はじめに

ナース諸君！ 災害時の医療の準備はできていますか？こんなこと突然言われても……返事に困るかもしれませんね。言うまでもなく、日本は先進国の中でも特に自然災害が多発する特性を有していて、毎年のように地震や水害が起きています。医療界において、なぜ「災害対応」が注目されるのか？ なぜEmer-Logで災害の増刊号を発刊するのでしょうか。日常と異なる事象である災害の発生は、健康維持に欠かせない医療、保健、福祉サービスを止めてしまうからです。そうした意味では、2020年から拡大した新型コロナウイルス感染症（COVID-19）も災害であったといえます。1995 年に発生した阪神淡路大震災の教訓や海外支援活動の経験をさまざまに生かして作り上げてきた災害医療の体系ですが、2011年の東日本大震災や2016年の熊本地震、毎年のように発生する台風や水害の対応から得た教訓を生かしてどんどん改変を重ねられてきました。そして2024 年1 月1 日に発生した能登半島地震においても、長年において、医療、保健、そして福祉の業界において積み上げてきた災害対応のノウハウを活かして全国の看護師や医療従事者が、支援活動を実施してきました。しかし、高齢化が世界最速で進み、人口の都市部集中が加速して地方部での過疎化が極端に進む日本の縮図のような課題が見え隠れしています。将来へ向けて、新たな視点で見直していかねばならないことが多々あるように思います。

2024年8月8日には初めて、南海トラフ地震臨時情報（巨大地震注意）が出されて心配された方も多いことでしょう。この増刊号では、COVID-19 や能登半島地震の現場で起きていたこと、困っていたことなどのリアルを記載しました。現場や被災地で医療に従事するナースは、災害による「被災者」でもあります。彼ら彼女らは日常から社会構造の変化に翻弄されながら頑張っている仲間であり他人ごとではありませんよね。いつか自分がさまざまな立場で災害と向き合わなくてはならなくなる状況を想像して、準備をしてみましょう。自分が支援する立場になったとしても、支援を受ける立場になったとしても、共通の思いを胸にしっかりと持って臨める医療人でありたいものです。これって、災害に限らず私たち医療人が、「いつでもどこでも困っている人がいたら目を背けずに果敢に挑んでいく」プライドそのものですから。

阿南英明
地方独立行政法人 神奈川県立病院機構 理事長