったかを時間軸に沿って掲載。
・総論「斜視治療の基本的な考えかたと戦略」で、診療の全体が理解できる。

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序文

「斜視はわからない」とよく言われる.

確かに,斜視の本質が外眼筋にあることはまれで,多くの場合,本質的な問題は屈折,調節,中枢といった目に見えない部分にある.そこで斜視治療は,屈折矯正やプリズム装用といった「光学的治療」,融像訓練や抑制除去訓練といった「視能矯正」,外眼筋に対する「手術」,さらに最近わが国で使用が認められるようになった「ボツリヌス毒素」など,複数の方法を組み合わせて行う.

手術手技を含む治療方法について記載した教科書や専門書は少なくないが,実際に行うとなると教科書通りにはいかないことが多い.たとえば調節性内斜視一つをとっても,乳児期に発症するため乳児内斜視との鑑別が困難な症例もあれば,成長に伴って遠視度数が増えていき頻繁に眼鏡を作り替えないといけない症例もある.眼鏡装用後の残余内斜視に対して手術に踏み切る判断をいつするのか,遠見眼位と近見眼位が大きく異なる場合にどうしたらよいのか,など考慮しなくてはならないことが多々ある.現実的には,一つの施設で診る症例数が限られているにもかかわらず,保護者からの治療に対する期待が大きく,医師へのプレッシャーは強い.そのため斜視の治療,特に手術に関しては消極的になり,「斜視はわからない」と避けてしまう.

根拠に基づいた医療(EBM)が重要なのは確かであるが,実際の斜視症例は一例一例が異なる.本来であれば,診断や治療に迷うような症例を持ち寄って情報交換をするとよいのだが,学会や論文では結果が良かった症例や,きわめてまれな症例しか報告されない.実際,私どもが毎月行っている斜視の症例検討会では,診断や治療方針の結論が出ないまま終わることが多い.ただし,医師と視能訓練士が集まって症例を見直すことで,診療の現場では気づかなかったものが見えてくる.さらに,実際の経験を積むことはできなくても,こうした症例検討会を通じて症例に対する経験を蓄積していくことは,斜視診療の向上のために大変重要である.

本書は「斜視はわからない」と思って敬遠している医師や視能訓練士に,斜視診療の現実を知っていただき,積極的に診療に参加していただきたい,という考えから企画に至った.診断や治療方法を系統的に記載するのではなく,各症例の症状や所見,問題点から検索していただけるように構成している.また,それぞれの症例がもつ問題点をどのように考え,どのように対応していったかを時間軸に沿って記載している.医師や視能訓練士が診断や治療方針に悩んだときに,似た症例を探して読んでいただくと,答えが見つかるかもしれない.斜視症例は一例一例異なってはいるが,診断や治療方針を考える際に共通する重要なポイントが必ずいくつか存在する.“エキスパートからのアドバイス”として,それぞれの症例に対する基本的なポイントを追加している.

ただし,本書は診断や治療の正解を記載しているとは考えていない.症例によっては,より良い治療方法や診断のための検査が不足している場合があることにお気づきになるだろう.斜視の治療方法は一通りだけではなく,さまざまなアプローチがあることを理解していただければ本書の役割は果たしている.治療は,患者さん自身にとって「より快適な見えかた(QOV)」,「より良い生活の質(QOL)」を得るために行うもので,医療者だけが評価をするものではない.「斜視はわからない」部分が多いけれど,斜視を治療することはできる.根治できなくても,患者さんに喜んでもらえることをご理解いただければ本望である.

最後に本書の出版にあたり,私どもを信頼して治療させてくださった患者さんとその保護者の方々,私のつたないアイデアを立派な書籍にまとめてくださった三輪書店の久瀬さん,そしていつも私どもを励ましてくれる浜松医科大学眼科学教室主任教授の堀田喜裕先生に深謝いたします.


2017年 6月

佐藤美保

目次

総論 斜視治療の基本的な考えかたと戦略・・・佐藤美保

第1章 内斜視

症例1 小児 乳児内斜視・・・清水有紀子

症例2 小児 乳児内斜視術後の残余斜視(両下斜筋過動と交代性上斜位)・・・王 瑜

症例3 小児 部分調節性内斜視・・・鈴木寛子

症例4    強度近視性内斜視(固定内斜視)・・・林 思音

症例5    開散不全内斜視(遠見で複視)・・・佐藤美保

症例6 小児 日によって斜視角が変わる内斜視・・・佐藤美保

症例7    調節けいれんを伴う内斜視・・・後関利明

症例8 小児 後天内斜視(調節性内斜視)・・・長谷岡宗

症例9 小児 非屈折性調節性内斜視・・・根岸貴志

症例10 小児 急性後天性共同性内斜視・・・佐藤美保

症例11 小児 急性内斜視(ボツリヌス毒素療法)・・・後関利明

第2章 外斜視

症例12 小児 間欠性外斜視(基礎型)・・・新井慎司

症例13 小児 V型外斜視・・・彦谷明子

症例14 小児 A型外斜視・・・鈴木寛子

症例15 小児 見かけ上の開散過多型外斜視・・・彦谷明子

症例16 小児 恒常性外斜視・・・鈴木寛子

症例17    恒常性外斜視・・・清水有紀子

症例18    輻湊不全型間欠性外斜視(遠見で複視)・・・土屋陽子

症例19    輻湊不全型間欠性外斜視(近見で複視)・・・土屋陽子

症例20    内斜視術後外斜視・・・澤田麻友

症例21    乳児内斜視,内斜視術後外斜視・・・澤田麻友

症例22    A型外斜視,交代性上斜位,上斜筋過動・・・鈴木寛子

症例23 小児 間欠性外斜視(斜位近視)・・・根岸貴志

第3章 上下斜視

症例24 小児 乳児内斜視に伴う下斜筋過動と交代性上斜位・・・王 瑜

症例25 小児 先天上斜筋麻痺(首のかしげで見つかった上下斜視)・・・王 瑜

症例26 小児 先天上斜筋麻痺(第1眼位正位で診断に迷う)・・・古森美和

症例27    Brown症候群と迷う上斜筋麻痺・・・佐藤美保

症例28 小児 先天性Brown症候群・・・清水有紀子

症例29 小児 単眼性上転障害:両上転筋麻痺(上直筋+下斜筋)vs.下直筋線維症・・・ 橋本清香

症例30 小児 単眼性上転障害(両上転筋麻痺に下直筋・上斜筋拘縮の合併)・・・佐藤美保

症例31    Sagging eye syndrome・・・後関利明

症例32 小児 下斜筋過動症・・・鈴木寛子

第4章 麻痺性斜視

症例33    後天性滑車神経麻痺・・・古森美和

症例34    外傷性両側滑車神経麻痺・・・佐藤美保

症例35    動眼神経麻痺・・・林 思音

症例36    動眼神経不全麻痺・・・彦谷明子

第5章 特殊な斜視

症例37 小児 重症筋無力症・・・根岸貴志

症例38 小児 慢性進行性外眼筋麻痺・・・鈴木寛子

症例39    廃用性斜視・・・古森美和

症例40    眼窩底骨折後斜視・・・西村香澄

症例41    Duane症候群(外斜視)・・・佐藤美保

症例42 小児 Duane症候群(upshoot,downshoot)・・・佐藤美保

症例43 小児 両眼Duane症候群(内斜視)・・・佐藤美保

症例44    甲状腺眼症・・・鈴木寛子

症例45    何をしても消えない複視・・・稲垣理佐子

症例46    医原性内直筋断裂・・・西村香澄

症例47    小角度の上下斜視・・・根岸貴志

症例48    網膜剥離術後斜視(バックルを外す方法)・・・彦谷明子

症例49    網膜剥離術後斜視(バックルを残す方法)・・・古森美和

症例50    原因不明の大角度の上下斜視(上直筋萎縮)・・・王 瑜

症例51    外傷性両耳側半盲を伴う外斜視・・・西村香澄

第6章 眼振

症例52 小児 眼位性眼振・・・根岸貴志

症例53 小児 眼振阻止症候群・・・梅田千賀子

特徴別の症例INDEX

本書で使用する略語一覧

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書籍情報

  • ISBN:9784895905930
  • ページ数:268頁
  • 書籍発行日:2017年6月
  • 電子版発売日:2022年2月4日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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