序文

膀胱癌診療が今熱い。免疫チェックポイント阻害薬（ペムブロリズマブ）は転移性尿路上皮癌治療に劇的な変化をもたらした。これまで限界と思われた化学療法にもddMVAC で進歩がもたらされた。新規免疫チェックポイント阻害薬アベルマブが化学療法後の維持療法に使用できるようになった。さらに，抗体薬物複合体治療（エンホルツマブ ベドチン）も近々世に出るという。

一方でロボット支援膀胱全摘が行えるようになって久しく，目新しい感はなくなりつつある。とはいえ技術的な課題は多く，今なお多くの施設で手術手技の確立に向けて努力されていることと思う。その他，診断，膀胱温存など浸潤性膀胱癌をめぐっては話題に尽きない。

以上から今回は「ホンネで語る，浸潤性膀胱癌の診断・治療の現実」という特集を企画した。論文に記載されているデータのみならず，実際にやってみてどうだったか，自分の施設ではこのように運用している，などといった生の声をできるだけ載せていただくように，各執筆者にはお願いした。「尿路上皮癌のゲノム診断と臨床応用の可能性」では，最近論文化された上部尿路上皮癌のゲノム解析の結果をもとに東京大学の藤井先生に結果の概要を述べていただき，さらに尿を用いたリキッドバイオプシー，遺伝子変異に基づいた治療選択の可能性，ゲノム診断の限界等について解説をお願いした。「VI-RADS によるMRI 膀胱癌深達度診断」は京都橘大学の鳴海先生にお願いし，最近の進歩について画像を多く取り入れて解説いただいた。図はとても見やすくかつわかりやすく，MRI 診断への理解が深まる内容である。明日からの日常診療に役立つことは間違いないと思う。「膀胱全摘術におけるリンパ節郭清の実践」は帝京大学の中川先生に解説いただいた。膀胱全摘リンパ節郭清については数多くのデータが渾然一体としている。本論文では多くの報告が丁寧にまとめられており，郭清の意義，効果などわかりやすく述べられている。

「ロボット支援完全体腔内尿路変更術のコツと注意点」は自治医科大学の藤村先生に解説いただいた。ロボット手術で最も厄介なものは体腔内での尿路変更である。時間もかかるうえ，手技も高度である。いかに手際よく尿路変更を遂行するかについて，かなり参考になる論文であると思う。

「膀胱癌薬物療法の新展開」は九州大学の猪口先生にお願いした。従来の化学療法，免疫チェックポイント阻害薬，抗体薬物複合体薬など，現在治験中の薬物も含めて膀胱癌薬物療法について解説いただいた。一読すれば膀胱癌薬物療法について，これまでの知識が整理されるのではないかと思う。

最後は「筋層浸潤性膀胱癌に対する新規治療戦略：膀胱温存療法のさらなる発展に向けて」と題して大阪医科薬科大学の東先生に解説をお願いした。膀胱温存はQOL の面でかなり優れた治療法である。本論文では経験豊富な施設での治療成績や経験が述べられており，今後の参考になるのではないかと思う。

本特集ではいずれの論文でも普段行っている「生の」工夫や秘訣が，詳しくわかりやすく解説されている。この企画が明日からの膀胱癌診療に少しでも役立てば幸いである。

東京大学大学院医学系研究科泌尿器外科学分野
久米　春喜