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- 症例検討から学ぶ 診断推論戦略
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序文
はじめに
自分が初めて臨床推論の魅力を知ったのは、医学部5年生の時のクリニカル・クラークシップ(臨床実習)で、総合診療科をローテートした時でした。当時の総合診療科の臨床実習は、学生1グループ当たりたった3日間のみの臨床実習でした。だけれども、その3日間の臨床実習は自分にとっては、非常に魅力的で何よりも濃密な期間であったことを鮮明に覚えています。学生や研修医、スタッフの臨床推論能力を向上させることを目的とした臨床推論カンファレンスが、週に2回開催されており、そこではコモンディジーズから診断困難事例まで、幅広いケースカンファレンスが行われていました。そこでは我が師である生坂政臣教授が司会を担当し、プレゼンターからリアルタイムの情報を引き出し、カンファレンスに参加する学修者は臨床推論に魅了されていきます。カンファレンスが終了し、最終診断にたどり着いた際には、自分の至らなさを感じることもあれば、そこにたどり着けた時の至福があり、様々な感情が入り混じりました。そして、そこから学んだ診断困難ケースに立ち向かうための方略は、臨床推論カンファレンスという格好の学びの場で自分自身の臨床推論能力を研さんしていきました。余談ですが、現在は本学では総合診療科は4週間の臨床実習が全学生に対して必修となっています。これは、総合診療科の教育や診療に対する評価の表れですので、非常に感慨深い気持ちになります。
本学の臨床推論カンファレンスでは、実際に症例を経験した医師がプレゼンターを務めます。ここで重要になるのが、情報の提示方法です。実臨床では、我々はまず、患者の主訴や簡単な現病歴が記載された問診票に目を通すでしょう。その問診票を読んで、今回の主訴は何か、この診療設定で受診する疾患は何か、患者のこれまでの受療行動は何か、どんな主訴の組み合わせなのか、主訴が記載されている症状の順番は何か、患者が直筆で書いた文字の大きさはどうかなど、それだけの情報からでも非常に多くのことが推論可能です。それは、まるで、シャーロック・ホームズが、ジョン・ワトソンに出会った時のように、一気に臨床推論が発動されます。この瞬間の思考プロセスについて、医学生、研修医、専攻医に理解してもらう必要があります。つまりは最初の少ない情報だけでも、相当な臨床推論が進むのです。そこでいくつもの鑑別疾患を想起し、開放された問診、さらに続く閉鎖された問診と行っていき、徐々に徐々に核心にある問題を探り当てるのです。時には検査データが共有されないまま最終診断が判明することもあります。主訴や現病歴から確固たる臨床推論がなされ、そこから得られた強固な鑑別疾患であれば、検査は最後の確認作業程度でしょう。このように、経験者が感じたリアルの思考プロセスを、その通りに追体験することが、臨床推論カンファレンスで能力を向上させる早道なのです。
今回の書籍では、エキスパートによるリアルタイムでの臨床推論が随所で展開された濃厚な一冊になっています。読者がそのカンファレンスに参加し、自分が問題を解決しているかのごとく、没頭いただけましたら幸いです。
千葉大学医学部附属病院 総合診療科
千葉大学大学院医学研究院 地域医療教育学 特任准教授
鋪野紀好
目次
症例No.01 29歳男性、主訴発熱、臀部に安静時痛があるが…
プレゼンター:青山彩香(水戸協同病院専攻医)
指導医:熊川友子(埼玉医科大学病院総合診療内科)
症例No.02 71歳女性、意識障害を主訴に初診外来を受診
プレゼンター:増田陽平(東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科)
指導医:松尾裕一郎(東京ベイ・浦安市川医療センター総合内科)
症例No.03 14歳男性、右大腿内部に「しこり」と違和感
プレゼンター:熊川友子(埼玉医科大学病院 総合診療内科)
症例No.04 体動困難の77歳男性が救急外来に、病歴がとれず
プレゼンター:松尾裕一郎(東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科)
症例No.05 71歳男性、4週間程度継続する発熱で紹介受診
プレゼンター:平田理紗(佐賀大学医学部附属病院 総合診療部)
指導医:徳島圭宜(佐賀大学医学部附属病院 総合診療部)
症例No.06 83歳男性、TAFRO症候群を鑑別に挙げられますか?
プレゼンター:牧尾成二郎(佐賀大学医学部附属病院 総合診療部)
指導医:相原秀俊(佐賀大学医学部附属病院 総合診療部)
症例No.07 突然の腰痛から多発性骨髄腫を想起できた理由
プレゼンター:水流佐方里(埼玉医科大学病院 総合診療内科)
指導医:熊川友子(埼玉医科大学病院 総合診療内科)
症例No.08 「前に同じようなことは?」が突破口に
プレゼンター:小平翔太(東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科)
指導医:増田陽平(東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科)
症例No.09 心窩部痛の51歳男性、突然発症の病歴が鍵
プレゼンター:宇野純加(佐賀大学医学部医学科)
指導医:山下駿(佐賀大学医学部附属病院 総合診療部)
★コラム あなたは「突然発症の病歴」をとれていますか
症例No.10 「突然発症」と「慢性炎症」を結び付けるものは?
プレゼンター:鈴木真紀(隠岐広域連合立隠岐病院 総合診療科)
症例No.11 「人生最大の痛み」と話す29歳男性に起こったこと
プレゼンター:野﨑 一世(総合病院国保旭中央病院 内科)
症例No.12 突然多飲の37歳男性、尿崩症か心因性多飲か
プレゼンター:加藤 雅隆(東京ベイ 浦安市川医療センター総合内科)
指導医:小平 翔太(東京ベイ 浦安市川医療センター総合内科)
症例No.13 右肩痛、右背部痛の25歳女性、「放散痛」の源が焦点
プレゼンター:髙井 咲弥(麻生飯塚病院)
指導医:細川 旬(麻生飯塚病院)
症例No.14 手足の震えで紹介搬送の73歳女性、なぜ低酸素なのか?
プレゼンター:福田ゆい(佐賀大学医学部医学科)、池田奈瑚(佐賀県医療センター好生館)
指導医:甘利香織(佐賀県医療センター好生館)
★コラム 診断エラー学の視点で振り返ってみると…
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書籍情報
- ISBN:9784296202003
- ページ数:360頁
- 書籍発行日:2023年4月
- 電子版発売日:2023年4月20日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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