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注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第5版

  • ページ数 : 584頁
  • 書籍発行日 : 2022年11月
  • 電子版発売日 : 2023年1月27日
5,280
(税込)
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商品情報

内容

子どものADHD診療の“現在地”がわかる!6年ぶりの改訂版

第4版の刊行後に、臨床では2剤の新薬が登場するなど大きな変革がありました。それらを含むADHD薬物療法や心理社会的治療の臨床経験が蓄積されてきたいま、子どものADHDにおける新たな診断・治療の方向性を明確にすべく、改訂されたのが本書です。第5版では、現在のADHDの臨床と研究の現状に即した現実的な内容にアップデートすることを目指し、実践的な検査法や評価尺度の開発・導入に関わる研究者や、各治療法について深く関与している第一線の臨床家など、多数の執筆陣へのアンケートをもとに新たなガイドラインを作成。豊富な解説がますます充実し、この1冊で子どものADHD診療が丸ごと理解できます。専用ウェブサイトからダウンロード可能な「患者用パンフレット」をはじめとする好評の「資料編」も引き続き収録。医療者や学校・児童福祉機関の職員、ADHD患者の家族など、ADHDに関わるすべての方に手にしていただきたい1冊です。

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序文

はじめに


本書「注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第5版」は,厚生労働省精神・神経疾患研究委託費によるADHDの診断・治療ガイドライン作成をめざした研究班(主任研究者:上林靖子)の研究成果をまとめ,上林靖子,齊藤万比古,北道子編集で2003年にじほうから上梓した「注意欠陥/多動性障害-AD/HD-の診断・治療ガイドライン」の第5版という位置づけになる。この第5版に至る経過を各版の発行年でたどると,2003年の初版から3年を経た2006年に齊藤万比古,渡部京太編集による「改訂版 注意欠陥/多動性障害-AD/HD-の診断・治療ガイドライン」が,さらに2年後の2008年には同じく齊藤と渡部の編集による「第3版 注意欠如・多動性障害-ADHD-の診断・治療ガイドライン」が,そして8年を経た2016年に齊藤による単独編集で「注意欠如・多動症-ADHD-の診断・治療ガイドライン 第4版」が上梓されており,それからさらに6年を経て第5版の上梓に至るという流れになる。

初版および改訂版の上梓は薬物療法的には適応外使用としての短時間作用型メチルフェニデート製剤(商品名:リタリン)の時代であった。本書としては有効性を示しつつ積極的にそれを推奨することはせず,依存や乱用の危険があることを強く警告するという姿勢を明瞭に示した内容となっている。

同じく第3版への改訂の事情を薬物療法の展開という観点から見ると,改訂版から第3版への改訂は2007年のリタリンのナルコレプシー以外への投与が禁止され,ADHD診療に使用できなくなった一方で,同じ年の年末にメチルフェニデート塩酸塩徐放錠(OROSMPH)(商品名:コンサータ)がADHD治療薬として正式に薬価収載され,2008年初めより臨床での使用が始まったこと,さらにはアトモキセチン塩酸塩カプセル(ATX)(商品名:ストラテラ)が治験の終盤に入り,1年以内にADHD治療薬として薬価収載されることが確実になっていたという状況に応えてそれらの使用指針をアルゴリズム的に明確に示すことが求められたことが第3版への改訂の大きな推進力となっていた。本書第3版はそうした初めて正式にADHD治療薬が承認されるというわが国のADHD診療の大きな変わり目においてガイドラインとしての役割を果たすべく企画されたものであった。

第4版への改訂は,第3版がわが国での臨床仕様の経験が皆無のATXを薬物療法の指針に組み込むというやや無理のある内容であったのに対して,ADHD治療薬の2剤時代(一方は中枢神経刺激薬,他方は非中枢神経刺激薬)の臨床経験がある程度蓄積された時点で,この臨床経験を十分に吟味したうえで両剤の特徴を含めた治療指針としようとしたことに特徴がある。そのため上梓に約8年間が必要であったと言ってもよいだろう。さらに,わが国の臨床において当初は不活発であったADHDへの心理社会的治療の重要性を初版以来一貫して強調してきたにもかかわらず,本書におけるそれまでの心理社会的治療の記述はペアレント・トレーニングやサマー・トリートメント・プログラムなどが中心であり,推奨はされても実践している場がかなり限られ,多くの読者にとっては現実性の乏しい内容と映ったのではないだろうか。薬物療法が先を行き,心理社会的治療が周回遅れでそれを追うという状況が続くなかで,しかし全国では子どものADHDケースに対する心理社会的治療の実践や海外からの新たな治療法の導入などが徐々に進んでいたことは確かである。第4版は,エキスパート・コンセンサスを得るためのアンケート調査を通じて,特に心理社会的治療の理念と現実との乖離を明らかにするガイドラインでもあった。

ところで,改訂版以来各版のガイドラインの冒頭に子どもを対象とした診断・治療ガイドラインが2色刷りで掲載されていることは本書の以前からの読者にはすでに自明といってよいだろう。この子どものADHDガイドラインはいわば本書各版のエッセンスとなる指針集としての役割を果たしていることになるが,執筆陣の大半が児童精神科医あるいは小児科医であることもあって,その指針が対象としているのはあくまで「子どものADHD」なのである。改訂版以来各版のこの指針集に登場する各指針が何を根拠として成立したのかについては,版が改まるごとに編集者が工夫をこらしてきたところである。

第3版までの子どものADHDガイドラインはそれまでに関わった研究の成果に基づくADHD診療の理念的な推奨を中心に編まれていた。こうした子どものADHDガイドラインが指針となった理念と実際に実践されている治療との間の乖離が大きいことは以前から編集者は感じてきており,第4版作成のためにその乖離の現実を明らかにすることで,その乖離を埋めることに寄与したいと考えた。国際医療研究委託費21指127「注意欠如・多動性障害-ADHD-の客観的指標に基づく診断・治療指針の作成に関する研究」の一環として編集者が日本ADHD学会の医師会員を対象に実施した二次にわたるアンケート調査から得られた結果は,エキスパート・コンセンサスとして子どものADHDガイドラインの内容に取り入れるとともに,実際に行っている治療法と推奨する治療法との間の乖離を明確に示すことになった。

ところで本書第4版が上梓された2016年は,非中枢神経刺激薬であるグアンファシン塩酸塩徐放錠(GXR)の治験がほぼ終了し承認申請間近な時期であり(GXRは2017年5月薬価収載),さらにわが国における2番目の中枢神経刺激薬であるリスデキサンフェタミンメシル酸塩カプセル(LDX)の治験が進行していた時期であった(LDXは2019年5月薬価収載)。さらに,2016年は日本ペアレント・トレーニング研究会の発会の年でもあり,第4版上梓の1カ月後にあたる10月に第1回研究会が開催されている。この研究会発足によりペアレント・トレーニングの全国への普及が一挙に進み始めたことは本書の心理社会的治療の記述の内容を深め充実させる好機であるとともに,第4版で明らかにした診断と治療に関する理念と実臨床との乖離を埋めるため,新たな子どものADHDガイドラインと,それを抽出する基盤となる各章の諸項目,特に多様化した診断・評価法と心理社会的治療に関する各論的な項目の記述を充実させ,項目数も大幅に増やす改訂を行う必要があった。

しかし,本書第5版の上梓には結局6年の時間が必要であった。その大きな理由として,OROS-MPHとLDXという中枢神経刺激薬2剤時代の始まりにあたって,2薬剤の流通管理に厳しい規制が加えられ,処方医および調剤薬剤師がそのための資格をもつことはもとより,患者登録の義務化を含め厳密に処方と調剤の透明化を進めることで中枢刺激薬の依存・乱用を防ぐ体制が整えられたというある意味で激動の時期にあたったことを挙げてもよいだろう。このことは,中枢神経刺激薬の処方に対する厳密化にとどまらず,ADHD治療薬による薬物療法そのものの指針をより明確なものにすることを求められていると編集者として感じずにはいられなかった。こうした視点でADHDの薬物療法を見直し,中枢神経刺激薬の規制強化が臨床家に問いかけている社会的なADHDの薬物療法への懸念を払拭することに貢献できる薬物療法指針を作成し,フロー図(第4版まではアルゴリズムと表現していた)として時間軸に沿った手順を明確にすることに本書第5版の子どものADHDガイドラインは挑んだのである。その作成のためにもGXRとLDXという新たな薬剤が加わったADHD治療薬4剤時代の臨床経験が蓄積されるのを慎重に待つための6年間であったと述べても過言ではないだろう。

今回,第4版までの旧版から本書第5版へ改訂するにあたり基本的変更点が2点ある。

第一の変更は,診断・評価や心理社会的治療,そして薬物療法のわが国におけるコンセンサスをどこに置くかという点に関してのものである。すなわち,第4版では日本ADHD学会の医師会員を対象としたアンケート調査(同じ回答者に計2回の調査を実施した)の結果から得たエキスパート・コンセンサスであったが,第5版では執筆者を対象に,第4版の「子どもの注意欠如・多動症(ADHD)の診断・治療ガイドライン」から第5版のそれへの修正案を示し,各修正案に対する意見を問うアンケート調査を実施し,その結果をエキスパート・コンセンサスに準ずるものとして子どものADHDガイドラインの作成に活用しているのである(本書第5版の第5章参照)。

第二の変更点は,第4版までは2000年代の幕開け期に2期にわたって展開した精神・神経疾患研究委託費によるガイドライン作り研究を担った研究班の班員中心に「ADHDの診断・治療指針に関する研究会」を組んで担ってきたのに対して,本書第5版では研究会会員,すなわち執筆陣の大幅な入れ替えと追加を実施したことである。本書は刊行を切望されながら6年間の間隔を置くことになったが,その間に現在のADHD臨床と研究の現状に即した現実的な内容にアップデートすることをめざし,診断・評価領域の現実を反映した実践的な検査法および評価尺度の開発・導入に関与した臨床家あるいは研究者,あるいは心理社会的治療や薬物療法の各治療法について実際に深く関与してきた一線の臨床家あるいは研究者を見いだし,執筆者として参加していただくことに努めた。まさにこの6年間は,本書第5版の,さらには子どものADHDガイドラインの熟成のための時間であったのである。こうした本書第5版の内容や執筆陣のアップデートが可能になったことについては,編集にこれまでの齊藤に加え飯田順三氏に参加してもらい,新たな観点から本書の編集および執筆陣の選定に関与していただいたことが何よりも大きいと確信している。

本書の制作に関わったすべての人を代表して,私は本書が現在のADHD診療の指針として,あるいはコンセンサスとして,日々の診療をはじめとする臨床場面で多くの臨床家に活用してもらえることを願っている。同時に,学校や児童福祉機関をはじめとする諸機関の専門家がADHD診療の現在のスタンダードを知ることに,あるいはADHDの子どもをもつ親やその他の家族がADHD診療の理解を深めることに役立ったと感じてもらえることができたら幸いである。

最後に,本書第5版の上梓にあたっては,じほうの輿水浩樹氏が多数の執筆者との連絡を遅滞なく的確にこなされ,執筆者対象のアンケート調査では計画から実施,そして取りまとめまで一貫して関与してくださり,私を含めた執筆陣の執筆の遅れにも辛抱強く励まし続けてくれたことを含め,言葉では言い表せない献身的な仕事ぶりにはただただ頭の下がる思いである。心から感謝の意を表したい。


2022年9月

ADHDの診断・治療指針に関する研究会
齊藤 万比古

目次

第1章 ADHDとはどのような疾患か

第2章 ADHDの診断・評価

第3章 ADHDの治療・支援

第4章 子どものADHDの中長期経過および成人期のADHD

第5章 第4版から第5版へのガイドラインの改訂をめぐる検討

付録 資料

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書籍情報

  • ISBN:9784840754675
  • ページ数:584頁
  • 書籍発行日:2022年11月
  • 電子版発売日:2023年1月27日
  • 判:B5判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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