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- 胃炎の成り立ち―内視鏡診断のこれまで、これから
商品情報
内容
本書の書名を『胃炎の成り立ち―内視鏡診断のこれまで、これから』にしたのには理由がある。この分野は「○○所見」や典型像が示されることが多いが、多少の違和感があった。共有しやすいメリットはあるかもしれないが、胃炎はバリエーションだらけである。筆者は成り立ちから考えることが大切だと思っている。そのためできるだけ病理所見を併記することにした。なぜこの胃炎はこの内視鏡像が得られるのか? そこから考えることでどんなバリエーションにも対応できる。このことは90年代から今日に至る「これまで」の重要な教訓でもある。また、成り立ちから考える習慣は、新たに注目されている疾患、あるいは未知の「これから」の病態を見つけていくためにも必要である。
読者はまず第1章、11題の設問に挑戦してほしい。解答・解説を見ず、まずご自分の見解を持っていただきたい。間違った設問は、第3章以降の該当項目を通読していただきたい。きっと新たな発見がある。全部正解できた方には脱帽だが、それでも本書はきっとブラッシュアップに役立つと思う。最後の2問は腫瘍も扱ったが、ここでも胃炎の書籍らしく背景粘膜も考えていただくことにした。
本編で書ききれなかった内容は、9つの項目にして別途挿入した。中には個人的な振り返りもあり恐縮だが、ここでも「これまで」、「これから」を意識したつもりである。
(本書「はじめに」から)
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序文
はじめに
「内視鏡でHpがわかるわけがない!」90年代後半だったか、批判・叱責を受けた。
筆者、そして同世代の多くは、Helicobacter pylori(Hp)に翻弄された世代である。
Hpが発見されたのは1979年である。まだ学生であった私は、慢性胃炎は「加齢現象」だと教えられた。当時日本は胃癌大国であり、そのベースとなる萎縮性胃炎の研究は伝統があった。卒後、内視鏡を始めてからも私たちの世代はそうした伝統にならって胃炎をみていた。90年代に入ると、Hpの知見がどんどん蓄積され、ようやく胃炎の捉え方にも変化が起こった。そうした中、Hpを自分の眼で見分けよう、あるいはそれができると考える内視鏡医たちもいた。しかし、当時は組織学的胃炎と内視鏡的胃炎は一致しないという考え方がなお趨勢であったのだ。冒頭の批判はその表れである。なぜこのようなずれが起こったのか? それは一言でいえば、「発赤」に着目できなかった時代の制約であった。潮目が変わったのは2000年代に入ってからだろうか。Hpによる炎症の指標となるものとそうでないものを区別することでHp感染の内視鏡診断が可能だという認識が次第に浸透していった。胃炎診断の過渡期を過ごしてきた世代は、翻弄されっぱなしだったばかりではなく、それを乗り越えてきたとも言えるかもしれない。
現在ではHpの内視鏡診断はほぼ確立されたといってよい。したがって、本書では誤りやすい事項にしぼって設問として取り上げ、それを解説する形式に重きを置いた。一方、自己免疫性胃炎やNHPH胃炎など新たに注目されている疾患は、もちろん設問にも取り入れつつ、一通りの理解が得られるよう総説に重点を置いた。そのため項目ごとにアンバランスがある。
本書の書名は『胃炎の成り立ち―内視鏡診断のこれまで、これから』とした。これには理由がある。この分野は「○○所見」や典型像が示されることが多いが、多少の違和感があった。共有しやすいメリットはあるかもしれないが、胃炎はバリエーションだらけである。筆者は成り立ちから考えることが大切だと思っている。そのためできるだけ病理所見を併記することにした。なぜこの胃炎はこの内視鏡像が得られるのか? そこから考えることでどんなバリエーションにも対応できる。このことは90年代から今日に至る「これまで」の重要な教訓でもある。また、成り立ちから考える習慣は、新たに注目されている疾患、あるいは未知の「これから」の病態を見つけていくためにも必要である。これらが書名の所以である。
読者はまず第1章、11題の設問に挑戦してほしい。第2章の「解答と解説」を見ず、まずご自分の見解をもっていただきたい。間違った設問は、第3章以降の該当項目を通読していただきたい。きっと新たな発見がある。全部正解できた方には脱帽だが、それでも本書はきっとブラッシュアップに役立つと思う。最後の2問は腫瘍も扱ったが、ここでも胃炎の書籍らしく背景粘膜も考えていただくことにした。
本編で書ききれなかった内容は、9つの項目にして別途挿入した。中には個人的な振り返りもあり恐縮だが、ここでも「これまで」、「これから」を意識したつもりである。
病理監修を九嶋亮治先生にお願いしたところ、快くお引き受けくださった。私の撮った稚拙な写真を診ていただき多くのアドバイスを得た。この過程で筆者自身が気づいたものも大きかった。九嶋先生のご助力がなければ本書は完成しなかったといってよい。心から感謝申し上げます。
また本書の提案をいただいたのが(株)シービーアールである。なかでもプランニングから出版までの労をお取りいただいた同社顧問の荻原足穂氏、退職されたが企画・編集コーディネーターの木内文章氏である。お二人に心から御礼申し上げます。
2023年9月
寺尾秀一 加古川中央市民病院消化器内科
病理監修にあたって
病理医の専門性によらず、日常の病理診断において、消化管検体の占める割合は高い。炎症性病変の質的診断を迫られる機会も増えているが、これまで日本の消化管病理診断では癌・非癌の鑑別に注力されてきたきらいがある。胃と大腸生検においては伝統的にGroup分類が用いられ、非腫瘍とわかればGroup 1としか書いていないレポートも多い。
かく言う私も、服部隆則先生が主宰され胃病変の組織発生を実験的に研究することを主眼とする教室に属していたにもかかわらず、病理医の道を歩み始めた1980年代後半は“Gastritis, Group1”としか診断タイトルに記載していなかった。ボスからも「胃炎は病気と言えん」と自虐的に教わった。しかし彼のもとで胃底腺細胞の分化、偽幽門腺化生や腸上皮化生の組織発生など、胃病理の基本中の基本を知らず知らずのうちに身に着けた。
海外でH. pyloriが1980年代に胃炎患者の胃粘膜から発見され、H. pyloriが表舞台に登場した1990年前後になっても多くの日本人はその病原性に対して懐疑的であった。私は1995~1996年デュッセルドルフ大学に留学し、Borchard先生に師事した。彼は国際的にそれほど有名ではないが、ドイツ語圏ではStolte先生のライバルとしてよく知られた存在であった。胃癌やブルンネル腺の研究のほか、毎日昼食後に消化管生検の特訓をドイツ語で受け、「胃炎はA型、B型、C型とそれ以外に分けて考えろ」「生検をみてノーヒントでA型胃炎がわかれば一人前」などと教わった。このときの経験が、昨今の自己免疫性胃炎ブームに乗り遅れることなく、寺尾秀一先生との出会いにつながったと感じている。
ちょうどその頃、胃炎に関する国際ワークショップがヒューストンで開催され(日本人参加者は渡辺英伸先生お一人)、The Updated Sydney System(USS)が刊行された。自分の胃炎診断にUSSの考え方を取り入れ、滋賀県下のある病院の診断用紙にVisual analogue scaleのグレーディングをいち早く導入した。少なくとも京滋地区では初めての試みであっただろう。その後、当時はH. pylori胃炎にほとんど興味を示していなかった国立がんセンター中央病院に異動してからも胃炎に対する興味を密かに持ち発信し続けた。
滋賀医科大学に帰学した2014年に『胃炎の京都分類』(日本メディカルセンター)が刊行された。私は中島滋美先生の病理写真を作成したのでたまたま共著者に加えていただいたが、私以外に病理医の名前が著者リストにないのだ。胃炎マニアの内視鏡医たちは自分で病理写真も撮影し解説されているのであるが、ちょっと寂しい思いがした。
今回、私は病理監修といっても『胃炎の成り立ち―内視鏡診断のこれまで、これから』の病理写真はすべて寺尾秀一先生が撮影されたものである。生検検体を臨床検査技師がパラフィンブロックに包埋する方向性まで寺尾先生が指示されていると聞いた。なるほど、内視鏡写真のみならず、病理写真も美麗なわけである。胃の内視鏡像と病理組織像との対比を売りにした書籍はいくつか刊行されているが、“胃炎に特化”したものは他に類を見ない。内視鏡像とそれを裏打ちする病理組織像で表現される“胃炎の成り立ち”について、本書を通じて読者の理解が深まり、単なる絵合わせでない胃炎診断に役立てば幸いである。
2023年9月
九嶋亮治 滋賀医科大学医学部病理学講座
目次
第1章・第2章 設問・解答と解説
設問1 どちらが若い時期の内視鏡像か?
設問2 本例のHp感染状況は?
設問3 3例中Hp現感染例はどれか?
設問4 粘液の多いケースに遭遇―Hp除菌治療の適応といえるのはどれか?
設問5 病態の異なる2症例―現在と1年前の内視鏡像の正しい組み合わせは?
設問6 本例は、正常胃? Hp現感染? Hp既感染? AIG? NHPH? PPI関連胃症?
設問7 NBI拡大像―Hp除菌適応があるのはどれか?
設問8 病態が異なる3例―生検が必須であるのはどれか?
設問9 GERD治療中であるのはどちらか?
設問10 発赤調の隆起性腫瘍と背景粘膜の正しい組み合わせは?
設問11 立ち上がりがなだらかな隆起性病変と背景粘膜の正しい組み合わせは?
第3章 総説
Ⅰ.Hp胃炎内視鏡診断の勘所
1.優先すべき所見を理解していないと「胃炎の京都分類」は使えない
2.Hp現感染の診断に優先すべき所見はびまん性発赤と粘膜腫脹の2つである
3.Hp感染状況診断に用いる所見と、用いてはいけない所見がある
4.Hp現感染はなざ「赤い」のか?―びまん性発赤の本態
5.点状発赤はHp既感染にも残存、あるいは新たに出現することがある
6.地図状発赤の出現をあてにしてはいけない―Hp既感染の診断
Ⅱ.自己免疫性胃炎の内視鏡診断と組織像
1.早期AIG―最初の変化は粘膜深部に起こる
2.中期(活動期)AIGの病期は残存胃底腺で評価する
3.進行期・終末期AIGでは、泥沼除菌と固着粘液に注意
4.前庭部は必ずしも正常ではない
5.残存胃底腺の内視鏡像と組織所見
6.進行期・終末期AIGの内視鏡像と組織所見
7.AIGに見られるその他の内視鏡所見(固着粘液、散在性微小白色隆起、過形成性ポリープ、多様な前庭部)
8.AIGの体部の拡大NBI観察所見
9.病理学的病期
Ⅲ.NHPH胃炎
1.NHPH胃炎の診断・検査法―Hp胃炎とのずれを意識する
2.今まで報告されている内視鏡像の特徴
3.組織学的胃炎の分布を内視鏡で把握する
4.除菌後変化を内視鏡で把握する
5.Hp胃炎との内視鏡像の違い
6.病理像の報告
Ⅳ.PPI関連胃症、好酸球性胃炎
1.PPI、P-CABの影響
2.好酸球性胃炎
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書籍情報
- ISBN:9784911108123
- ページ数:148頁
- 書籍発行日:2023年11月
- 電子版発売日:2023年11月24日
- 判:B5判
- 種別:eBook版 → 詳細はこちら
- 同時利用可能端末数:3
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