頭頸部腫瘍Ⅱ
―上気道・口腔・顎顔面骨腫瘍―

WHO頭頸部腫瘍分類第5版（2024年）では，上気道・口腔・歯原性・顎顔面骨腫瘍の各分野において，最近の遺伝子異常や分子異常の知見に基づき，分類や診断基準がアップデートされ，いくつかの新規概念も提唱されている．

中咽頭癌ではヒトパピローマウイルス human papillomavirus（HPV）感染の有無により，取り扱いが大きく異なり，p16はHPV感染のサロゲートマーカーとしてすっかり市民権を得たと思われるが，ピットフォールも存在する．また，上・中・下咽頭ならびに喉頭では発生する癌の特徴やHPVの関与も異なるため，区別して理解することも大切である．鼻副鼻腔癌では扁平上皮癌の分子亜型や，先行する乳頭腫の遺伝子異常が徐々に明らかになってきている．また，HPV-associated multiphenotypic sinonasal carcinomaやSWI/SNF complex-deficient sinonasal carcinomaなど新規概念が報告されているが，既知の疾患（腺様囊胞癌や未分化癌など）との異同や鑑別方法に関する新たな課題も生まれている．一方，鼻副鼻腔には固有の間葉系腫瘍も存在し，特徴的な病理所見や遺伝子異常が報告されているが，鑑別診断は容易ではない．

口腔上皮性異形成はありふれた疾患ではあるが，診断基準，目まぐるしい用語の変化，食道など部位間の用語の不統一性など，整理や解決すべき課題がなお存在する．歯原性腫瘍や顎顔面骨腫瘍は頻度が稀で，偶然遭遇したときに診断に難渋する病理医が少なくない．組織像を把握し，この領域に独特の疾患名や用語に慣れることは診断の第一歩となるであろう．また，分子異常の知見は，疾患の理解や診断の助けになると思われる．

本特集では前半で上気道病変，後半で口腔・歯原性・顎顔面骨病変を扱い，それぞれWHO分類のアップデートをoverviewいただいたのち，領域ごとの疾患について各論を解説していただく構成としている．加えて頭頸部癌のゲノム異常に関しても，扁平上皮癌を中心に，最新の知見をご紹介いただき，発生メカニズムや病態についても学ぶことができる内容となっている．

以上，本特集号が形態学を基本にしつつも，分子異常の新しい知見を取り入れながら改訂されたWHO分類第5版の理解と，日常診断や研究の助けとなれば幸いである．

山元英崇 ［岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 病理学（腫瘍病理）］
中黒匡人 ［名古屋大学医学部医学系研究科 病態構造解析学］