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- 症候学から見極める認知症
商品情報
内容
疾患修飾薬が承認され、認知症診療が劇的に変わろうとしている。
この流れのなかで認知症の薬物療法、非薬物療法は、より早期からの介入が求められることとなった。
これまで以上の精微な症候学の知識と最新バイオマーカーを組み合わせた正確な診断が求められている。
バイオマーカーを的確に用いるためにも、症候学の知識は欠かすことができない。
また、症候学は妄想や攻撃性といった派手な症候の裏に隠された本人の思いや苦悩を読み解く鍵となる。
診断されたあとも適切なケアを継続していくうえで欠かせないものである。
序文
はじめに
なぜ今,症候学なのか。
認知症医療においても,他の疾患同様に急速に進歩してきた脳画像や髄液検査などによるバイオマーカーの活用が叫ばれている。一方では,パーソンセンタードケアを中心とした全人的な介護,認知症になっても住み慣れた地域で安心して暮らせる社会の構築が国の施策にもなっている。そのような状況の中で,我々臨床医や医療専門職が患者さんと一対一で向き合う診察や観察によって得られる自覚症状と他覚的所見(症候学)の重要性を改めて世に問い直してみたいという思いが,本書の編集の企画を引き受けた動機の1 つである。
何人もの著者が本書の中で述べているように,症候学は認知症の診断だけでなく治療やケアにも欠かすことができない。少ない臨床経験に基づく私見であるが,認知症の9 割近くは診察(症候学)と通常のCTないしMRI画像が得られれば,診断にはこと足りると思われる。また,ほとんどの認知症性疾患に根本治療薬が存在しない現時点では,非薬物療法が治療の中心となるが,科学的な非薬物療法を実施するためには症候学の知識が不可欠である。検査のみに頼らず,診察と介護者からの情報に基づく診断,そして診察から得られた所見と各々の高齢者やその家族から聞き取った生活史や生活環境をも考慮した治療方針を,認知症者本人や介護者とともに作り上げていくことは,まさに臨床家の醍醐味ではないだろうか。また,正確な症候学の知識は,洗練された神経心理検査や精神症状評価尺度の開発に反映されることになる。さらに,特徴的な症状や他覚的所見から,新たな臨床分類の提唱,背景病理そして分子生物学的異常の発見にたどり着いた例は,認知症性疾患にも数多く存在する。すなわち症候学は,症状を症候群にまとめ,診断から治療をもたらす実用の学という側面と,症状の意味するところを求め,疾患の本質を考えるという理念の学という側面を併せ持っているのである(濱田秀伯:精神症候学 第2 版.弘文堂,2009)。
最近の有病率調査で,わが国の認知症者は460万人,認知症の前駆段階を高頻度に含んでいるMCIは400万人といわれているが,この人達すべてに高度な医療機器や侵襲的な検査を実施する余裕は,経済的にもマンパワーの面でも今の医療現場には残っていない。何より,多くの高齢者やその家族は,そのような負担を望んでいないと思われる。また,MCIの段階において背景疾患を検索する目的で進歩の著しいバイオマーカーを的確に補助診断として用いるためには,診察そのものの水準が十分であることが大前提であることは言うまでもないことであろう。
私の師匠であった故田邉敬貴愛媛大学教授は,認知症をめぐるこのような状況をふまえて,認知症の症候学をこれからの認知症医療を担う若者達に伝授する重要性を常々強調されていた。本書の執筆を,田邉先生にゆかりのある,わが国を代表する臨床家の先生方にお願いした所以である。
それにしても,本書の編集を引き受けてから5年の月日が流れた。これはひとえに編者の怠慢と力不足によるものであり,この場をお借りして快く執筆を引き受けてくださった著者や関係者のみな様にお詫びしたい。また,辛抱強く励まし続けてくださった新興医学出版社の岡崎真子さん,ならびに編集部のみな様に深謝したい。
2014 年春 熊本にて
池田 学
目次
第Ⅰ章 総論
1 認知症診療における症候学の重要性 森 悦朗
認知症診療における症候学の役割
病歴
神経症候
神経心理症候
認知症の行動・心理症状(BPSD)
2 神経心理学的検査と症候学 今村 徹
MMSEの症候学的ポイントと有用な追加課題
MMSEの施行順序と教示内容例
3 画像と症候学 福原竜治
大脳の領域とその機能
認知症の行動・心理症状(BPSD)と脳画像
123I-MIBG心筋シンチグラフィ
ドパミントランスポーターシンチグラフィ
第Ⅱ章 認知症をきたす疾患の症候学
1 アルツハイマー病の症候学 松田 実
アルツハイマー病(AD)概念の変遷と症候学
AD診断における基本的な注意点
ADにおける全体的行動の特徴や診察上の注意点
要素的な認知機能障害
行動・心理症状(BPSD)
高齢者ADと非定型ADについて
2 血管性認知症の症候学 森 悦朗
血管性認知症(VaD)の基本的なタイプとそれらの症候
血管性病変をもつ認知症患者
脳微小出血(CMBs)と脳アミロイド血管症(CAA)
3 レビー小体型認知症の症候学 池田真優子,橋本 衛
認知機能障害
レビー小体型認知症(DLB)の精神症状
レビー小体型認知症(DLB)の神経症候
Prodromal DLB
4 前頭側頭葉変性症の症候学 池田 学
行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)にみられる特徴と鑑別診断
意味性認知症(SD)にみられる特徴と鑑別診断
進行性非流暢性失語(PNFA)にみられる特徴と鑑別診断
治療とケア
5 大脳皮質基底核変性症と進行性核上性麻痺の症候学 下村辰雄
大脳皮質基底核変性症(CBD)
進行性核上性麻痺(PSP)
6 正常圧水頭症と慢性硬膜下血腫の症候学 數井裕光
特発性正常圧水頭症(iNPH)
慢性硬膜下血腫(CSDH)
第Ⅲ章 症候学 各論
1 せん妄 西 晃,船山道隆
せん妄の概説
せん妄の診察ツール
せん妄の予防・治療
2 うつとアパシー 水上勝義,佐藤晋爾
認知症に合併するうつ状態と老年期うつ病
認知症の前駆段階でみられるうつ状態
うつ病性仮性認知症
認知症のうつ状態
アパシーとうつ状態
アパシーへの対応
3 注意障害 平山和美
行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)
大脳皮質基底核症候群(CBD)
アルツハイマー病(AD)
レビー小体型認知症(DLB)
4 遂行機能障害 穴水幸子
遂行機能障害の定義
遂行機能障害の検査法
行動異常型前頭側頭型認知症(bvFTD)の診断における遂行機能障害について
認知症の行動・心理症状(BPSD)の家族介護者の態度との関連
5 記憶障害 三村 悠,三村 將
記憶とは
認知症における記憶障害
6 幻覚 長濱康弘
幻覚の定義,種類
認知症,器質性精神障害と幻覚
主要な認知症疾患と幻覚
その他の高齢者疾患と幻覚
認知症における幻覚の発症機序
幻覚の治療
7 妄想 鐘本英輝
妄想とは
認知症でよくみられる妄想
各認知症疾患でみられる妄想
認知症における妄想の治療
8 常同・強迫行動 繁信和恵
前頭側頭型認知症(FTD)
ハンチントン病(HD)
パーキンソン病(PD)
進行性核上性麻痺(PSP)
自閉スペクトラム症(ASD)
9 食行動異常 品川俊一郎
認知症患者における食行動
食行動異常の症候学
アルツハイマー病(AD)における食行動異常
前頭側頭型認知症(FTD)における食行動異常
レビー小体型認知症(DLB)における食行動異常
10 睡眠関連症状 足立浩祥,立花直子
認知症の鑑別診断に役立つ睡眠関連症状
認知症患者や家族のQOLに影響する睡眠関連症状
知っておきたい一次性睡眠関連疾患の睡眠関連症状
11 失語および関連言語症状 大槻美佳
言語症状を診る基本ポイント―要素的言語症候と関連する症候―
進行性失語の診断ポイント
認知症性疾患と失語症の関係
12 失行症(行為・動作の障害) 中川賀嗣
失行の前提要件(鑑別症候)
古典的失行のここでの表記法
狭義の失行とその基本的な評価法
非失行性の行為・動作障害との鑑別
他人の手(症候群)について
13 相貌認知障害と鏡現象 小森憲治郎
既知の相貌認知の障害(相貌失認)
相貌の意味記憶障害(人物特異的意味記憶障害)
鏡現象
第Ⅳ章 症候学から生活支援へ
1 自動車運転 上村直人,中山愛梨,藤戸良子
増加する高齢ドライバーと交通事故との関連性
道路交通法の変遷と把握しておくべき最新の関連法
臨床場面における具体的対応と生活指導
運転行動・運転能力と認知症との関連性
2 症候学から認知症の人を理解する―在宅支援を中心に 鈴木麻希
認知症診断と支援
認知症の原因疾患別の対応法(環境調整)
認知症支援における多職種連携と地域連携
オンラインを用いた遠隔支援
COLUMN
COLUMN 1 認知症に対する薬物療法up to date 岩田 淳
COLUMN 2 認知症におけるPET 画像診断up to date 石井一成
COLUMN 3 右側頭葉優位型の前頭側頭型認知症について 佐藤俊介
COLUMN 4 認知症と口腔機能―歯科との連携― 眞鍋雄太
COLUMN 5 認知症と感染症(主にCOVID-19に関して) 牧 徳彦
COLUMN 6 介護保険制度と診断後支援 谷向 知,柴 珠実
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書籍情報
- ISBN:9784880021270
- ページ数:224頁
- 書籍発行日:2024年1月
- 電子版発売日:2023年11月14日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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