序文

前立腺癌に対する局所根治治療の主たる治療法の1つは前立腺全摘除術（RP）であります。手術支援ロボットを使用したロボット支援前立腺全摘除術（RARP）は2012年4月以降保険適応になったことで，RPの標準的術式の1つとなってきました。RPには腫瘍の完全摘除（oncological outcomes）と排尿機能・男性機能の再建・温存（functional outcomes）という2つの目的の達成が求められていますが，前者を優先にしつつ，後者を達成するには前立腺周囲解剖の深い理解と手術支援ロボットの拡大視野・精密な手術操作といった特徴を最大限に用いることが必要です。山﨑俊成先生（神戸市立医療センター中央市民病院）にはRPの概略，宮本俊輔先生（広島大学）には前立腺周囲解剖を詳しく記述していただきました。また手術支援ロボットの特性を生かした新しいRARPの術式が報告されていますが，レチウス温存手術を澤田篤郎先生（宮崎大学）に，フードテクニックを用いた術式を森實修一先生（鳥取大学）に，ダビンチSPを用いた術式を竹中政史先生（藤田医科大学）に，それぞれの適応や特徴を記述していただきました。いずれの章もRARP初心者から上級者まで大変参考になる文章となっています。

一方，中間〜高リスク前立腺癌に対してはoncological outcomeの向上のために直腸前・周囲脂肪織を摘除するような拡大手術やリンパ節郭清術をRPと同時に施行することが望ましい症例があります。三浦徳宣先生（愛媛大学）には拡大手術，新保正貴先生（聖路加国際病院）にはリンパ節郭清についてその意義を解説いただきました。

RARPによってこうした手術も安全に施行することが可能になってきましたが，注意しないと大きな合併症に遭遇します。両先生の章を参考に，RARPで上記術式を施行する先生には，安全かつoncological outcomeの向上に日々努めていただければと思います。

また，RARPの代表的な合併症，尿失禁と鼠径ヘルニアについて秦淳也先生（福島県立医科大学），福田翔平先生（東京科学大学）にそれぞれ解説いただきました。いずれの合併症も術後の患者さんのQOLの低下に繋がりますので，術前・術中にその予防をすることは重要です。是非，両章を参考にしてください。

前立腺癌の患者さんの多くは前立腺全摘除術をすれば治るものと思っています。しかしながら，RPを施行しても20 〜30％の症例で再発します。術前にその予測をしてきちんと再発の可能性について説明をすること，oncologicaloutcomeの向上のために再発しうる可能性ある場合には上記拡大手術・リンパ節郭清術，あるいは周術期補助療法を考える必要があります。佐々木豪先生（三重大学）にはその点について最近の知見をまとめていただきました。また他癌種でもオリゴ転移症例に対する局所治療は着目されています。前立腺癌はまだエビデンスが少ないですが，川瀬真先生（岐阜大学）にはご自身の施設での経験を記述いただきました。

限局性前立腺癌には手術以外にも放射線治療・PSA監視療法などがあります。いずれの治療でもoncologicalには差異がない症例があります。したがって，治療中・治療後のQOLは治療選択の上でも非常に重要です。この方面に詳しい成田伸太郎先生（秋田大学）に前立腺全摘除術後の患者QOLという題目で記述いただきました。客観的なQOL指標をもとに自施設の術後患者QOLの調査をしておくことは，自分たちの術式を見直す上でも大切だと思います。是非参考にしてください。

RARPは手術支援ロボットが導入されている施設では若手からベテランまで施行する最も多い術式だと思います。釣りはフナにはじまりフナに終わるという格言がありますが，RARPは腫瘍および機能のコントロール両面を含むため，ロボット手術はRARPに始まりRARPに終わると言えるかと思います。標準術式になった今だからこそ，この特集を参考にさらなる高みを目指して手術に臨んでほしいと思います。

最後にこの企画にご協力いただいた執筆者・編集担当の先生，泌尿器外科の編集部の方に感謝申し上げます。

三重大学大学院医学系研究科腎泌尿器外科
井上貴博