序文

本特集では，泌尿器科救急の現状を総括し，一部の対象疾患においては最近の新知見を紹介する内容になっている。泌尿器科救急疾患は多岐に及ぶが，頻度が高く，緊急性を要する項目を取り上げた。

診療時間外に飛び込んでくる救急患者に対応するのが研修医や若手医師であることが通例となっている現状では，待機治療（待療）に繋げる初期治療（初療）が重要で，初療の適否が後遺症や合併症の存在の有無など結果に影響することがある。患者の重症度に基づいて，治療の優先度を決定し，治療内容を選別する作業において，トリアージの概念に符合する。特に，救急医療の場では，迅速で的確な判断が求められる。各執筆者には初療から待療への手順をフローチャート形式で簡潔に記載し，待療へのステップで押さえておきたいポイント／初療で注意しておきたいポイントをあげてもらった。

近年の救急医療の進歩は目覚ましく，研修医や若手医師の関心も非常に高い。泌尿器科救急の分野においても長足の進歩がみられる。好例として，泌尿器外傷におけるIVR（interventionalradiology）の適応拡大と有用性が認知されている。外傷症例のみならず，非外傷症例において経皮的ドレナージやステント留置が超音波ガイド下や内視鏡下で容易に施行されている。広く外傷診療の分野では，質の向上を目的に，「防ぎうる外傷死亡＝preventable trauma death」を回避するための外傷初期診療ガイドライン（JATEC）と教育プログラムが開発されており，尿路外傷にも適応される。さらに，外傷自身や急速輸液蘇生による凝固異常（acute traumatic coagulopathy/resuscitation-associated coagulopathy） を回避するためにDCR（damage controlresuscitation）という概念が浸透している。また，敗血症ショック時の初期蘇生の重要性も指摘されている。泌尿器科救急における新知見としては，急性陰囊症の鑑別診断と治療のために，初診時の臨床所見と身体所見によるスコア化の試みが報告されている。精巣捻転症の治療においても精巣白膜減張切開術により精巣救済率の改善が示されている。

昨年からの新型コロナ感染禍の中で，コロナ感染患者や疑い患者の救急搬入の対応には当初の混乱状態が改善され，多くの施設でマニュアルが作成されている。本誌では，当院のマニュアル作成責任者であり，コロナ患者の治療に当たっている呼吸器外科医の宮田先生に特別寄稿をお願いした。

本特集が緊急時に必要な処置，対処法を知る咄嗟の時の虎の巻として活用されれば幸いである。

新久喜総合病院
勝岡　洋治