改訂第3版　序文

『外傷専門診療ガイドラインJETEC』は，『外傷初期診療ガイドラインJATEC』の上級テキストとして2014年に初版が船出し，今回で第3版を出版するに至りました。これも読者の皆様，執筆者，査読者ならびに編集関係各位のおかげであり，編集委員長として衷心より感謝の意を表したく存じます。

本書の外傷診療を網羅的に，戦略と戦術を継続して記載するという骨格は，先の第2版で概ね定まり，第3版もそれをほぼ踏襲するものとなりました。しかし，ただ単に第2版に上書きをするようなことのみでは，読者にとって面白みがなく，得られる情報も限られてしまうことが懸念されました。そこで，編集委員会で話し合った結果，論文的根拠で決着がついていない話題については，可及的にClinical Questions（CQ）として取り上げ，それに回答する議論を，本文とは切り離したCQコラムとして提示することにいたしました。その内容については，いくつかの論文を集めて論じたものや，エキスパートオピニオンを集計したものまでさまざまですが，読者にとって読みごたえのあるものになったと考えております。また，第2版ではあまり穿通性外傷の記載はありませんでしたが，元首相が銃弾に倒れた事件などもあり，銃創患者の診療戦略について，各論のなかに大幅に加筆いたしました。もちろん全般的に，第2版の不備なところの改訂や新しい知見を可及的に網羅して，アップデートされた内容となっております。

ただこれらを掲載するため，ページ数が大幅に増えてしまいました。一方で，適切なページ数というものも考慮する必要があり，JATECガイドラインや筆者間で重複して記載のある内容は，編集委員長の権限で削除させていただきました。最終的には，引用文献もより網羅的になり，情報量も本邦の外傷学の書物としては過去に例を見ない傑出したものになったと，編集委員長として自負しております。したがって，外傷診療に携わる読者の皆様には，とくに外傷専門医を目指す方々には，隅から隅まで完読していただきたいと思っております。さらに本書が，日々の臨床に実践活用されることで，わが国の外傷診療の質の向上につながっていくことを心から願っております。

最後に，他の書物より格段に多い編集作業を短期間でこなし，出版まで漕ぎつけていただいたへるす出版の皆様に，編集委員会を代表して感謝いたします。

2023年5月吉日

一般社団法人 日本外傷学会　理事
日本外傷学会外傷専門診療ガイドライン改訂第3版編集委員会　委員長
木村　昭夫