消化器がん免疫療法の現在(いま);がん治療の転換点に立つ

  • ページ数 : 136頁
  • 書籍発行日 : 2023年9月
  • 電子版発売日 : 2023年9月27日
¥6,050(税込)
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商品情報

内容

がん治療に携わるすべての方々へ
手術,放射線療法,化学療法に次ぐ第四の治療として認知されるに至った免疫療法を概説。がん免疫を十分理解し,より安全に効果的に治療を行うための一冊です。

序文

序文


いやあ,やっと完成しましたね!

待望の消化器がん免疫療法の成書です。思い起こせば遡ること5年ほど前,本学(福島県立医科大学)の柴田昌彦先生と河野浩二先生が,全国のがん免疫療法の研究者に声をかけて,月刊『消化器外科』(へるす出版)に「癌免疫カンファレンスルーム」の連載を開始しました。その連載の執筆者のなかにはご逝去された方もおられるとのこと,ただただ,哀悼の誠をささげるばかりであります。

連載の内容は,免疫チェックポイント阻害薬の急速な発展と適応の拡大に合わせて,消化器外科医に求められるがん免疫の知識と理解の深化であり,大きな役割を果たしました。また,当時の最先端の研究成果をもとに,将来的な展望も開陳され,大変重厚な内容の連載であると好評でした。そして今般,その執筆者一同が再び会し,最新の情報を存分に加え,さらに,新しい執筆者にもご参加いただいて,本書が完成したのです。

今,私たちはこれまでのがん治療の重要な柱であった治療モダリティーが免疫療法によって置き換えられているのを目の当たりにしています。先のお二方の先生が副題「がん治療の転換点に立つ」の一文に込めた気持ちがひしと伝わってきます。

本書はがん免疫療法の歴史や本邦で行われてきた免疫療法から始まり,免疫チェックポイント阻害薬のみならず,各種ワクチン療法,細胞移入療法,免疫抑制機構,がん免疫サイクルでの理解などについて細かく説明されています。また,将来の発展を期待されるCAR-T療法やネオアンチゲンの使用,そして,近年臨床研究が大きく進められている免疫チェックポイント阻害薬を用いた複合免疫療法についても最新の状況をふんだんに織り込んで完成しており,実に読み応えのある一冊に仕上がっています。

消化器がんといわず,現代のすべてのがんにかかわる,すべての医療者に是非手に取っていただきたい一冊です。お読みいただく方々のご健闘を心から祈念しております。


2023年9月吉日

公立大学法人 福島県立医科大学理事長兼学長
竹之下誠一



はじめに


『Science』誌が2013年のbreakthrough of the yearに選んだのは「cancer immunotherapy」であった。CTLA-4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4)が1987年に発見され,免疫にブレーキをかける分子として研究された。その後,抗CTLA-4抗体が1996年にマウスの腫瘍系で効果が証明され,2010年に製剤となった抗体薬がヒト悪性黒色腫で効果を証明したと論じている。本庶佑博士は1990年代早期に,死滅していくT細胞に発現する分子を発見し,programmed cell death-1(PD-1)と名づけた。その抗体は2006年に米国で臨床試験が開始され,2008年にはすでにその効果が証明されつつあった。2012年には抗PD-1抗体のさまざまながんに対する効果が報告されて現在の免疫チェックポイント阻害薬の飛躍的な発展につながっている。

「免疫」治療について考えてみる。微生物の感染から身体を守る機能という古典的な意味合いから,1796年にEdward Jennerによる牛痘の膿の接種にワクチンの歴史は始まる。その後,Louis Pasteurによって感染の「二度なし現象」が示され,Robert Kochによって細菌が分離・同定され,さらに北里柴三郎によって抗毒素(抗体)が発見され,免疫のかかわる感染症の治療としてはワクチンと抗体の両者が使える時代となった。最近では,世界中の国々を巻き込んだ新型コロナウイルス感染症に対してワクチンが開発され大きな効果を上げてきたことは周知の事実である。現在では,免疫機能は生命現象のすべてに含まれ,多くの細胞間のコミュニケーションの主体をなすことが知られており,生命科学の研究手法としても不可欠である。免疫を利用したがん治療の試みはColeyが腫瘍組織を使ってワクチンとし,1891年に報告したことに始まるとされている。がん免疫療法の歴史はその後,BCGなどを使用した黎明期に引き続きinterferonなどさまざまなサイトカインやMAGE 1などの腫瘍抗原の同定と応用を経て治療研究が行われたが,その効果は十分でなく免疫療法が懐疑的とみなされる時期が続いた。その後,bevacizumab,cetuximab,panitumumabなど分子標的治療薬としての抗体が効果を示し,ルネサンス期を迎える。さらに続いて抗CTLA-4抗体,米国食品医薬品局(Food and Drug Administration;FDA)で初めて前立腺がんに対する樹状細胞を用いた免疫細胞治療薬sipuleucel-Tの登場,抗PD-1抗体,抗PD-L1(programmed cell death-ligand1)抗体の出現で現在の活況に至る。がんワクチン療法としてはがん抗原の同定に引き続き蛋白をワクチンとして使用するペプチドワクチン療法と,1976年にRalph Steinmanが樹状細胞を発見し,2011年にはその樹状細胞を利用した樹状細胞ワクチン療法でノーベル生理学・医学賞を受賞した。本邦では1980年ころからBRM(biological response modifier)と称されるクレスチン®,ピシバニール®,レンチナン®,丸山ワクチンといった非特異的免疫療法薬が開発されて臨床応用された。

化学療法や放射線治療を行った患者でみると,がん組織には免疫反応が強くみられることがある。また,がん細胞の死滅が免疫機構の強い関与によって誘導されているという証拠も集まっている。これらの細胞死はimmunogenic cell deathと呼ばれ,注目されてきた。すなわち,これまでこれらの治療では化学療法や放射線治療の効果のみで細胞死がもたらされていると考えられてきたが,ここに免疫能の大きな関与があることが証明された。分子標的治療薬としてはすでに多く使用されているtrastuzumab,cetuximabなどはADCC(antibody-dependent cellular cytotoxicity)を介してnatural killer細胞によってがん細胞を攻撃する活性が報告されている。また,bevacizumab,ramucirumabなどVEGF(vascular endothelial growth factor)によるがん細胞の活性化機構を阻害することによって,がん組織の血管新生を阻害して正常化すると同時にがん局所の低酸素状態を改善し,制御性T細胞(regulatory T-cell;Treg)や骨髄由来免疫抑制細胞(myeloid-derived suppressor cell;MDSC)などの免疫抑制細胞を無力化し,CTL(cytotoxicT lymphocyte)の浸潤を増加させて免疫機能が有効に機能する状態を作り出す効果も期待されている。免疫チェックポイント阻害薬とVEGF阻害薬を併用した臨床試験も多く行われているが,いまだ多くのコンビネーションが上乗せ効果を証明されておらず,今後の展開にさらなる期待が寄せられている。

がんに対する免疫療法は免疫チェックポイントの発見とこれを阻害する薬剤の開発で大きな進歩を達成し,さらに有効な治療が実現されつつある。最近のがん治療に用いられる薬剤についてはこれまでのがん治療に供されてきた薬剤とは大きく異なる点がある。古典的な抗がん剤(殺細胞薬)は,主に自然界に存在する物質からスクリーニングを行ってがん細胞の増殖を抑えることをin vitro,in vivoに証明したものを製剤化したものであるのに対し,分子生物学で得られた情報をもとに標的分子を同定し抗体などを用いて標的分子を阻害するいわゆる分子標的治療薬である。これらの治療薬ががん細胞に直接作用するのに対し,がん免疫治療は作用の対象は「担がん宿主」,すなわち,がん患者の免疫システムである。この違いによって効果の発現のスタイルをはじめ有害事象も大きく様相を異にする。とくにがん患者では確立されているとされる免疫抑制機構により大きく異なり,MDSCやTregなどの免疫抑制細胞によって免疫療法の効果が減弱されたり,まれに投与後に急性増悪を示すHPD(hyperprogressive disease)症例などがあることも重要である。

月刊『消化器外科』(へるす出版)の2017年9月号~2019年9月号まで18回にわたり,腫瘍免疫学の研究で活躍される先生方に「癌免疫カンファレンスルーム」というタイトルで連載を執筆いただいた。本連載ではTOPICSという名前で腫瘍免疫学の分野で特徴的な言葉の解説や研究機器の解説も12回掲載した。今回へるす出版から連絡をもらい,この内容を成書として発刊する提案をいただいた。再度読み直すと,初回掲載から5年以上が経過してもなお素晴らしい内容で,とても読みごたえのある内容であった。ただし,この5年の腫瘍免疫学とがん免疫療法の進歩には目を見張るものがある。そこで,「癌免疫カンファレンスルーム」の執筆を担当いただいた先生方にお伺いしたところ,最近の進歩や変化を含め,改めて内容を変更・追加しての執筆に同意していただいた。なかには,この5年の間にすでに現役を退いている先生や残念ながら亡くなられた先生方がおられ,新たに数人の先生方にも執筆をお願いした。亡くなられた先生に心よりご冥福を祈ると同時に,本書が多くのがんを患う方々とがん治療に携わるすべての人々の役に立つことを願ってやまない。


2023年9月吉日

福島県立医科大学医学部地域包括的癌診療研究講座教授,同消化管外科学講座教授,会津中央病院がん治療センター所長
柴田 昌彦
福島県立医科大学医学部消化管外科学講座教授
河野 浩二

目次


がん免疫療法の歴史と発展

がん患者の全身・がん局所で起きている変化

免疫抑制のメカニズム

免疫チェックポイント阻害薬の歴史と現状

免疫チェックポイント阻害薬の将来

肺がんから学ぶこと; ガイドラインの変更

化学療法と免疫療法

BRM 療法とサイトカイン療法

樹状細胞ワクチンとペプチドワクチン療法

消化器がんに対するがん免疫療法の臨床試験と抑制性免疫の解析

免疫細胞療法

ネオアンチゲンを用いたがん治療

複合免疫療法

免疫抑制細胞をターゲットにしたがん治療

抗がん剤・分子標的薬との複合免疫療法

がん免疫サイクルと免疫編集

遺伝子改変T 細胞

がん免疫療法の未来に向けて;Beyond The Guideline

略語一覧

索引

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書籍情報

  • ISBN:9784867190760
  • ページ数:136頁
  • 書籍発行日:2023年9月
  • 電子版発売日:2023年9月27日
  • 判:A4判
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:3

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