はじめに

まずは、本書を手に取っていただいた皆様にお礼を申し上げます。本書を手に取られたということは、「感染対策に興味を持っている」「自施設の感染対策で悩んでいる。あるいは不安を持っている」「感染対策の指導に悩んでいる」「所属施設の感染対策をもっとよくしたい！」など、さまざまな思いを抱えておられることと思います。

筆者は、約20年間急性期病院で感染管理認定看護師として勤務していました。COVID-19への対応も第4波まで経験した後、現職場に転職し、大阪府から委託を受け社会福祉施設や感染管理専門家不在の中小規模病院に対して、感染対策支援のための訪問活動に従事しています。

社会福祉施設では、感染症から利用者の命を守るために、試行錯誤しながらも感染対策に熱心に取り組んでおられる職員の方々と出会い、実際の現場で本当に多くの疑問や質問をいただくとともに、クラスター発生時のつらい体験やさまざまな不安などについてもお話を聴かせていただきました。急性期病院でしか勤務経験のない筆者にとっては、多くの経験と学びを得ることができました。これらの社会福祉施設および感染管理専門家不在の中小規模病院の訪問でいただいた質問や疑問、そして不安の数々への回答を、直接訪問できない多くの皆様にお伝えすることができたら、と考えておりましたところ、メディカ出版様から書籍という形でお届けできる機会をいただきました。

感染症はCOVID-19だけではありません。筆者は看護師経験の中で感染症の怖さを間近に見てきました。感染症からご自身や周囲の人々の命を守るために、社会福祉施設や病院など施設体系に関係なく、これからも基本的な感染対策は絶対に必要であり、やるべき感染対策を粛々と実行しつつ、新興感染症の発生に備えてしっかりとした基盤作りが必須と思っています。

今、まさに本書を手に取っていただいた皆様、今抱えておられる素朴な疑問や不安、今後必要な対策など、特に感染対策に関わった経験が少ない皆様に向けて、これまで筆者が見て、聴いて、学んだ経験をもとに、疑問や質問の多い対策、間違いやすい対策など、施設や中小規模病院の事情も含めながら、感染対策初心者の皆様にもご理解いただきやすいようにQ&Aの形でまとめさせていただきました。

また、教え方に悩んでおられる指導者的立場の皆様にも、指導の際に活用いただけるのではないかと思います。一人でも多くの方々を感染症から守りたい、という強い気持ちを読者の皆様と共有させていただき、かゆいところに手が届くような1冊になれば幸いです。

本書の執筆にあたり、的確なご助言をいただき、完成まで支えていただいたメディカ出版の井奥享子様に心より感謝申し上げます。また、訪問時に本当に多くの学びをいただいた社会福祉施設の職員の皆様と中小規模病院の皆様、ありがとうございます。これからもさらなる感染対策の向上のために共に頑張ってまいりましょう。

2023年3月

公益社団法人 大阪府看護協会 政策・企画・看護開発部
感染対策担当部長（感染管理特定認定看護師）
柴谷涼子