増補版発行によせて

2021年6月、世に出た本書は出版後から大変なご好評をいただき、多くの若手医師から「使える」「読みやすい」「役に立ちました」と感想をもらい、いくつかの医学書ブログで紹介をされた。

3年が経った今、世は大きく変化している。コロナ禍が過ぎ（去ってはいないが）、もと元首が撃たれ、日本人野球選手が米国で伝説を作り、戦争が始まった。

目まぐるしく変わり続けるこの世界で、それでも根底に流れる基本原則は存在する。欧州の聖書や古代中国の公子や老荘思想に例を取るまでもなく、何千年が流れても人間の本質は変わらない。

本書は、中山祐次郎という44歳・医師18年目の外科医がこれまでたくさん叱られ、恥をかいてきた苦しい経験から、「どうすれば失敗せずに済んだのか」に特化して抽出した「コンサルトの秘訣」である。私に加え、多くの友人医師が参加した本書は、各科のなかでも「コンサルトを受ける側」たる中年医師が、とっておきの情報を書いてくれた。

本書が出て3年が経った今読み返しても、何一つ色褪せることはない。当たり前である。私は友人医師たちへの執筆を依頼するときに、「10年経っても、どんな病院でも、どんな地域でも通用することを書いてくれ」と何度も伝えたのだ。各科の医師たちが体得してきたその専門知識をぐつぐつ何日も煮込んで無駄を省き、いよいよこれ以外は残らない。そんな結晶を集めて本書は作られた。

私は本書の初版「はじめに」にこう書いた。

　「本書は必ずやロングセラーになります」と。

その宣言が達成されたことにかすかな満足を覚え、すぐに打ち消した。どうしても必要な情報を、練りに練って作った本なのだ。売れるのは当たり前なのである。

さらに嬉しいことに、増補版では糖尿病・代謝内分泌科の項目を増やすことができた。これまでなんとなくオーダーしていた血糖測定、そして意識障害の患者の血糖、超高血糖や低血糖の初期治療。これらをすべて明快に答えてくれた。おかげで本書はさらに高いレベルのところに上れた。

購入したらまず一読して欲しい。3時間もかからないはずだ。そして、自科の急なあらゆる専門外トラブル、つまり胸痛、腹痛、転倒、貧血などのときに見返し、「コンサルト前、これだけは」を実施してコンサルトして欲しい。

相手の科のドクターは「こいつ、やるな」と思うであろう。そして患者へは迅速に治療を介入することができる。これもまた臨床医の実力である。

本書が、コンサルトに悩める若手医師や、コンサルト法を学びたい医学生の道を照らすものとなれば、筆者としてこれほど嬉しいものはない。

2024年9月11日

緊急手術前の医局デスクにて