Prostate Journal 2023年4月号(Vol.10 No.1)【特集】前立腺肥大症研究の進歩

  • ページ数 : 98頁
  • 書籍発行日 : 2023年4月
  • 電子版発売日 : 2023年5月2日
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内容

【特集】前立腺肥大症研究の進歩
前立腺肥大症の自然史/腸内細菌叢と前立腺肥大症/男性下部尿路症状におけるバイオマーカー ほか

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序文

序文

男性下部尿路症状・前立腺肥大症診療ガイドライン2017 年版によれば,前立腺肥大症は「前立腺の良性過形成による下部尿路機能障害を呈する疾患で,通常は前立腺腫大と下部尿路閉塞を示唆する下部尿路症状を伴う」と定義されています。同ガイドラインには,出版当時の最新の知見に基づいた「病態」の記述がありますが,出版から6 年が経ち,最新の研究成果や今後の動向を共有したいと考え本特集を企画しました。前立腺肥大症の研究に携わっている13 名のエキスパートに,それぞれの専門分野における「前立腺肥大症研究の進歩」について執筆していただきました。前立腺肥大症の研究を行うに当たって,疾患の自然史を理解することはきわめて重要です。これまでの研究結果から,加齢とともに下部尿路症状は悪化し,最大尿流量は低下し,前立腺体積は増大することが分かっています(福多史昌先生)。前立腺肥大症の進行に関わる予測因子の解明など,一般住民を対象とした新規縦断研究が望まれます。

前立腺肥大症に伴う下部尿路症状には膀胱出口部閉塞が強く関与しています。膀胱出口部閉塞の病態を再現し,機序を解明するためには動物モデルが不可欠であり,橘田岳也先生より,動物種別モデルの特徴とともに,部分的膀胱出口部閉塞の手技が紹介されています。また,宮里実先生は,若年および加齢ラットを用いた研究結果から,加齢による膀胱尿道機能障害とそれに伴う低活動膀胱へ至る仮説を紹介しています。自然発症高血圧ラットを用いた実験で,低用量アンジオテンシンⅡタイプ1 受容体拮抗薬(ARB)の慢性投与が前立腺血流を改善することが報告されています(清水翔吾先生)。高血圧を有する前立腺肥大症患者におけるARB の有用性が示唆されます。

前立腺肥大症の臨床像に慢性炎症が関わっていることが知られていますが,実験動物を用いた研究から,タダラフィルが前立腺の血流改善を通して,前立腺の腫大および炎症を抑制する可能性が示唆され(稲村聡先生),前立腺肥大症増殖過程において,自己免疫反応を介した補体活性化の関与が明らかにされています(秦淳也先生)。前立腺肥大症に伴う過活動膀胱と低活動膀胱について,膀胱出口部閉塞による膀胱リモデリングと骨盤内虚血による膀胱機能障害の機序が考えられますが,膀胱機能障害を基礎研究の結果から説明することは可能であっても,臨床的エビデンスは少ないと思われます(野宮正範先生)。なお,過活動膀胱は症状症候群として捉えられていますが,客観的評価を可能にする尿中バイオマーカーについて吉良聡先生が詳しく解説しています。膀胱出口部部分閉塞モデルラットを用いた研究から,筋原性の膀胱微小収縮の増減に同期して,求心性神経の活動が間歇的に増減していることが明らかとなり,前立腺肥大症に伴う蓄尿症状において,排尿筋過活動と尿意切迫感の関連性を直接裏付ける知見になると思われます(相澤直樹先生)。また,男性下部尿路症状には膀胱の虚血再灌流障害が関わっていますが,それに伴う酸化ストレスの増大が病態に重要な役割を果たしています(松尾朋博先生)。最近,高血圧,アルツハイマー病,前立腺癌など様々な疾患との関連が注目されている「腸内細菌」と前立腺肥大症の関連について,今後の展開に興味が持たれます(竹澤健太郎先生)。前立腺肥大症の実臨床では,治療方針を決めるために膀胱出口部閉塞と低活動膀胱の鑑別が重要です。

新しい治療法の開発を後押しするためにも,超音波検査による前立腺形態やウロフロメトリーなどを用いた非侵襲的な病態診断法の普及が必要です(松川宜久先生)。また,前立腺肥大症とフレイルに関する研究から,フレイルが進行すると治療の合併症頻度が高くなることが報告されています。泌尿器科医が患者のフレイル状態を正しく評価することは,より安全な治療の提供に繋がると思われます(西井久枝先生)。

基礎から臨床まで,様々なアプローチによる最新の研究をまとめた本特集が,前立腺肥大症の研究と診療に携わる方々のお役に立つことを願っています。


酒井 英樹
長崎労災病院

目次

特集 前立腺肥大症研究の進歩

序文

 長崎労災病院 酒井 英樹

1.前立腺肥大症の自然史

 製鉄記念室蘭病院泌尿器科 福多 史昌,他

2.腸内細菌叢と前立腺肥大症

 大阪大学大学院医学系研究科器官制御外科学(泌尿器科) 竹澤健太郎,他

3.男性下部尿路症状におけるバイオマーカー

 山梨大学総合研究部泌尿器科学 吉良  聡,他

4.前立腺肥大症と神経系制御

 獨協医科大学医学部薬理学講座 相澤 直樹

5.尿道機能からみた前立腺肥大症

 琉球大学大学院医学研究科システム生理学講座 宮里  実

6.動物モデルを用いた膀胱出口部閉塞の研究

 旭川医科大学腎泌尿器外科学講座 橘田 岳也

7.前立腺肥大症と炎症─病態を探る─

 福井大学医学部泌尿器科 稲村  聡

8.前立腺肥大症の免疫学的増殖機構─自己免疫反応を介した補体経路の関与─

 福島県立医科大学医学部泌尿器科学講座 秦  淳也,他

9.男性下部尿路症状と酸化ストレスとの関連およびその治療について

 長崎大学病院泌尿器科・腎移植外科 松尾 朋博,他

10.前立腺血流を標的とした前立腺肥大症の薬物療法

 高知大学医学部薬理学講座 清水 翔吾,他

11.前立腺肥大症 / 男性下部尿路症状における排尿筋過活動と排尿筋低活動の病態生理

 国立長寿医療研究センター泌尿器外科 / 摂食嚥下・排泄センター高齢者下部尿路機能研究室 野宮 正範,他

12.ウロダイナミクスに基づく前立腺肥大症の診断と治療

 名古屋大学大学院医学系研究科泌尿器科学 松川 宜久

13.フレイルと前立腺肥大症

国立長寿医療研究センター摂食嚥下・排泄センター高齢者下部尿路機能研究室 西井 久枝,他

連 載 最新の前立腺知識

前立腺癌のゲノム医療 UP TO DATE

 千葉大学医学部附属病院泌尿器科 金坂 学斗,他

総説

前立腺におけるホルモン刺激と脂質過酸化─過酸化脂質還元酵素glutathione-peroxidase(GPx1)の免疫細胞化学的研究─

 あすか製薬株式会社 村越 正典

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書籍情報

  • ISBN:9784019301001
  • ページ数:98頁
  • 書籍発行日:2023年4月
  • 電子版発売日:2023年5月2日
  • 判:A4判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
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