はじめに
2005年に故 村上美好さん監修のもとに高度救命救急センターの第1線で活躍している看護師とともに『写真でわかる 急変時の看護』を刊行しました。そのころは看護師が病院施設内での患者の急変時の対応をタイムリーに的確に実施できるよう、救急カートやアンビューバッグなどの備品についても記載しました。また、看護学生が急変時の看護を学ぶテキストになるよう企画しました。その後も最新の知見に基づいたテキストになるよう、定期的に改訂を行ってきました。
一方、心肺蘇生法(CPR:CardioPulmonary Resuscitation)に関する歴史をふりかえると、日本の心肺蘇生法の普及や方法の統一は世界から遅れをとっていましたが、2000年の国際蘇生連絡委員会(ILCOR:International Liaison Committee onResuscitation)の国際ガイドラインの発表を契機に、国際標準のCPR導入と国内における方法の統一化、エビデンス発信などがスタートしました。2002年に日本蘇生協議会(JRC:Japan Resuscitation Council)が発足し、「救える命を救う」を目指して、院外での救急救命士の包括的指示による電気ショック、市民による自動体外式除細動器(AED:Automated External Defibrillator)使用が解禁され、2005年には総務省消防庁による全国規模での院外心停止全例登録が始まりました。そして、2006年に日本のILCOR加盟が実現しました。ILCORの「心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR:International Consensus Conference onCardiopulmonary Resuscitation and Emergency Cardiovascular Care Science WithTreatment Recommendations)」作成に参加することにより、世界で共通のコンセンサスに基づいて、日本における心肺蘇生法の標準であるJRC蘇生ガイドラインが2010年に誕生し、5年毎の改訂が行われています。
このように発刊から17年の間には、改訂される心肺蘇生法を医療従事者が学び、トレーニングを繰り返すことの普及と市民による一次救命処置(BLS:BasicLife Support)・AEDの普及、二次救命処置(ACLS:Advanced Cardiovascular LifeSupport)の進化によって、救命率と社会復帰率は向上し、国民はその恩恵を受けています。また、副次的効果として医療者のための標準化された教育トレーニングコースも多く行われており、地域格差や医師個人の裁量に左右されない標準的な救命救急医療が普及し、医療チームの協働化も進みました。
明治時代の医師は、聴診器や舌圧子、打腱器などを使用して診察していました。現在はこれらの医療機材を、臨床看護師が使用することは当然ですし、看護学生もフィジカルアセスメント教育で使い方を学び、技術を習得し実習しています。超音波診断装置も同様で、使用が開始された1949年当初は、希少で高価なため限られた病院で医師のみが使用していましたが、現在では、臨床看護師も活用しています。中でも特定行為が実施できる診療看護師は、超音波診断も行い、末梢挿入中心静脈カテーテル(PICC:Peripherally Inserted Central Catheter)挿入にも活用しています。
COVID-19のパンデミックがはじまって2年が経過しようとしていますが、まだ続きそうです。その後の世界は元には戻らず、新たな進化をしていきます。AI(人工知能)の活用や在宅勤務、会議のあり方や教育のIT化は加速度がつきました。医療ではオンライン診療がはじまり、ドローンを活用した配送、人の移動など、アバターやバーチャルの世界が現実のものとなってきています。
地球や産業などの環境は大きな変化をしても、人の体の仕組みや病気の成り立ちなど、動物としての人間には変化はありません。疾患データや遺伝子データなどのビッグデータから未来の予想はできても、疾病予防には人の行動変容が必要です。未来の世界では、看護が大切にしている「心に寄り添う看護」が価値をもつと考えています。適切なフィジカルアセスメントを使って総合判断し、適切な看護ケアを実施する「身体を病んだ人の心に寄り添う看護」が、貴重な看護技術になると予感しています。
予測不可能な事態に直面したら、まず手を出す。そのためには日頃からの教育訓練を定期的に受講し、すぐに使える技術にしておくことが大切です。
本書は「JRC蘇生ガイドライン2020」に準拠し、学生・初学者はもとより、看護経験者にとっても役立つテキストとして構成しています。さらに本書は書籍の内容をわかりやすく、リアルに解説したWeb動画が付属しています。皆様にとって新たな視点が広がれば幸いです。
2022年1月 吉日
松月 みどり