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- 実践 SDH診療 できることから始める健康の社会的決定要因への取り組み
商品情報
内容
目の前の患者の背景にあるSDH(健康の社会的決定要因)に気づく重要性が叫ばれています.SDHを日常臨床に取り入れることは難題ですが,個別アプローチ・地域アプローチ,社会的処方,社会的バイタルサインなどを通して,日々のモヤモヤに対処できる切り口が見つかるはずです.ジェネラリストとパブリックヘルスの研究者が力を集結させて作り上げた本書から,多様な生きづらさを抱える患者について考えるヒントをぜひ探し出してください.
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序文
まえがき
研修医のころの話です.救急車で搬送されたある50代の男性の患者さんを担当しました.心臓弁膜症の手術を受けて退院しましたが,数カ月後に通院を中断されました.その後,地元新聞のおくやみ欄でその方が亡くなられたのを知りました.その方には家族関係のトラブルや経済困窮の問題があったため,入院中から医療ソーシャルワーカーとも相談して対応をしてきた方でした.そういった複雑な事情にもしっかり対応した,と思っていたのにうまく行かず,私はすっかり自信を失いました.まるで「手術は成功したが,患者は死んだ」といった状況です.もっとやるべき対応があったのではないか,何を間違ったのか,とモヤモヤと自問する日々が続きました.
その後私は大学院に進学して公衆衛生(パブリックヘルス)を全般に学びました.とりわけ社会疫学と出会ったことで,今なら研修医のころの自分に言ってやりたい,と思ういくつかのことを学ぶことができました.本書は,主に現在診療に携わっておられる医療従事者の皆様を意識して執筆しましたが,私個人としては,研修医の時の自分や,同じようなモヤモヤに苦しんでいる医療従事者の皆さんに届けたい,という思いを込めて執筆しました.
本書が扱う,健康の社会的決定要因(SDH)という概念は,私が出会った心臓弁膜症の患者さんのように,疾病の原因や治療の妨げとなっている社会的な要因について整理をして,その理解を深めるために提唱されたものです.SDHの考え方や臨床での対応のあり方のヒントを医療従事者や医療系の学生の皆さんに届けたい,という思いで,プライマリ・ケアとパブリックヘルスの専門家たちが連携してこの本を書きました.日々の診療にSDHの概念を取り入れることで,出口が見えない,どうやってケアしたらいいのかわからないといったモヤモヤを晴らす助けとなることと期待しています.
執筆者の多くは,日本プライマリ・ケア連合学会の健康の社会的決定要因検討委員会(SDH検討委員会)のメンバーです.この委員会自体が,プライマリ・ケア医と社会疫学者の混成チームです.ことの発端は,同学会の丸山泉前理事長からの一本の電話でした.「プライマリ・ケアとプライマリ・ヘルスケア【注1】の連携ができていないんだよ.それを進める委員会を作ってほしい」とのリクエストをいただきました.私は丸山前理事長からの言葉を,個のケア(プライマリ・ケア)と地域や社会のケア(プライマリ・ヘルスケア)の専門家同士がつながり合い,ともに健康な社会を作っていきたいというラブコールとして(勝手に)受けとりました.そして,「その2つをつなぐなら,SDHのコンセプトを軸にするのが良いと思います.SDHに基づくケアを検討するような組織を立ち上げる形でよろしいでしょうか」といった内容の返事をしました.ご快諾いただき,手始めに委員会立ち上げに向けたワーキンググループを発足させました.その後の経緯については,第3章-5「学会によるアドボカシー:日本プライマリ・ケア連合学会の取り組み」をご覧ください.
両専門家同士の連携は,互いの足りない部分を補い合える,とても勇気づけられるものでした.一方で,互いに理解しがたいと思うこともありましたし,それは新鮮な驚きでもありました.それでも,数年間にわたる定例会議,シンポジウムやセミナーの開催,そして健康格差に関する学会の「指針」づくりの合宿,といった交流を進める中で,次第に認識がすり合ってきました.「そろそろ本にまとめられそうだね」という自信が持てるようになったのです.そうして,満を持して送り出すのが,この本です.
本書が,皆様の日々の医療活動の一助となり,よりよいケアが広がり,ひいては「誰一人おいていかない」社会の実現に向けて少しでも役に立つものとなることを願っています.
注1:プライマリ・ヘルスケアは,主に地域コミュニティを単位として住民たちが主体となってつくっていく,健康に過ごせるための保健医療の仕組みのこと.公衆衛生活動が目指す重要なゴールの一つ.
2023年4月
日本プライマリ・ケア連合学会健康の社会的決定要因検討委員会副委員長
京都大学大学院医学研究科社会疫学分野 主任教授
近藤 尚己
目次
第1章 SDH の考え方とアプローチの技法
[1]SDHへのアプローチの考え方〈近藤尚己〉
1. SDH とは
2. 社会的要因がいかにして健康を蝕むか: SDH のメカニズム
3. SDH への対応のキホン
[2]個別アプローチと地域アプローチ〈長谷田真帆〉
1. 個別アプローチ
2. 地域アプローチ
3. 個別アプローチ・地域アプローチの具体例
[3]慢性疾患のSDH─エビデンスとその対応〈長嶺由衣子〉
1. 高血圧
2. 糖尿病
3. メタボリック症候群
4. 考察
[4]臨床でのSDH診療の実践(1):社会的処方〈近藤尚己〉
1. 社会的処方は「人が中心」「エンパワメント」「共創」ですすめる
2. 社会的処方の進め方
3. リンクワーカーは誰だ?
4. 社会的処方の実際
5. 医療機関外にも広がる社会的処方
[5]臨床でのSDH 診療の実践?: 社会的バイタルサイン
〈 水本潤希,幌 沙小里〉
1. 健康の社会的決定要因の視点を臨床に活かす
2. 社会的バイタルサインとは
3. 事例の検討
4. 様々な場面で活用されるSVS
5. SVS のこれから
[6]SDH へのアプローチ─地域・政策レベルでできること〈近藤克則〉
1. 対策の3 つのレベル・スパン
2. 医療職の社会・政策との関わり方
3. 治療的アプローチと予防的アプローチ
4. 健康格差対策のための7 原則
〔コラム〕コロナ禍のSDH〈長嶺由衣子〉
1. 社会経済状況と新型コロナ
2. 支持政党と新型コロナ
3. 性別と新型コロナ
4. 在日外国人と新型コロナ
5. コロナ前からの地域連携と対応の特徴
6. 示唆
第2章 患者の事例から考えるSDH への対応
[1]貧困・生活困難〈水本潤希〉
1. 症例から考える貧困と医療
2. 貧困の歴史と定義
3. 現状
4. 対策
5. 提案
[2]障害者〈孫 大輔〉
1. 定義と歴史
2. 現状
3. 対策
4. 提案
〔コラム〕生活困窮者の健康支援に必要なこと
─複眼的な視点でスティグマを与えない─〈西岡大輔〉
[3]性的指向と性自認(SOGI),LGBTQ〈吉田絵理子〉
1. 解説
2. 現状
3. 対策
4. 提案
[4]女性〈西村真紀〉
1. 解説
2. 現状
3. 対策
4. 提案
[5]男性〈大矢 亮〉
1. 解説(Masculinities とSDH)
2. 現状
3. 対策
4. 提案
[6]ホームレス状態〈熊倉陽介〉
1. ホームレス状態にある人が抱える健康格差
2. 現状
3. 対策
4. 提案
[7]在住外国人〈弓野 綾,武田裕子〉
1. 解説
2. 日本の現状
3. 対策と提言
4. おわりに:「外国人」とは誰か
[8]ライフコース・アプローチ〈弓野 綾〉
1. ライフコース疫学
2. ライフコースに伴うSDH の集積と増幅
3. 提案
[9]マルチモビディティとSDH〈小松真成〉
1. マルモとは?
2. SDH との関連: social determinants of multimorbidity
3. わが国のマルモ
4. COVID-19 などとの関連
5. 対応
6. これから
[10]地域特性〈福留恵子〉
1. 解説
2. 現状
3. 対策
5. 提案
〔コラム〕へき地の事例〈杉山賢明,長嶺由衣子,西村真紀〉
1. へき地医療の教科書におけるSDH の位置づけ
2. 事例1(宮城県網地島): 漫談を用いた啓発活動
3. 事例2(沖縄県離島部): 施設入所・進学・看取り
4. 事例3(高知県大川村): 山間部へき地の実態と限界
第3章 実践事例から考えるSDHへの対応
[1]医療機関でできる生活困窮者の支援〈西岡大輔〉
1. 生活保護利用者の健康動向と課題
2. 無料低額診療事業
[2]医師会での実践事例─宇都宮市医師会の取り組み─〈千嶋 巌〉
1. 社会支援部設立の経緯
2. 社会支援部の基本的理念
3. 社会支援部の活動
4. おわりに
〔コラム〕海外での事例〈西岡大輔〉
[3]診療現場でのSDHの評価と活用の実際〈西岡大輔〉
1. 診療現場での評価の重要性と現状
2. 日本HPH ネットワークによるスクリーニングツール
3. 診療情報提供書でSDH を共有し,支援のために連携する
[4]医学・医療者育成に不可欠なSDH教育〈武田裕子〉
1. なぜ医学部でSDH を学ぶのか
2. 医学部の必修科目としてのSDH
3. 卒前・卒後教育でどのようにSDH を取り上げるか
4. SDH 教育の留意点と教材について
[5]学会によるアドボカシー─日本プライマリ・ケア連合学会の取り組み─
〈杉山賢明,坪谷 透〉
1. 三重宣言とは
2. 三重宣言後の情報発信
〔コラム〕SDHに取り組む医療者のために〈水本潤希〉
あとがき〈西村真紀〉
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書籍情報
- ISBN:9784498120068
- ページ数:282頁
- 書籍発行日:2023年5月
- 電子版発売日:2023年4月26日
- 判:A5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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