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- 産科診療 Pros&Cons~母体・胎児をめぐる6つの論争
商品情報
内容
現在、産科の臨床対応について意見が分かれている注目のテーマ「胎児心拍数モニタリング5段階評価」「切迫早産管理」「妊産婦への漢方」「妊娠糖尿病(GDM)」「胎児診断」「無侵襲的出生前遺伝学的検査(NIPT)」について、それぞれ相反する立場から臨床の課題を解説する。
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序文
はじめに
2022 年9 月2~4 日に仙台で開催された第44 回日本母体胎児医学会学術集会では、メインテーマを “Controversies in Obstetrics” と題して6 つのテーマのディベートが行われました。本書はその記録集として作られたものです。海外の学会ではこの“Controversies in ~” という企画がときどきなされることがあり、そこでのディベートが非常におもしろかった経験をしました。自分自身が今回の母体胎児医学会をお世話させていただくことになり、ぜひこれをやってみたいと思いました。「産婦人科診療ガイドライン」が初めてできたのが2008 年です。それ以来、産科医療の一般水準がおしなべて向上しましたが、その一方で、臨床方針というものはすでに与えられたもので、すべてには正解があるという意識が若手を中心にできたように思えます。しかし本当はそうではなく、どんな領域においても自ら問題意識をもって考えることが重要です。自分自身で問題を見つけ、自分で調べ考えて解決していく、そういった姿勢が真の臨床能力をアップさせていくのです。
近年、AI(人工知能)が大いに注目を集めています。医療でもすでにさまざまに応用されており、これまで医師の独壇場だった診断や治療選択などの臨床判断の領域にも進出してくるでしょう。その背景にはインターネットが普及し、検索すれば何でも正解が得られる時代になったことがあります。わからないことがあればその場でスマホ検索することが当たり前になりました。ガイドラインを絶対視し、臨床の問題には必ず正解が存在するとなれば、AI はひとと違って誤りをおかさず正しい臨床判断を示すと信じるようになるでしょう。
しかしどのような時代になっても、ひとの思考をAI が上まわることはありません。それはとくに「メタ」思考において顕著です。メタ思考とはひとつ上の次元から物事を俯瞰し考えることですが、こうした思考法によって物事の本質が見えてきます。具体的な問いはAI がいくらでも答えてくれますが、ひとはその奥へ奥へと本質的、根源的な思考を展開していくことができるのです。ものの見方そのものを変えていくことは世界を変えることでもあります。AIにはできない能力をひとはもっていて、今回のディベートなどはそういった根本的な思考法を鍛えるものにほかなりません。
今回の6 つのテーマは、わたしが産科診療を行ってきたなかで問題意識をいだいてきたものであり、その選択はすべてわたしの責任で決めさせていただきました。ディベートの演者は若手~中堅の先生、座長は周産期のベテランの先生とすることを方針としましたが、とくに苦労したのは演者の選定です。多くの方から直接そのお考えをお聞きしたうえで、わたしから指定した「立場」に立っての講演をお願いいたしました。あるテーマについて是ないしは非の立場から議論いただいたとしても、本当にご本人がそう考えているかは別の問題になります。ディベートはそういうものであり、もしそれで何か差しさわりが出たとしたら、すべて依頼したわたしの責任です。
この企画では「ディベート」と「クリティカルシンキング(批判的思考)」の2 つの方法論を応用いたしました。日本ではディベートについての誤解がいまだ根強くあります。「鷺を烏と言いくるめる」といったたぐいのなにか詭弁や揚げ足取りのうさんくさいイメージです。しかし本当のディベートとは、まさにデータに基づいて自分の意見を相対化し、独善や視野狭窄に陥ることなしに考えを深めるための思考技術です。すなわちエビデンスに基づいた現代医学の精神に非常にマッチします。学会のガイドラインや権威者の意見、多数派の論調といったものによって、医療が無批判に流されることをディベート思考は防いでくれます。ディベートはものごとのもつ二面性を見る眼を養い、あらゆることに疑問を投げかける冷静さをもたせ、客観的なエビデンスに基づく合理的な判断力を育てます。今回の企画の目的は、多くのひとたち、とくに若手の医師や看護師・助産師の方に、産科臨床にはどういった根本的問題が存在しているのかを考えてほしいということでした。ですから議論をとおして最終的になんらかの結論を出したり、演者間の同意や妥協を探すことはまったく考えませんでした。ただしディベートの前と後で、会場の聴衆の方々に「是」「非」「どちらでもない/わからない」の三択で投票をしていただきました。その結果はそれぞれのパートに載せましたので参考にしていただければ幸いです。
もうひとつは、各パートのわたしの解説の最後に、「クリティカルシンキングのための作業仮説」というものを独立して置きました。これはあえて極端にかたよっている主張を、それも反証可能な仮説の形で提出したものです。その主張を批判し反論するためにはどのように立論したらいいか、どのようなエビデンスが必要か、どのような臨床研究を行えばいいかを考えてみてください。「作業仮説」で書かれたことは一種の極論であって、それを批判する過程をとおしてクリティカルシンキングを身につけていく手段となります。クリティカルシンキングは懐疑や批判すること自体が目的なのではなく、むしろ正しいことや信ずるに足ることを見きわめるための方法論です。不当な先入観や偏見をもって判断するのを防ぐうえで、クリティカルに考えることが非常に役に立つことでしょう。
今回の学術集会開催にあたって多くの方々の応援ご助力をいただいたことに感謝申し上げます。日本母体胎児医学会本部、宮城産科婦人科学会、東北大学産婦人科学教室、宮城県立こども病院には物心両面のサポートをいただきました。演者や座長の先生方、各企画にご協力いただいた方々、東北共立の小足さん、ガリバーの松本さんなどには、学術集会の準備と運営にあたってずいぶん無理なお願いを聞いていただきました。この記録集出版にはメディカ出版の方に大変お世話になっております。そしてなによりも学術集会開催にご協力いただいた同僚やスタッフのみんな(写真)には心よりお礼申し上げます。われながらほんとうに楽しい学会でした。
第44 回日本母体胎児医学会学術集会長、宮城県立こども病院産科
室月 淳
目次
第1章 胎児心拍数モニタリングの5段階評価は是か非か?
・総評
・【是の立場から】
・【是の立場から】導入後の臨床データや根拠
・【非の立場から】日常臨床における5段階分類の諸問題
・【非の立場から】単施設における5段階評価によるCTGの意義の調査
〜特にレベル2とレベル3の分類の意義について〜
・解説
第2章 切迫早産に対するリトドリン長期投与は是か非か?
・総評 歴史的背景:どうして日本だけ切迫早産治療薬の長期点滴投与が行われるようになったのか?
・総評 長期Tocolysisの是非を論じる上での問題点
・【是の立場から】歴史的背景も踏まえて
・【是の立場から】
・【非の立場から】
・【非の立場から】日本発、大規模前向き臨床研究をしてみませんか?
・関連TOPIC 切迫早産の病態仮説を考慮した管理の実際と効果
・関連TOPIC 切迫早産を経験する女性の声を聴いて届けること
・解説
第3章 妊産婦への漢方薬の投与は是か非か?
・総評 漢方を疑うか否か
・【是の立場から】
・【非の立場から】私が妊婦に漢方薬を使用しない理由
・関連TOPIC 新型コロナウイルス感染妊婦への漢方療法について
・解説
第4章 妊娠糖尿病の現行の診断基準は是か非か?
・総評
・総評
・【是の立場から】
・【非の立場から】
・【非の立場から】Low-risk GDM-診断と管理の必要があるのか?-
・【非の立場から】それ、すべての産科医に要求するの?
・COMMENT わが国の「妊娠糖尿病の診断基準」の課題について
・解説
第5章 胎児診断のこれからは超音波か?ゲノムか?
・総評
・【超音波の立場から】
・【ゲノム診断の立場から】
・関連TOPIC 胎児乳び胸水における遺伝子疾患と超音波所見
・関連TOPIC 胎児四肢拘縮所見は遺伝子検査の適応になるのか
・解説
第6章 NIPTの認証制度は是か非か?
・総評
・【日産婦の立場から】妊婦本位のNIPTを目指して
・【認証外施設の検査を行う立場から】
・【専門クリニックの立場から】NIPTの認証基準は、不要である
・関連TOPIC 無認証NIPT施設から当院での対応
胎児精密超音波検査とゲノム、メンタルサポートで中絶を回避し救った命
~正常変異である8番染色体の部分重複について~
・解説
・索引
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書籍情報
- ISBN:9784840481755
- ページ数:200頁
- 書籍発行日:2023年4月
- 電子版発売日:2023年4月17日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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