序

“The best interest of the patient is the only interest to be considered.My own religion has been to do all the good I could to my fellow man,and as little harm as possible.”

─ William Worrall Mayo, M.D.

心臓血管外科医を志す若者にとって，「最も大切な目標は」と尋ねると「卓越した技術をもつ外科医になりたい」との答えが返ってくる．当然の話である．人の体にメスを入れることが許されるのは，外科医がその技術を駆使し，術後，患者に満足度の高い生活の質と，より長く豊かな人生を提供することを前提としているからである．

このたび発刊された《心臓血管外科手術エクセレンス》シリーズ第１巻『心臓血管外科手術基本手技』は，これまで発刊された『弁膜症の手術』『冠動脈疾患の手術』『大動脈疾患の手術』と若干，趣が異なっている．これまでの３巻は各分野の最先端の技術の修得を目標としているが，第一人者による明快な解説と質の高いビデオ，そして何よりも小児心臓血管外科医として40 年以上活躍してこられた長田信洋画伯にしか描けない精緻な手術画によって，見事にその目的が達成されている．一方，この第１巻は，すべての心臓血管外科医にとって必須であるnontechnical

skills にも着目し，「手術室でのチームワーク・意思決定・振る舞い」や「インフォームド・コンセントのあり方」にも言及した．また，technical skills に関しては，適切な手術手技を選択し，正確な基本的手技を身に付け，起こりうる合併症を未然に防ぐために何が必要かについて，第一線で活躍する外科医達が，次の世代を担う若手外科医に重要なメッセージを伝えてくれていると確信している．

将来長く語り継がれよう現在のコロナ禍にあって，多くの執筆者にZoom を用いた校正会議をお願いしたところ，多忙な時間を割いて快く議論に参加していただいた．長田画伯とそれぞれの分野の練達，編集部の方たちを交えたディスカッションは，私にとって至福のひと時であり，本テキストの完成度を高めるのに大いに役立ったと自負している．彼らとの議論のなかで痛切に感じたのは，術前に手術の細部にわたるイメージトレーニングを行い，起こりうる合併症を予見し，その対処法について周到な準備をすることの大切さである．本書が，志の高い若手心臓血管外科医諸君にとって座右の書となり， “Patient Best Interest”を達成する一助となれば幸いである．

2022年2月

責任編集　坂東　興
東京慈恵会医科大学心臓外科学講座