臨床に活かす 薬物動態の強化書

  • ページ数 : 141頁
  • 書籍発行日 : 2022年8月
  • 電子版発売日 : 2022年8月2日
2,750
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商品情報

内容

できる限り平易で実践的な知識・解釈を学べる薬物動態の本できました

臨床現場に出てから再び勉強しようとして,十分な時間をとれなかったり,数式が理解できなかったり,挫折したことはありませんか?
誤った知識・解釈でピットフォールに嵌まっていませんか?
本書は,薬物動態の基本の「き」から,添付文書情報の活用術,臨床現場でよく遭遇するピットフォールを知りどのように理解するかなど,臨床に活かす薬物動態の知識・解釈を身につけ鍛えることができる一冊です.

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序文


臨床薬物動態学は,投与量,投与・採血時間および薬物血中濃度などの情報に加えて,生化学的・生理学的な患者の情報(年齢,性別および血液検査値など)を定量的に組み込み,薬物の吸収,代謝,分布,排泄について,薬物速度論モデルを利用して予測・説明するものです.個別化投与設計に用いられる治療薬物モニタリング(Therapeutic Drug Monitoring:TDM)は,臨床薬物動態学が基本となっています.臨床系の関連学会に参加すると臨床薬物動態学に関するたくさんの発表がありますが,次のような質疑応答を耳にすることがあります.

・薬物の分布容積が大きいから消失半減期が長い

・脂溶性薬物だから組織移行性が良い

・平衡に達しているので血中と組織の薬物濃度は等しい

・2相性の薬物動態を示すので組織移行性が良い

・ベイジアン法で推定した“血中濃度”の予測性がよくないので,このTDM解析ソフトは使えない

これらのすべてが,若干正しく,大きく間違っています.臨床薬物動態学のある一面からしか知識を得ておらず,それに付随する基本的・基礎的な知識・情報が欠落しているのかもしれません.

薬学教育で臨床薬物動態学は「薬物動態学」や「生物薬剤学」という科目授業で講義を受け,演習・実習で理解を深めます.本来,臨床薬物動態学・臨床薬物動態解析は,患者の実測もしくは予測された薬物血中濃度や薬物動態パラメータを用いて,ベッドサイドでの個別化治療に貢献するものです.このためには,先述の学問領域以外に,臨床医学,薬学,生物学,統計学などの知識が不可欠で,横断的な知識が必要となります.薬物動態学の表層だけの知識で個別化投与設計について議論することは避けなければいけません.

以前TDMは,複雑な公式やプログラムを理解できる薬剤師が担当することが多く,職人芸的な要素が強いと言われていました.しかし近年は,投与時間,採血時間の情報を得て,シミュレーションソフトや各種ガイドラインを用いて投与設計を行う薬剤師も増えています.また,簡便に解析を実行するソフトウェアが(無料)配布されていますが,背景の理論を理解しないままにそれがブラックボックス的に使用されることも少なくありません.私は投与設計に携わる薬剤師は,感覚的な理解ではなく,数式をはじめとした基本的・基礎的な知識・解釈をきちんと理解する必要があると考えています.ただ,臨床現場に出てから再度勉強しようとしても,十分な学習時間を確保できなかったり,数式が理解できなかったり,挫折してしまうことも多いです.そこで,できる限り平易かつ実践的に臨床薬物動態学の知識・解釈を学べる本書を企画しました.

本書は4つの章で構成されています.1章は,薬物動態パラメータの基本的な理解を深めるため,教科書の内容をわかりやすくまとめました.難解な表現を極力避け,臨床現場に応用可能な数式を汎用しています.大学生に戻った気持ちで臨床薬物動態学を復習する契機となれば幸いです.2章は,添付文書の薬物動態の項目を読み取り,そこから投与設計に結びつける内容で構成しました.また,どのような場面で添付文書が活用されるのか,代表的な事例を紹介しています.3章は本書のメインとなる章です.臨床現場で遭遇する事例をQ&A形式で記載しました.臨床における薬物動態の誤認識から想定される「それってウソ・ホント」の事例を記載しています.各事例に対して臨床薬物動態学の分野で活躍されている専門家を迎えて,詳細な解説を加えました.この考えで薬物投与設計が実施された場合,どのような結末を迎えるのか,そこに正しい考え方を基礎的・臨床的な視点から修正を加えるよう解説しています.もし,自分だったらどうするのか,どのように医師や薬剤師に伝えるのかなどを想定しながら読み進めていただきたいです.4章では臨床薬物動態のスキルをステップアップしていくためのアプローチを記載しています.医薬品開発の現場から研究,そして臨床に還元していくための方略が記載されています.

本書の作成にあたり,共同編者および著者としてご協力をいただきました笠井英史氏,および各章の執筆にご尽力いただきました著者のみなさまに厚く御礼申し上げます.最後に,多大なご支援をいただきました南山堂編集部 根本英一氏に感謝申し上げます.


2022年6月 編者を代表して

辻 泰弘

目次

1章 さらっと復習! ひと目でわかる薬物動態のキホン

1.薬物動態を計算するためのキホン

1) 微分・積分

2) 生体内における薬物量の変化と微分方程式

3) 消失速度定数(elimination rate constant)

4) 微分方程式を解く

2.薬物量と薬物血中濃度の関係

1) コンパートメントモデル

2) 薬物量から薬物血中濃度へ

3.臨床に活かす薬物動態パラメータのキホン

1) 消失速度定数の求め方

2) 消失半減期 (elimination half-life)

3) クリアランス (clearance)

4) 分布容積(volume of distribution)

5) 消失速度定数・クリアランス・分布容積の関係

6) 経口投与の1-コンパートメントモデルと吸収速度定数(absorption rate constant)

7) 吸収速度定数・Tmax・Cmax

8) 経口投与後血中へ移行するまでの経路

9) 生物学的利用率(bioavailability)

10) Area under the curve(AUC)

付録1:急速静脈内投与の1-コンパートメントモデル微分方程式の解き方

付録2:対数の基本的な性質

2章 添付文書を医療現場でどう活かす? 薬物動態パラメータの考え方と使い方

1.添付文書の記載内容と考え方

2.実際に使ってみよう!薬物動態パラメータの活用事例

1) メロペネムの投与設計の考え方(成人)

2) メロペネムの投与設計の考え方(小児)

3) 剤形変更による用量換算の考え方

4) 腎機能低下時の投与量調整の考え方

5) 食事の影響を受けやすい薬物への対応

6) イブプロフェンが高度な黄疸のある患者に禁忌の理由

7) プレドニゾロン注射から内服への剤形変更と併用薬の相互作用について

8) 授乳中(後)の薬の服用について

3章 よくある誤解に要注意! 薬物動態のピットフォール

CQ1.薬物の分布容積が大きければ消失半減期は長くなる?

CQ2.薬物の分布容積が小さいから組織移行性が悪い?

CQ3.消失半減期と投与間隔にかかわらず,5回投与すると定常状態に達するので,5回目の投与直前のトラフ濃度を採血する?

CQ4.定常状態は平衡状態のことであり,薬物濃度は血中と組織で等しくなる?

CQ5.2-コンパートメント様の薬物動態を示すので組織移行性が良い?

CQ6.バンコマイシンのトラフ値が9.0μg/mLと低かったので,1日投与量2.0gは変えずに,1日2回投与から1日4回投与にしてトラフ値上昇を提案?

CQ7.バルプロ酸の有効治療域は50~100mg/Lで,濃度測定値が105mg/Lだったので減量する?

CQ8.脂溶性薬物だから組織移行性が良い,水溶性薬物だから組織移行性が悪い?

CQ9.初回負荷投与を行うと定常状態への到達が早くなる?

CQ10.透析患者は透析中の薬物除去率を考慮して投与量調整を行えばよい?

CQ11.肝臓で代謝阻害を有する薬物を併用・中止した場合の薬物血中濃度はどうなる?

CQ12.尿中未変化体排泄率が低くても腎排泄型の薬物となることはある?

CQ13.トラフ濃度が効果の指標であれば静注から持続点滴に変更すればよい?

CQ14.ベイジアン法で推定した血中濃度の予測性がよくないので、このTDM解析ソフトは使えない?

4章 ステップアップ!新薬情報→研究→臨床への還元のアプローチ

STEP1.基礎:新薬の薬物動態パラメータを臨床現場でどう活用するか

STEP2.基本:添付文書とTDMでは薬物動態が予測できない薬はどうするか

STEP3.発展:薬物動態解析結果の情報を臨床に還元する上での注意点

STEP4.応用:初心者向け臨床研究をスタートするための方策

Column

1.PKパラメータの変動係数50%は患者間の変動が大きい?小さい?

2.定常状態にはいつ到達する?薬物はいつ体から消失する?

3.吸収率とバイオアベイラビリティは同じ?混同されがちな両者

4.CYPsの阻害・誘導は代謝に影響するがトランスポーターの阻害・誘導は何に影響する?

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書籍情報

  • ISBN:9784525778613
  • ページ数:141頁
  • 書籍発行日:2022年8月
  • 電子版発売日:2022年8月2日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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