一流を目指す小児アスリート
－スポーツ医学ができること－

近年，競技スポーツの低年齢化は著しく，競技種目によっては，成人アスリートに引けを取らない成績を出す小児アスリートも散見される．さらに，競技種目によっては成人アスリートでは発揮できないような特殊なパフォーマンスを小児アスリートが可能にすることもある．しかし，スポーツ医学的には，成長期の小児アスリートに極端な身体的負荷が加わるようなパフォーマンスには注意が必要で，スポーツ外傷やスポーツ障害を繰り返すことによって，その後のアスリート人生が致命的なダメージを受けることもある．小児期には活躍したものの，身体づくりがうまく行かず，その後成績がまったく振るわない選手も散見される．さらに場合によっては，成人してからの日常生活動作にも大きな影響を及ぼすこともある．成長期の小児アスリートが健全な発達を遂げ，一流の成人アスリートになるためには多くのことに留意しなくてはならない．

一流のアスリートになるために求められる身体能力は，競技種目によってさまざまで，筋力，持久力，瞬発力，柔軟性，俊敏性，メンタリティーなど，きわめて多岐にわたる．まず，「一流のアスリートになる－何が必要か？」と題して，わが国で小児期から行われている最もポピュラーなスポーツであるサッカー，野球，陸上競技，水泳，さらには審美系競技の代表としてフィギュアスケートについて，一流のアスリートになるためにはどのような能力が必要かについて，スポーツ医学的に解説する．

成長期の骨組織，筋組織，関節などの運動器は，成人と比べ，解剖学的にも機能的にも大きな違いがある．また，心肺機能，精神機能，諸臓器の機能においても未発達な部分が存在し，成人の機能とは大きく異なる．そこで「一流のアスリートになる－ここがポイント」と題して，まず，これら成長期のアスリートと成人アスリートとの身体的差異についてスポーツ医学的側面から解説する．食事は成長期アスリートのその後の身体づくりにきわめて大切な要素である．「基礎的な栄養バランスの考え方」「持久力を高める食事」「筋肉づくりとたんぱく質補給」について紹介する．そして小児アスリートが順調に成人アスリートになるための「レジスタンストレーニングの基本」「柔軟性獲得の基本」「モーターコントロール（運動制御）」「外傷や障害を受けない身体づくり」について解説する．さらに，「心肺機能を鍛える」「メンタルを鍛える」というテーマで，これまであまり注目されてこなかった成人アスリートとして成功するための重要な心身機能を取り上げる．最後に「一流の女性アスリートになるために」として，男性アスリートとは異なる一流の女性アスリートになるための重要な要素について解説する．

本特集が，将来の希望に満ちた小児アスリートが成長期を乗り越え，一流の成人アスリートになるための，何らかの指針になれば本望である．

特集編集：松本秀男（日本スポーツ医学財団理事長）