序論

「オキュラーサーフェス」に関しては全くの門外漢の私であったが，「本態性眼瞼痙攣」という疾患を治療するようになってから，その重要性を痛感するようになった。しかし，それまで私の理解していたオキュラーサーフェスというのは言葉通り眼表面であり，その疾患といえば角結膜病変であった。しかしながら，最近では角結膜以外の組織も含めたもっと広い範囲で捉えるオキュラーサーフェスという概念が一般化しつつある。本特集はその新しい概念に基づいたオキュラーサーフェスに関する最新の知見を取り入れたものである。

まず埼玉医大総合医療センターの小幡博人先生に，解剖や病理組織染色から涙腺，マイボーム腺，角膜，結膜，涙道がひとつのユニットであり，粘膜免疫システムを構成する眼関連リンパ組織であることを明示していただいた。この解説には多彩で豊富な病理像もあり，私の扱う眼瞼痙攣との関係から個人的に興味のあるRiolan 筋の位置も働きもよくわかる。

次いで愛媛県立中央病院の山口昌彦先生には，最近注目されている眼表面摩擦との関連で瞬目を解説していただいた。金属軸受と軸との摩擦係数の推移をみるストライベック曲線の理論と，やはり愛媛大学で開発された眼瞼圧測定装置の結果から，眼表面摩擦の増加による疾患の病態の解明と治療法まで言及されている。さらに上輪部角結膜炎，lid-wiper epitheliopathy，糸状角膜炎，涙液減少型ドライアイの結膜上皮障害，結膜下出血の5疾患に関しては，それぞれの病態と治療を記載してある

また，京都市立病院の鈴木 智先生には，閉塞性マイボーム腺機能不全とは別の疾患カテゴリーであるマイボーム腺炎のテーマで，角結膜上皮症について語っていただいた。早期に診断し，適切な抗菌薬の選択をすれば，難治化せずに治療することが可能になる。そして，高知大学の福田 憲先生には，シクロスポリン，LFA-1，レバミピド，ステロイドのそれぞれの点眼液の作用機序と適応についてまとめていただいた。特に現時点ではわが国のみでしか使えないレバミピドに大きな可能性があるようである。

最後は愛媛大学の白石 敦先生・吉岡恵理子先生による前述の眼瞼圧測定装置による角結膜の「瞬目による微細外傷」のメカニズムの解説である。山口先生の項と一部重複するところもあるが，ドライアイ患者の眼瞼圧が高いことや下眼瞼圧が下方の角結膜上皮障害と相関することなど，非常に興味深い結果が示されている。

本特集をお読みいただければ，従来のような点眼薬による角膜保護やドライアイ治療だけでなく，局所解剖や瞬目や炎症や摩擦による影響をも考慮したオキュラーサーフェスの疾患の治療戦略を立てることができるはずである。

三村　治