ザトウクジラとの出会い

私は小さい頃からクジラが好きで，幼少期は何回かホエールウォッチングに連れて行ってもらい，お小遣いもクジラの保護団体に募金したりもしていました。しかし，海の上から見る景色では，クジラの背中や一部しか見ることができないこともあって，実際の海の中とは別世界で距離を感じてしまいます。妊娠中に海外で初めてザトウクジラと一緒に泳ぐホエールスイムに行ってから，なんだかクジラとの距離が縮まった気がしました。それ以降，もっと身軽に泳げる状態で見たくなり，出産後からここ数年は冬に沖縄でザトウクジラと一緒に泳ぐホエールスイムに通っています。

冬の沖縄はザトウクジラにとって交尾と子育ての時期です。人間から近づくことはできませんが，水中から見るクジラの世界は絶景そのものです。子クジラの人間への好奇心は，自分の子供が道端の虫を見つけて道草をしている様子に似ていますし，お母さんクジラと目が合うと，子育てお疲れ様とお互いに言っているような気になります。また，オスのクジラを見たり，水中で彼らの求愛の歌を爆音で聴くと，1 年間世界中の海を頑張って回遊してよく沖縄に戻ってきたね，今年も頑張っているね，と心の底から思います。

クジラだけでなく，イルカも海の中では船上や水族館で見るのとは違う景色が見られます。伊豆諸島にある御蔵島はミナミハンドウイルカのドルフィンスイムで有名ですが，海に一緒に入ると，海中で戯れている姿を見ることができます。イルカは脳の半分を眠らせながら泳げますが，そのような状況でもわが子を守って泳ぐ姿には感銘を受けます。実際，御蔵島の海にはハンマーヘッドシャークも泳いでおり，私たちの下を通っていましたし，ダルマザメの歯型がついている個体もいました。

ホエールスイムやドルフィンスイムに関しては様々な意見があり，動物に対するストレスや安全性に関して懸念する声があるのも事実です。たしかに人間の自制心・自然界と人間界の線引きが必要で，スイムを行う際はそれが徹底されています。100％合併症が起こらない手術など存在しないことと同様，海に入る時点で100％安全というのは成り立たないと思っています。しかし海の中に入って彼らの表情や仕草を観察することで，同じ生き物であることを認識でき，そして彼らへのリスペクトが強まります。

彼らも人間と同様に，家族を大切にし，友人と遊び，自分以外の生き物への好奇心をもちます。こうした特性は海の中に入らない限り直接目の当たりにすることはできません。なぜ地球温暖化を食い止めなければいけないのか，なぜ海の環境を守らないといけないのか，本を読めばいくらでも説明が書いてありますが，実際に自分の目で見ることで，より強く，海を汚したり，好き勝手に生き物の命を奪って

塚原　由佳
Yuka TSUKAHARA，University of Iowa, Department of Family Medicine, Iowa Sports Medicine