序文

皮膚科診療では乳児幼児はもちろんであるが，小学生を診る機会も非常に多い．学童期は体力・運動能力が増し，体もぐっと大きくなり，さまざまな生理的機能が整ってくる大切な時期である．皮膚もまた成長に伴って生理的機能や免疫機能が発達するが，活動範囲も広がるためさまざまな皮膚トラブルを生じる．特に汗腺や脂腺といった付属器はその働きが活発になり，ぐっと成人の事情に近づいていく．そしてこの時期は両親の庇護の下にあった幼児期から，自我が芽生えて自分自身で皮膚をケアする必要も出てくる．家庭教育はもちろんであるが学校教育も大変重要で，この時期に子どもが学ぶことは，生涯にわたって体にしみついて残る重要な習慣や知識となる．

たとえば歯科領域では歯の生え始める乳幼児期から将来に向けて，一貫して歯の健康を保とうという予防の方策がしっかりとられ，家庭教育・学校教育の中でも歯科衛生の習慣は根付いている．この予防習慣が奏効して，高齢になっても嚥下・咀嚼のできる口腔内環境を保つという目標を達成することができている．

皮膚も同様に，疾患の予防を意識したスキンケア・ヘアケア・フットケアというものを学童期に習慣化することによって，重症化を防ぎ，多くのトラブルを減らすことができると思う．ちょっとしたスキンケアのコツやフットケアのコツというのは，やってみたことがない人にとっては非常に面倒くさいものに感じられるし，三日坊主で終わることも多い．しかし，学童期に身についたものというのは，生涯にわたってその人の習慣となる．われわれは子どもを診るということを通して，疾患を管理するだけにととまらず，生涯健康で過ごせるための指導も行っているのだと思う．たとえば皮膚の洗浄方法，外用薬の塗り方，紫外線防御の必要性，爪の切り方，靴の履き方などがそれにあたる．

本書はご執筆いただいた先生方の力作ぞろいの原稿により，学童期の皮膚トラブル，頭皮トラブル，そして足のトラブルをまとめた良書となった．Visual Dermatology誌の2020年6月号に掲載された特集が，非常に好評を得て今回単行本化されることになったと聞いた時は，大変うれしかった．子どもの頭の上から爪の先に至る皮膚トラブルに対して，適切に対応したいと思っている先生方が大変多いことも実感した．学童期の皮膚の特徴を知り，適切な治療および疾患予防ができるように，また乳幼児期に起きた先天的な疾患に対するその後の予後管理についても適切に指導していけることができるように，本書を診察室に備える1冊としてご活用いただきたい．

2022年4月

高山かおる