はじめに

日本の新型コロナウイルスの新規感染者数は二〇二一年八月に第五波のピークを迎えた後、急速に減少し、新規感染者数は全国で一〇〇人前後まで減りました。しかもこの少ない感染者数は比較的長く維持されていました。そこに新たな変異株のオミクロン株が出現し、その感染力の強さから、二〇二二年の年が明けて急速に患者数が増加し、第五波のピークを越え、第六波へ突入してしまいました。

このようにコロナは何回かの波を繰り返していますが、コロナに感染して治った後にいろんな症状が残って、つらい思いをしている人がいることが、世界的にわかってきました。症状は多彩でしかも長期に及び、生活に大きな影響を与えている場合もあります。コロナは若い人では一般的に軽症で済むことが多いので、「風邪」程度に考えている人もいますが、だるさ、嗅覚障害・味覚障害、息苦しさなどが退院しても長期に及ぶ人がいます。これらは後遺症として取り上げられるようになりました。

後遺症の呼び名ですが、Long COVID、post COVID-19 condition、post-acute sequelaeof COVID-19、chronic COVID syndrome、long-haul COVIDなどとたくさんあります。

最近ではpost COVID-19 condition（コロナ感染後の症状）という言葉に統一されつつあるようです。問題の症状を広く拾い上げるための言葉です。日本の『新型コロナウイルス感染症（ＣＯＶＩＤ-19）診療の手引き』では「罹患後症状」としています。ただ、日本ではコロナ後遺症という呼称が広く使われており、理解しやすいので、本書ではコロナ後遺症を用います。

コロナ感染症は全身の臓器に影響を及ぼすので、いろんな臓器症状が出ます。コロナ自体による臓器障害が残ったり、もともと持っていた持病が悪化して長引いたり、コロナに感染したことによるストレスが精神的な障害を引き起こしたりと、コロナ後に残る症状の原因がコロナウイルスによるものだけでない可能性があります。いずれにしても、コロナ感染をきっかけにつらい症状が長引いている人がいることは確かで、感染しないことが一番ですが、運悪く感染してしまい、何らかの症状が残った場合、どうしたらよいのでしょうか。コロナ後遺症の定義、起こる理由、治療法などまだまだはっきりしていないことが多いのですが、本書ではコロナ後遺症について最近までわかってきたことをまとめてみました。

二〇二二年三月吉日

独立行政法人国立病院機構東京病院感染症科　部長
永井英明