監修にあたって

勿論医療者である以上サイエンスは忘れてはならないが，小児診療とは子どもも親も大満足させないといけない究極のアートが必要だ．特に「万が一症候群」を抱えた保護者の心を癒すコミュニケーション力は小児救急では何よりも大切だ．

普段の診療で子どもを診ていなければ苦手意識をもつのは当然だ．「話ができない乳幼児は情報がとりにくい」，「無口な思春期は扱いづらい（…あぁ，自分たちもそうだったなぁ）」，「のどを見ようものなら全力で抵抗してくる（結構力があるんだ，これが）」，「点滴するにも手がプニプニすぎて静脈が見えない」，「デリカシーがなく，ずけずけとプライバシーに踏み込む発言をする」などなど，苦手な理由を上げたらきりがない．

「そんな得体のしれない子どもの病気を診るなんて…」と，憂うことなかれ．それこそポイントを知らないから苦手意識を持っているだけなんだ．大人と違って救急にやってくる子どもの99%は基本元気なのだから，1%の絶対はずせない小児救急のキモさえわかってしまえば，99%の元気な子ども達から「癒し」をもらいながら心穏やかに診療できる．余裕ができると，目の前の子ども達はキラキラ光るまぶしい存在になって，子ども達との掛け合いも楽しみ，こんなに内的報酬の高い仕事はないって思うから．そして1%の重症を見抜く技に長ければ，後は小児科医に丸投げでオッケー！いやいやそこも手を出して治療したくなっちゃうかも，フッフッフ．

視点を変えれば，「子どもは天使（…に見えることもある）」，「話せなくてもペットと同じで（オイオイ，一緒にするな），愛おしいと思えば何でも許せる」，「自分も昔はそうだったと思いを馳せる（乳児期の記憶がある人に会ってみたい…）」，「未来を託す子ども達に優しくしておけば，自分の老後も安泰（…かも）」など，小児救急はポジティブ思考の宝庫なのだ．

子どもも保護者も安心させる懇切丁寧なわかりやすい一子相伝のネタと，小児救急のあるあるピットフォールを満載した本書を手に取ったあなたはラッキー！キラリと光る診療技術とコミュニケーションの魔術師になるに違いない．あ，立ち読みや人の本を盗み読むだけならその効果は激減するぞぉ～．漫画だけ読んで「あぁ，面白かった」と読了した気にならないでね♪

積極的に小児救急にかかわるあなたの人生がひと回りも二回りも明るく楽しいものになりますように本書を捧げたい．さぁ，ワクワクして子どもを診よう！

林　寛之

本書を書き上げるまで首をキリンさんよりも長くして待っていただき丁寧に編集いただいた学研メディカル秀潤社の森友紀様，黒田周作様の忍耐強さと優しさと能力に心から感謝いたします．