序

本書は皮膚付属器腫瘍の臨床と病理を対応させた図譜で，症例によっては検体の肉眼所見や割面像，さらにはダーモスコピーや超音波などの画像も加えてあります．病理組織だけでなく，各疾患の全体像を提示することを心がけました．これが本書の特色といえます．

皮膚病理については英語，日本語ともにすでに多数の優れた教本が出版されていて，筆者（大原）が皮膚科医になった頃に比べてまさに隔世の感があります．その状況の中で新たな本を世に問うのは屋上屋を架すともいえそうです．しかし，多くの教本の章立ては当然ながら汗腺腫瘍，毛包腫瘍といった疾患別，分化度別となっているので，座学で勉強するには適しているでしょうが標本を鏡検しながら診断を考えるにはやや使いづらい面が否めません．初めからある程度の診断が絞り込めていればその関連の項目にあたればよいでしょうが，見当がつかない場合には本のどこを読めば診断にたどり着けるのかがわからないからです．とくに付属器腫瘍となると疾患名が多いうえに分類法も著者によって違うこともあり，敬遠されるきらいもありがちです．

本書では診断の糸口となる所見ごとに疾患をまとめてあるので，その所見に気付きさえすればかなりの確率で病理診断に到達できるのではないかと思います．“百聞は一見に如かず”のたとえ通り，写真を見ただけでわかるような典型例に絞りましたので，“絵合わせ診断”としても役に立つはずです．ただ，病理所見の記載は簡略にとどまっています．ワインのソムリエが薀蓄を語るごとくに，微に入り細に入り組織構築や細胞形態を語る能力が不足しているからにほかなりません．

掲載した症例のほとんどは筆者の自験例ですが，担当医によって手術された例や，他病院での例もごく少数含まれています．したがって，臨床写真も少数を除いてほとんどは筆者自身が撮影したものです．病理写真については，元来の染色のばらつきや時間経過で色があせた標本もあり，満足なできばえでない場合は画像修正ソフトで加工してあります．

一般診療病院での自験例ですのですべての疾患が網羅されているわけではありませんが，顕微鏡の横に本書を常備して，日常診療の役に立てていただくことを念願しています．

本書の執筆に際して，診断の確定には東京医科大学，泉 美貴教授，日本医科大学，安齋眞一教授の助言をいただきました．また資料の収集には横内明子さん，リバーサルスライドのデジタル化には岡本竜介さんの協力を得ています．

2015年4月

大原國章