はじめに

“Always bear in mind that your own resolution to succeed is moreimportant than any other one thing.”

— Abraham Lincoln

超高齢社会に伴い、循環器疾患が急増しており、その中でも心不全の増加は社会的な問題となってきています。心不全を中心に診療している循環器専門医だけではなく、虚血や不整脈を中心に診療している循環器専門医、さらにはかかりつけ医が対応する必要があるようになってきています。

この数年で、心不全の問題点が明らかになってきました。一つは、急性心不全あるいは慢性心不全の急性増悪で来院されるような重症心不全です。それぞれの重症度や患者背景が異なるため、シンプルなアルゴリズムだけでは解決しない場合も多いです。また、心不全の標準治療はかなり確立しつつありますが、いまだに十分な恩恵を被れない患者もいらっしゃいます。そこで重要なのは、心不全の進展抑制、増悪抑制のための併存症管理です。心房細動のような心臓由来の併存症だけではなく、慢性閉塞性肺疾患（COPD）や貧血のような心臓外併存症の管理の重要さが、近年、心不全ガイドラインにおいても強調されています。

そして、心不全患者の半数を超える左室駆出率の保たれた心不全（HFpEF）についてです。いまだ、診断にも苦慮し、治療薬もまだまだ不十分です。

このようにどんどん進化していく心不全診療を、循環器専門医だけではなく、かかりつけ医やさらには薬剤師や看護師など心不全診療に携わる医療従事者に理解していただきたいと考え、私は『心不全心機能アカデミー』というYouTube チャンネルを開設しております。

このチャンネルには、心不全の基本的な診療・治療・併存症を解説する「心不全編」、私の専門の心血行動態・心機能を解説する「心機能編」、患者向けの「患者様編」、新規心不全治療薬やガイドラインの解説を行う「TOPICS 編」、具体的な仮想症例を提示し治療方針を解説する「症例編」に加え、心不全の日本のトップランナーに心不全のお話を伺う「対談編」があります。

2023年3月、この対談編のコンテンツから「心不全・心機能アカデミーpresents トップランナーが語る 心不全診療のプリンシプル」が出版されました。そして今回、①重症心不全、②心不全の併存症、③ HFpEFについて、それぞれの分野のエキスパートの先生方にお話を伺った対談編のエッセンスを書物としてお届けすることとなりました。最新の情報をそれぞれの先生方が咀嚼し、ご自分の言葉で発信されているコンテンツは、大変興味深い内容だと思います。本書が皆様の心不全治療の一助となることを祈願いたします。

2024年2月

心不全・心機能アカデミー
大西内科ハートクリニック
大西 勝也