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臨牀消化器内科 2019 Vol.34 No.12 遭遇の機会が増えたIPMN/膵嚢胞-現状と課題

  • ページ数 : 108頁
  • 書籍発行日 : 2019年10月
  • 電子版発売日 : 2019年11月6日
3,300
(税込)
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商品情報

内容

特集「遭遇の機会が増えたIPMN/膵嚢胞-現状と課題」
画像診断の進歩により多数のIPMN/膵嚢胞が指摘されるようになった今,確かに健常人と比べると膵癌の高リスク群ではあるが,過度に心配されるほどの高リスクでもなく,消化器内科のcommon disease としてその病態や経過観察のポイントを理解していただいたなら幸いである

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序文

巻頭言

はじめに

本邦では,今でこそ膵管内乳頭粘液性腫瘍,あるいはIPMN といえば,"ああ,あの疾患"とすぐに想起されるほど,その疾患概念が定着しているが,この疾患が"粘液産生膵癌"として世界に先駆けて日本で提唱されたことをご存知の先生は残念ながら少ない."粘液産生膵癌"の歴史的変遷をできるかぎり正確に辿り,この疾患(概念)が現在の膵癌診療に大きく及ぼした影響について記述したいと思う.ただし,枚数の関係で引用文献を十分に記せないことをお許し願いたい.本稿の執筆に当たっては拙著である「粘液産生膵腫瘍」(医学図書出版,1989),「Atlasof Excrine Pancreatic Tumors」(Springer-Verlag, 1994),「膵囊胞性疾患の診断」(医学書院,2003)を参考にした.


1.疾患概念の提唱

"粘液産生膵癌"と同様の膵囊胞性病変は,本邦および諸外国において古くから報告されていた.最初の記載は1951 年のKeeth, M. K. ら,1974 年のJohnson, R. R. らであり,本邦においては1977 年のIto, Y. ら,1980 年の小池ら,1981 年の木村ら,の報告がある.しかし,これらはいずれも散発的で,稀有な症例としての報告にとどまっていた.今日のIPMN の疾患概念成立の直接のきっかけを世界に先駆けて作ったのは大橋計彦,高木国夫らであることは,この疾患で仕事をしようとする先生は是非,記憶に留めておいてほしい.彼らは1980 年に総胆管-膵管瘻を形成した膵囊胞状腺癌の1 切除例を報告し1),立て続けに3 切除例を経験したことから4 例をまとめ1982 年に「癌の産生する粘液が膵管内に充満して主膵管が拡張し,乳頭の腫大,開口部の開大を起こし,粘液の排出が観察される」膵癌を"粘液産生膵癌"と呼称し,新たな疾患概念として提唱した2).正にパスツールの言葉「偶然は用意された心のみに宿る」を地で行ったものである.大橋らは当時を振り返り,この疾患概念の提唱は外科,内科,放射線科,研究所(病理)の協力と1 例1 例を大切にして真実を明らかにしようとする癌研の自由な雰囲気の賜物としている.


2.疾患概念の変遷

大橋・高木らの報告以降,"粘液産生膵癌"の存在は本邦においてのみ浸透し,症例報告が急激に増加していった.しかし,本疾患概念は臨床像を中心としたものであり,当時はまだ病理学的な定義づけが整理されておらず,疾患概念や病理診断などに混乱をもたらした.わが国においてIPMN に相当する病変の病理診断名としては,膵囊胞腺腫・癌,膵囊胞状腺癌,乳頭状円柱上皮細胞癌,乳頭状膵管上皮内癌,粘液結節癌,主膵管と交通する囊胞腺腫・癌,粘液形成癌,乳頭状腺癌,乳頭管状腺癌,粘液産生境界領域病変,粘液癌,乳頭腺癌,粘液産生腺腫,膵管内乳頭腫,膵管内乳頭腺腫,adenopapillary and mucinous of borderlinemalignancy,膵管上皮過形成,低分化型管状腺癌など,実にさまざまな名称で報告されていた.

このような混乱した状況下ではあったが,症例数の増加に伴い,多彩な臨床像が明らかになってきたし,その一方で混乱を解決すべくいくつかの考え方や分類が提案された.

"粘液産生膵癌",のちのIPMN の提唱とその後の変遷を見てみると,1980 年に大橋,高木らが癌研ERP 分類(図1)のなかで"癌研Ⅲ型膵癌"として提唱した3)のがことの始まりであるが,続いて彼らは1982 年に"粘液産生膵癌"の4 例をまとめ2),さらには1984 年には"予後の良い膵癌"として報告している4).

しかし,その後に報告が増加するなかで,種々の混乱も生じた.さらに狭義の粘液癌との異同の問題や,粘液産生性でありながら乳頭口の開大や主膵管拡張を伴っていない囊胞性の膵腫瘍(卵巣様間質を有するmucinous cystic neoplasm;MCN や分枝型IPMN)の存在も明らかになり,その取り扱いも問題となった.

1986 年に癌研の加藤,柳澤らは病理組織学的な見地から「細胞外に大量の粘液を産生あるいは貯留する膵癌」を粘液産生膵癌(広義)と定義し,それらを三つに分類し報告した5).すなわち,① 粘液(結節)癌,② 粘液囊胞腺癌,③ 膵管内乳頭腺癌に分け,さらに粘液囊胞腺癌を巨房型と膵管拡張型に細分化した.この分類によると,大橋,高木らが最初に提唱した"いわゆる粘液産生膵癌"は膵管拡張型粘液性囊胞腺癌と膵管内乳頭腺癌に属することになる.今日のMCN と分枝型IPMN に当たる病変は,それぞれ粘液囊胞腺癌の巨房型と膵管拡張型に相当する(図2).その後,同じような臨床所見を示す腺腫や過形成が多く報告されたため,この分類は後に良性腫瘍を含む形で改変されることになる.

筆者らも時期をほぼ同じくして臨床病理学的な見地から検討を行い,癌研Ⅲ型膵癌と同様の臨床像を呈する疾患のなかに,病理組織学的には癌とはいえない,良性疾患(腺腫や過形成)と診断される例のあること,hyperplasia→adenoma→carcinoma sequence などが存在することに注目し,このような病変を"粘液産生膵腫瘍"と呼称した6).さらに1986 年,1988 年には,腫瘍の発生部位(主膵管,1~2 次の膵管分枝,それ以降の微細な末梢分枝)により単に肉眼形態や画像所見が異なるだけだとの考えに基づき同一の疾患単位(mucin-producing cystic tumor ofthe pancreas;MCT)として一まとめにできるとし,主膵管型,分枝型,末梢型に分類して,報告した(図3)7),8).これは広義の粘液産生膵腫瘍の分類であり,主膵管型,分枝型が"いわゆる粘液産生膵腫瘍",すなわちIPMN に当たり,末梢型は古典的な粘液性囊胞腫瘍(MCN)と一部のIPMN に相当するものである.しかし,MCN の診断基準にovarian-like stroma(OLS)を必須条件とした場合の検討でIPMN とMCN は明らかに異なる疾患と結論し,"過ちは則ち改むるに憚ること勿れ"と考え,混乱収拾のために潔く後の膵臓学会の会場で自ら謝罪・訂正した.

その後に黒田らは,これらの分類をさらに統合・整理し,1988 年の膵臓学会誌に第19 回[年次大会記録]ラウンドテーブルディスカッションのまとめとして"粘液産生腫瘍"の臨床病理学的分類として報告した.この分類ではまず広義の粘液産生膵腫瘍を,膵管内腺腫・癌・過形成?,粘液囊胞腺腫・癌,粘液(結節)癌,一部の浸潤性膵管癌に分け,さらに膵管内腺腫・癌を主膵管型,分枝型,複合型に亜分類した.また腫瘍部の形態からflat 型,polypoid 型などに細分類した.この分類では膵管内腺腫・癌がIPMN に相当する.


3.疾患概念の整理

わが国の「膵癌取扱い規約」に目を向けると,1986 年の「膵癌取扱い規約」第3 版で乳頭腺癌のなかに初めて膵管内乳頭腺癌の記述が登場した.1993 年の第4版には膵管内腫瘍(乳頭腺腫,乳頭腺癌,非浸潤性および微小浸潤性,膵管内乳頭腺癌に由来する浸潤癌)を独立させ,脚注として"いわゆる粘液産生膵腫瘍"がこれに当たると記載された.2002 年の第5 版では後述するArmed Forces Instituteof Pathology(AFIP)やWHO のあとを追うような形でMCTs とIPMTs が,さらに2009 年の第6 版にはMCNs とIPMNs の記載はある.しかし,これ以降は"粘液産生膵腫瘍"の記述は規約からは消えることとなった.

一方,海外に目を向けても,1990 年頃まではAFIP のTumor of the ExocrinePancreas においても,粘液貯留を特徴とする疾患としては「粘液性囊胞腺腫・腺癌(mucinous cystadenoma╱adenocarcinoma)のみが挙げられており,"粘液産生膵癌・膵腫瘍"の疾患概念はまったく気づかれていなかった.Intraductal papil-lary-mucinous tumor(IPMT)として初めて記載されたのは,1994 年に病理の単行本International Pancreatic Cancer Study Group(IPCSG)(現在は絶版)において"Mucin-producing tumor of the pancreas"の表題(筆者らが1991 年にCancer誌に同名の論文を発表)で依頼を受け,原稿の校正の過程で突如"IPMT"なる日本人にはとても思いつき難いヘンテコな名称をハイフン混じりにeditors が出してきたのに困惑しつつ,これでは今までの日本人の多くの業績が忘れ去られてしまうと危惧した記憶がある.

その2 年後の1996 年にはWHO 分類として初めてIPMT がBlue Book に記載され世界に知られるようになったが,翌1997 年にはAFIP においてすぐにIPMN(intraductal papillary-mucinous neoplasm)への名称変更がなされ,現在のようにIPMN なる語句が一人歩きするようになった.これらの過程において,大橋,高木らが提唱した"粘液産生膵癌""mucin-producing pancreatic cancer"なる語句はこの後,引用されることが極端に少なくなり,若い皆さんの記憶からも徐々に消えていくことになる.ただし,これらの変遷のなかでWHO やAFIP が行った唯一,評価できる業績は,IPMT とMCN の両者を明確に区別して記載しただけであり,このことが両者の疾患概念の混乱に終止符を打つ契機にはなった.この定義を受けて過去の症例や論文を検討してみると,本邦のみならず諸外国でも従来MCN として報告されてきたもののなかに,実に数多くのIPMN が含まれていた事実は驚愕に値する.

2000 年にはWHO 分類でもIPMT からIPMN への用語変更が行われた.これは,"tumor"には,腫瘍,つまり新生物(neoplasm)以外の病変も含まれるニュアンスがあり,それを嫌ってより厳密に新生物に限定するという意味合いがある.


おわりに

IPMN の疾患概念の提唱と初期のころの変遷を紹介した."癌研Ⅲ型膵癌"あるいは"粘液産生膵癌"として当初発表されてきた疾患が,その後には良性腫瘍の存在,IPMN の癌化,IPMN とMCN の画像診断・病理組織学的な異同,通常型膵癌の発生母地,あるいはハイリスクグループとしての分枝型IPMN,IPMN の粘液形質による亜型分類やその特徴,遺伝子変異の解析,など多くの事実が明らかとなった.また解決すべき課題としては,より確実な良悪性の鑑別診断法やAIの利用,比較的高頻度に合併する通常型膵癌も考慮したIPMN の経過観察法,本邦の実臨床と「IPMN╱MCN 国際診療ガイドライン」との整合性,などが挙げられる.

本特集には今までにわかった事実と今後の研究課題も述べられていると思う.それらを参考にこの分野での,私としては了見が狭いようにも思うが,本腫瘍に"priority のある日本人"の研究の更なる発展を期待して稿を終える.


謝辞:京都第一赤十字病院病理顧問の柳澤昭夫博士にご高閲を頂きましたことを深謝いたします


文献

1) 大橋計彦,田尻久雄,権藤守男,他:総胆管-膵管瘻を形成した膵囊胞状腺癌の1 切除例.Prog. Dig. Endosc. 17;261-264, 1980

2) 大橋計彦,村上義史,丸山雅一,他:粘液産生膵癌の4 例.Prog. Dig. Endosc. 20;348-351, 1982

3) 大橋計彦,高木国夫:ERCP と映像診断.Gastroenterol. Endosc. 22;1493-1495, 1980p>

4) 高木国夫,大橋一郎,太田博俊,他:予後の良い膵癌.胃と腸 19;1193-1205, 1984

5) 加藤 洋,柳澤昭夫:粘液産生膵癌―概念と分類.胆と膵 7;731-737, 1986

6) 山雄健次,梶川 学:ERCP の再検討.癌の臨床 29;1097-1103,1983

7) 山雄健次,中澤三郎,内藤靖夫,他:粘液産生膵腫瘍の臨床病理学的研究.日消誌 83;2588-2597,1986

8) 中澤三郎,山雄健次,山田昌弘,他:膵粘液産生腫瘍の分類に関する検討.日消誌 85;90-98,1988



山雄 健次

目次

巻頭言

1.IPMN の基礎知識

(1)IPMN の疫学と分類

(2)IPMN の病理

2.IPMN/ 膵囊胞の診療

(1)国際診療ガイドラインによる診断とサーベイランスの現状と問題点

(2)IPMN/膵囊胞に対するUS の工夫と最大活用法

(3)IPMN/膵囊胞のCT,MRI 診断

(4)悪 性IPMN とIPMN 併存膵癌の診断におけるEUS の役割

(5)ERCP によるIPMN の悪性度診断

(6)国 内外におけるEUS‒FNA の現状と囊胞液解析を絡めた診断の展望

(7)IPMN の外科的治療

(8)IPMN を含む膵疾患診療における病診連携

(9)小膵囊胞の観察法

(10)IPMN/膵囊胞はいつまで観察が必要か?

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書籍情報

  • ISBN:9784004003412
  • ページ数:108頁
  • 書籍発行日:2019年10月
  • 電子版発売日:2019年11月6日
  • 判:指定なし
  • 種別:eBook版 → 詳細はこちら
  • 同時利用可能端末数:2

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