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- 薬局 2024年9月増刊号 Vol.75 No.11 西洋医学×東洋医学 解剖生理で学ぶ くすりの効きどころ
商品情報
内容
漢方薬は身近にさまざまな診療科で処方され,西洋薬とあわせて処方される場合も少なくありません.しかし漢方薬は西洋薬と比べて,基礎薬学的な解説に馴染みがなく,作用のしくみを理解するのが難しいという印象をもっている方も多いのではないでしょうか.
くすりの効果は,もともと身体が持ち合わせている生理的な作用に基づき,各病態で過剰になっているはたらきや不足しているはたらきを,抑えたり補ったりすることで発揮されています.そのコンセプトは,西洋医学でも東洋医学でも基本的には同じはずです.つまり,漢方薬でも西洋薬でも,キホンとなる解剖生理・病態生理や生命活動のとらえかたの概要をつかめば,くすりの利きどころ(標的,効果,副作用)が見えてくるということです.また,解剖生理・病態生理からくすりの作用を捉えることは,医療者がくすりの作用を具体的にイメージし,それを患者さんに伝えやすくなることにもつながるはずです.
そこで本書では,西洋医学と東洋医学における身体の各部位の機能を,薬物療法と絡めてやさしくおさらいします.図やイラストも豊富で,解剖生理とくすりの作用を簡潔に理解できる内容となっています.西洋医学と東洋医学の垣根を越えて,より深く患者さんの薬物療法を支える一助となれば幸いです.
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序文
はじめに
西洋医学と東洋医学:連携と統合への第一歩
「薬局」2024年9月増刊号『西洋医学×東洋医学― 解剖生理で学ぶくすりの効きどころ―』を上梓することができました.本号は「西洋医学と東洋医学とがもつ病に対する姿勢を理解し,その調和を以て医療に資する」ことを目的としております.
従来,西洋医学が疾患や病巣に対する集中的治療を重視した医療であったのに対し,東洋医学は自然の一部としての人体がもつ治癒能力を高めることで全身的治療を主眼におく医療,と言われてきました.そして,今日まで,両者の連携の必要性を感じながらも,全体的統合の実現に至らず,多くの医療関係者にとっても靴下瘙痒の感が拭えない状況が続いております.
今日,当然のことながら,医学・医療には,西洋医学と東洋医学とが備える利点を互いに活用・補完することで,新たな科学としての医学を創造することが求められております.ともすれば即効性を求められる現代医療ですが,予後や経過を考慮しての治療がよりいっそう大切になってきていることを見逃してはなりません.「すぐに役立つ技術革新のみならず,洋の東西を問わず,未来を見据えた科学的視点を重視したい」そんな想いをこめて本号をお届けしたいと念じております.
「くすり」は「病に効く奇すしきもの」すなわち「不思議な力を秘めたもの」とされ,中国から渡来した「薬」に当てはめられたとされています.「薬」には「病をつぶす草」「病平癒の祈祷に用いる草」「薬材を薬研で碾ひいたもの」などの意味が含まれているといいます.英語のpharmacyの語源であるギリシャ語のpharmakonにも「呪術やそれに用いる薬物」といった意味があるようで,古来,人々は病と対峙する際に「くすり」を用いていたことがわかります.
本号では「くすりの効きどころ」に注目し,その西洋医学からみた人体の解剖生理の基盤,ならびに東洋医学からみた病態の弁証論治について解説を加えたものです.本号を繙いて頂き,西洋医学と東洋医学の連携・統合の手がかり・足がかりを一つでも見出して頂ければ,執筆者の一人として幸甚の至りであることを申し添えます.
2024年9月
松村讓兒
ようこそ! 奥深い漢方基礎医学の世界へ!!
漢方初心者は「(西洋)病4名」を決定して,相当する「(漢方)方4剤」を一対一対応して投与します.たとえば,「こむら返りに芍薬甘草湯」や「機能性ディスペプシアに六君子湯」というパターンです.この手法は,正式な漢方用語にはありませんが,「方病4 4相対」とも言うべきかたちになっています.周知のことかもしれませんが,前者の「こむら返り」治療のように,これで奏効する疾患もあります.しかし,日常に診療する疾患全体に本法を適応させても,その奏効率は決して高くはなりません.そこで,これを改善するために,患者の「証4 」を診て,それに合う漢方薬を選定する手法を取り入れるようになります.すなわち,独特の漢方問診と身体所見によって,それに適応する漢方処方を決定します.この方法で治療効果は飛躍的に向上し,日常診療ではまず困らなくなります.これを漢方用語で「方証4 4相対」といいます.
しかし,方証相対で治療し続けていると,今度は西洋医学で学んだように,「この薬剤がこの病態に効果をもたらした根拠は何であるのか」が知りたくなります.すなわち,本号のタイトル「くすりの効きどころ」に対する知的要求が芽生えます.しかし,これを理解するには相当の努力が必要です.その理由を説明しましょう.本文中でも触れましたが,西洋医学では解剖生理学や薬理学など基礎医学を学んでから臨床医学となります.一方,漢方医学では,これを逆行して臨床医学を先に学びます.なぜなら漢方の基礎医学は観念論的で,漢方の臨床経験がないと難解だからなのです.しかも指導医や流派によって,この基礎部分の解説は千差万別です.換言すると,漢方の基礎医学を先に学ぶと,頭が混乱するので後回しなのです.さらに,漢方薬理学,すなわち,「本草学」の多くの名著が現代語訳されておらず,とっつきにくいという背景もあります.
本文では,漢方基礎医学に相当する「弁証・論治」を筆者の自己流で記載致しました.念頭に置いたことは,「現代の臨床現場や医学用語から離れないこと」,「比喩を使って,できるだけ簡明にすること」の2点です.したがって,他書とまったく異なった解説かもしれませんが,仏教用語でいう「方便(=教えを導く巧みな手段.真実の教法に誘導するための仮の方法)」である,と自負しています.ぜひ,本文を読んでから,奥深い漢方基礎医学の世界に足を踏み入れてください.
2024年9月
千福貞博
日常に垣間見える「臓弁証」
このたびは南山堂さんからの依頼をいただき,「臓腑弁証」についての私なりの解説を執筆いたしました.
そもそも,漢方の教科書で読んでいて辛い部分が,漢方診断の理論展開である「弁証」の項目です.「臓腑弁証」はそのなかの一形態です.
他の「弁証」,たとえば「八はっ綱こう弁べん証しょう」が表・裏と寒・熱と虚・実と陰・陽を数値化に近い解析を行って,病態を座標で表して中庸なるバランスのとれた状態に向けるという,ある意味使い慣れた数学的な方法なのに対して,「臓腑弁証」は複雑怪奇であると述べても言い過ぎではありません.まず解剖学的な臓器と一致しない五臓[肝臓・心臓・脾臓・肺臓・腎臓],六腑[胆嚢・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦]の哲学的ともいえる定義をそのまま受け入れることから始めて(ここが一番高いハードルかも知れません),それらが複雑に絡み合う理論を「占いですか?」と評されそうな五行説(あらゆる物・事象は木・火・土・金・水のいずれかに属していて,その関係性からすべてが説明できるとする思想で,誕生したのは紀元前4 〜5世紀ごろの中国の戦国時代とされています)に基づいて展開されるのですから,拒否感がわいてくるほうが当然かもしれません.
しかしながら,日常生活のなかでのさまざまな経験を数千年の歴史のなかでもち寄ってでき上がったビッグデータから導き出された傾向は,時代が変わっても真実を述べていることが多いものです.季節がこのように乱れるとこんな疾患が増える,こういう偏った食生活だとこんな症状が起こる…これらの現象を,こういう気温ではこの「臓」が傷むからこんな病気が増える,とか,この味は過剰に摂取するとこの「臓」機能が過剰に亢進するのでこんな訴えになりやすい…という言葉で説明しているのが「臓腑弁証」だと思っていただくのがいいかも知れません.
この「臓腑弁証」は,気合を入れて勉強するよりは,日常のなかで見聞きした「これとこれって関係あるのかな?」と思った事柄,つまり一見すると無関係に見えるのに巷でよく発生する「マーフィーの法則」のような経験があったとき,ふと思い出して紐解いてみると,この「臓腑弁証」の基礎になっている五行説で2000年以上前から言われている傾向と一致するのに気付いて興味がわくことがあります.筆者がそうでしたが,それから学び始めてハマってしまうのが,この「臓腑弁証」の正しい勉強法である気がします.
この記述が皆さまのお役に少しでも立てば,幸いです.
2024年9月
八幡曉直
目次
第1部
くすりの効きどころがわかる
西洋医学の解剖・生理のとらえかた
(①~⑩:松村讓兒)
①中枢神経系
②末梢神経系,自律神経系
③運動器(主に筋肉・骨)
④循環器
⑤消化器
⑥代謝系
⑦呼吸器
⑧腎・泌尿器
⑨内分泌系
⑩免疫系
第2部
くすりの効きどころがわかる
東洋医学の五臓・生命活動のとらえかた
(①~④:千福貞博/⑤~⑪:八幡曉直)
①弁証総論 漢方医学での病態生理のとらえかた
②八綱弁証
③六経弁証
④気血津液弁証
⑤臓腑弁証:総論
⑥臓腑弁証:肝
⑦臓腑弁証:心
⑧臓腑弁証:脾
⑨臓腑弁証:肺
⑩臓腑弁証:腎
⑪臓腑弁証 付録:「心包」と「三焦」
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書籍情報
- ISBN:9784525940133
- ページ数:272頁
- 書籍発行日:2024年9月
- 電子版発売日:2024年9月19日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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